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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅲ】魔界ヴァリオン/ガトレ宮殿
19/58

3-3

「‥‥眠ったか」


暗闇から姿を見せたのは、

硝子細工のように繊細な、淡いアリスブルーの男。

柱に寄りかかりながら、

ベッドに眠る娘の横顔を眺めている。


視線はそのまま、カンタレラは答えた。


「こんな事なら 最初から、此方に呼べば 良かった」

「あの方が何を考えているかは、私にも理解しかねる」

「‥‥嘘 吐き」

「最初に‥‥かの世界に彼女を置くことで、天界側に何かしらの挑発を入れたと推測している。現に天族が動いている以上、戦が始まるかもしれない。あくまで推測だが」

「あんたの推測、外れたこと ある?」

「褒め言葉として受け取っておこう」


男が音も無くベッドに歩み寄ると、

眠る娘の体を抱き上げる。

眠り続ける彼女の顔に掛かった髪を、

カンタレラがそっと耳に掛けてやる。


「何だろう‥‥すごく、懐かしいような。枯れたはずの涙が 湧いてくるような。彼女を見ていると、無い心が 擦り切れそう」

「あの方の一部から造られた我々だ。彼女に対する思慕は、あの方と少なからず共有しているはずだ」

「思慕‥‥これが‥‥」


もう一度、鼻梁に触れるだけのキスを落とす。

触れた唇が甘いような気がして、

何度でも、確かめるようにしたくなる。


遮るように、男が言葉を放った。


「向かうぞ」

「‥‥そうだね」


カンタレラは、頭に乗せた帽子から

手品の様に何かを取りだした。

分厚い書物だ。

一面に大きな魔法陣が描かれた頁を開くと、

自分の親指を噛み、出血した血を魔法陣に擦り付けた。


すると、足元に全く同じ魔法陣が現れ、

瞬く間に3人を飲み込んでしまった。


時空転移術の類いだろうか。

捻じ曲がった次元の狭間を飛んでいく。

そこには沢山の扉があって、

それぞれの扉には時計と、

出先を示しているであろう文字が刻まれていた。


魔族文字で“アルカデア”と書かれた扉の前まで来ると、

カンタレラと男は足を止めた。


「夜で いいよね」

「どうせ燃やすんだ、何でもいいさ」


扉に埋め込まれた時計を弄る。

針は午前0時を指した。

カンタレラが扉を開けると、

壊れたパズルのように次元の狭間が消滅する。


冷たい夜風が頬を撫ぜる。無数の星が廻っている。

娘を抱き抱えたアリスブルーの男とカンタレラは、

地上から遥か高い天空に浮いていた。


街明かりは遠く、聞こえるのは風の音だけ。


カンタレラは自らの掌を彼女の顔に翳す。

閉じたままだった重い瞼が、ゆっくりと花開く。


「‥‥ここは?」

「ようく、見ていて。この世界の 仕組みを」


カンタレラは手に持った分厚い書物を開いた。

描かれていたのは、頁一杯の炎の絵。

彼はその頁に対してふっと息を吹きかけた。


ちりちりと。

カンタレラの瞳と同じ濃い桃色の炎が、

街明かりの近くの木に点火した。

瞬く間に木から木へ、大地へ、隣接した街へと、

炎が巣食って行く様を、私は見せ付けられた。


「何を‥‥んむ!」

「黙って見ていろ」


私を抱き抱えている男に口を塞がれた。


街が遠のいていく。

否、私達が遠のいていっている。

やがて、大陸全体が見渡せる位まで離れると、

その頃にはもう星全体が炎の海だった。


どうして、こんなことを。

レッフェル、フォルケッタ。

レックス様、クロイツ様‥‥


自然と大粒の涙が零れた。


やがて炎は消滅し、消し炭となった星は、

砂のようにさらさらと崩れ去った。


‥‥そう、見えた。


何も無くなったその場所に、

まるで何事も無かったかのように、同じ星があった。

状況が上手く飲み込めず、私は呆然としていた。


そのままゆっくりと降下して、

最初と同じくらいの高さまで戻ってきた。


暖かな街明かりも、草木も、何一つ変わらない。

燃えてしまう前と同じ姿をした世界。

一瞬で再生したのか。


「‥‥天王という、魔王と対を成す王がいる。詳しい事は分かっていないが、天王は産まれた時から今も眠り続けているそうだ。そして、彼の見ている“夢”こそが、この世界だと‥‥あの方は仰った」

「夢‥‥」

「夢の主以外、上手く 干渉できない。世界を何度壊しても、こんな感じで すぐ戻る」

「以降は私の推測だが‥‥天王の見ている夢は、敵である“魔族”を倒し、その源である“魔王”を討滅するものだ。何か心当たりはないか」

「‥‥まるで、王道ファンタジーのような」


ズキッ。

突然の頭痛に顔を歪める。

忘れていた記憶が頭の中に流れ込んでくる。


***


じゃあ、✱✱✱が主人公だね。

僕は✱✱✱の冒険する姿を、ずっと見ていたいなあ。

僕は✱✱になって、最後に倒される役でもいいよ。

えーっ、✱✱✱に倒されるのなんて、嫌だよ。何で?

だって、✱✱✱が会いに来てくれるんだもん。

そうしたら、✱✱が✱✱で✱✱は✱✱だね――‥‥!


***


肝心な所が虫食いなのはどうしたものか。

何か思い出せそうなのにピンと来ない。


「王道ファンタジー?何だそれは」

「よくある話で‥‥主人公が、世界を冒険するの。その途中で、魔族に襲われる町を救ったりしながら、最後は魔王を倒す。そして、世界に平和が訪れて、主人公は勇者と呼ばれるようになる‥‥そんなお話よ」

「それは、“聖杯”が元いた世界ではポピュラーだったのか?」

「ポピュラーすぎの王道ね」

「ふむ‥‥」


男は考えるような素振りをしている。


と言うか、今更ながら名前も知らない男性に

所謂お姫様抱っこをされているこの状況。

何かデジャヴ。


「あの‥‥一人で立てます」

「この高さから真っ逆さまでも問題無いのか?」

「‥‥いいじゃん 下ろして やれば」

「えっ?!」

「大丈夫、僕の傍に いれば あんたも浮くから」

「ハァ‥‥」


溜息を吐かれた。

しかし、申し訳ないので降ろしていただいた。


男の姿を見上げる。

私より幾分か背の高いアリスブルーの儚げな男は、

月白色の皺一つ無いスーツをきっちりと着こなし、

逆さ十字の刻まれた方の目にだけ

ヴェネチアンアイマスクを装っている。

伏し目がちの切れ長の目が、凍てつくように冷たい。


「‥‥ああ、此奴は マスカレド って呼ばれてる」

「ヴァンパイアのオリジナルだ。ちなみに、彼はワーキャットのオリジナルだ」

「ヴァンパイア‥‥ワーキャット‥‥」

「ヴァンパイアは吸血種魔族、ワーキャットは愛玩種魔族だ。自己紹介はこの辺で大丈夫か?」

「また、何かに 気付いたの?‥‥焦ってる」

「彼女の発言が元で、な。至急会議を開きたい」

「了解。帰ろう」

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