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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅲ】魔界ヴァリオン/ガトレ宮殿
17/58

3-1

大人になったら3人で結婚しようよ。

だめだよ、1人としか結婚できないんだよ。

どうして?僕達✱✱✱のこと同じくらい好きなのに。


これは、遠い昔の思い出。甘酸っぱい記憶。

世間のことなんかちっとも考えずに、

疑問には何故と躊躇わず口にする子供達。

なんて無邪気で、残酷な‥‥。


***


優しい手が私の頭を撫でている。

寝たふりをし続けようかと思っていたけれど、

その手がずっと止まらないものだから、

私はゆっくりと目を開けた。


「‥‥おはよう」


泣きたくなるくらい酷く優しい声だ。

朧気だった視界がやがて鮮明になり、

穏やかな表情で私を撫でるセフィロトと目が合った。


視線を少し動かして辺りを確認してみると、

見たことも無いとても暗い場所。

まるで光がどこにも無いみたい。

寒い訳では無いが、空気は冷たい気がする。


私はベッドに横たわっていた体を起こして、彼を見た。


「セフィロト‥‥?ここは何処なの?」

「ここは‥‥“ヴァリオン”の宮殿。“アルカデア”と隣接した別の世界だよ」

「アルカデア‥‥?」

「ああ、さっきまでいた世界のことだよ。人界とも言う。対してヴァリオンは魔界、俺たち魔族の世界なんだぁ」


魔族。

あのセフィロトが。


‥‥でも、確かに今思えばあの時。

私たちに襲いかからなかった植物種魔族が、

何故セフィロトの言うことを聞き分けて

住処に帰っていったのか当てはまる。


けれど、魔力は感じないって言われてたから、

肌の色と耳の長さから

ダークエルフじゃないかってなったのに。


「俺はね、魔族の中でも“オリジナル”なんだぁ。オリジナルに出来ないことは殆ど無い。魔力を隠すことも、姿かたちを変えることだって‥‥ね」


しゅるしゅる。

彼から、何かが解けるような音がする。


新芽色の瞳のうち、片目にぼうっと燈が灯ると、

朧気に紋様が浮かび上がる。

逆さ十字の紋様だ。

更に猫っ毛の茶髪から蔦が伸びて絡み、

後ろに結いた三つ編みから葉が茂っていく。


変化を終えたその姿は、

人の形によく似た魔族の姿だった。


「アルラウネのオリジナル‥‥俺の真の名は“クリフォト”。騙すような真似をして、ごめんね」


私は何と答えたらいいのか分からず、唾を飲んだ。


微風すら吹かないこの暗闇で、

セフィロト‥‥否、クリフォトの髪に絡んだ蔦の葉が

さわさわと靡いている。

燃えるような濃緑色の魔力に当てられて、

命の危険すら覚えてしまう。


でも、きっと私が逃げたところでどうにもならない。

それに、私に傷一つ付けず攫ったのなら、

殺せない理由が何かしらあるはずだ。


私は、落ち着いた声色を意識して彼に話しかけた。


「私を、これからどうするつもり?」

「うん‥‥そうだよね。気になるよねぇ。でも、君が思っているとおり、君に危害を与えるつもりは、俺“達”にはこれっぽっちもないから、安心してね」

「‥‥俺“達”?」


はっとして、息を潜める。


さっきまで全然感じなかったのに、

いつの間にか私とクリフォトを取り囲むように

複数の気配がそこにある。


辺りが暗くてよく見えないが、

目を凝らして辺りをじっと見つめていると、

子供が無邪気に笑うような声が聞こえた。

足音がパラパラと重なって聞こえたかと思えば、

暗闇の中から9名の男達が姿を現した。


「きゃはは、見つかっちゃったあ」

金髪に碧眼の小柄な少年。

背中には白い翼が生えていて、まるで天使のよう。


「一見ただのヒューマンのように見えるけど、本当にこいつが“聖杯”なのかなあ?」

桃色の癖毛に黒目の、眼帯をした男。

肌の色が土気色で、死んだ魚のような目をしている。


「レディに対して失礼ですよ、腐れウサギ」

ニッコリとした糸目に白髪の男。

黒い巻角と悪魔の尻尾のようなものが気になる。


「貴様は嗅覚も腐り落ちたのか」

全身が眩いアリスブルーの儚く美しい男。

背中に蝙蝠の翼によく似た羽が見える。


「うん‥‥芳醇で甘い血の香り。間違いないね」

砂色の髪に真紅の瞳の男。

髪の中に複数の蛇を飼っているようだ。


「あぁ‥‥今すぐ喰っちまいてぇなあ!」

金色の目をギラつかせる銀髪の男。

大きな獣耳とフサフサとした尻尾が狼に似ている。


「これだから下賎なる駄犬は‥‥なんと浅ましい」

紺色の髪に薄水色の瞳の男。

肌の一部が鱗に覆われ、耳の代わりに鰭がある。


「面倒くさ‥‥帰りてえ‥‥眠ぃ」

赤髪に白目の非常に大柄な男。

頭には複数の巨大な角を持ち、気だるげだ。


「怯える必要は、無い。“聖杯”は 最初 僕が 面倒、見る」

黒髪に濃い桃色の瞳の青年。

猫のような尾を持ち、至る所にピアスがある。


全員、人間ではないのは分かった。

彼らの魔力は凄まじい。

同じ空間にいるだけで、息が詰まって死にそうだ。


「‥‥すごい冷や汗。大丈夫?」


そばにいたクリフォトが、

知らず知らず滲んでいた私の額の汗を袖で拭った。


私の様子を察したのか、

男達は1人を残してあっという間に姿を消してしまった。

残された1人は、最後に喋った黒髪ピアスの青年。


呼吸が楽になったのでふっと力を抜くと、

そのままベッドにぽすんと倒れ込んでしまった。


「悪寒がすごかったわ‥‥」

「俺達は全員、オリジナルだからねぇ。びっくりさせちゃってごめんね」

「‥‥クリフォト、あんたも 消えな」

「うん‥‥わかってる。じゃあ、後は彼に任せるから。一旦バイバイだね」


青年の冷たく放った一言に、クリフォトは頷いた。

私は再びベッドから体を起こすと、

クリフォトは私の足元に跪いて、爪先に唇を寄せた。


「なっ‥‥」

「ありがとう、一緒に居れて楽しかったよぉ」


泣きそうな顔をして微笑むと、

クリフォトの体は闇に融けて消えてしまった。

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