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あれから一週間経った。
最初は1人でいるのは危ないからと、
レッフェルが依頼に連れていくと言ってくれたが、
流石に足手まといなので待っていると断った。
マカロンは半日に1つちゃんと食べているし、
国の中なら安全でしょう?と。
最初はなかなか首を縦に降らなかったが、
フォルケッタの提案で、
クロイツの仕事を手伝うことを条件に出された。
それなら‥‥としぶしぶレッフェルは承諾した。
クロイツは嘗てレックスと共に冒険をしていた1人で、
儚げな見た目と裏腹に魔法のスペシャリストだ。
彼女の元で働けばまず安全であろうとのこと。
ついでに魔法も習ってみたら?とフォルケッタに言われ
一週間彼女の元で魔法の練習を続けていたのだ。
「エーテルは感じられるようになりましたか?」
「はい!」
魔法を使うには、“エーテル”が必要らしい。
酸素のように空気中に含まれ、
呼吸と共に体内に取り入れる。
エーテルは貯められる量に限界値があって、
それを超えると知らない内に体外へ吐き出される。
種族によって限界値は大幅に異なるが、
限界値までエーテルが溜まる速度は
どの種族であろうとも約5分間くらいだそうだ。
ただし、水中や高山などは酸素が薄く、
いつもよりエーテルを貯めるのにも時間がかかる。
エーテルの摂取速度や限界値を強化する
魔法なんかもあるらしい。
溜まったエーテルは魔法を使わない限りは
そのまま体内に保存される。
エーテルが空になると魔法は使えなくなるが、
命に関わるようなことはない。
この世界に来た時から、空気が美味しいと思った。
微かに甘いような、澄み渡る爽やかさというか、
その味わいがエーテルなのだと知った。
「エーテルって美味しいですね」
「あらあら‥‥食いしん坊さんですね。エーテルに味があるなんて、初めて聞きましたよ」
はぁ!女王様が笑った。まるで花が綻ぶような笑顔。
女王様は生まれつき脚が弱いそうで、
魔法で地上から少し浮いている。
地下の稽古場に案内してくれて、
ずっと私に寄り添って指導してくれていた。
「エーテルの味‥‥香り?なのかは分からないのですが、人によって少し違く感じます。レッフェルのそばに居ると、ひんやりとして涼し気な香りがします。女王様は、花の蜜のような優しい香りがします」
「まあ‥‥属性によって、味も変わるのでしょうか。エーテルは体内に含まれると、その者の属性に変換されるのです‥‥レッフェルは水風属性で、わたくしは草属性なのですよ。ヒトは皆それぞれの属性があるのです」
「血液型みたいな感じでしょうか?」
「血液に形があるのですか‥‥?貴女の元いた世界は、面白い場所なのですね」
なるほど。
こちらの世界には血液型がない代わりに、
属性があるそうです。
「魔法にも属性があります‥‥基礎的な魔法には属性がありませんが、強力な魔法には必ず属性があります。稀にレッフェルのように、二つの属性を持って生まれる子もいるのですよ」
「ふむふむ、だから名誉冒険者に?」
「それも多少はありますが、誰よりも彼は努力していた‥‥複数の属性を持つ者は、それを使いこなすために常人の倍は努力せねばなりませんので」
「なるほど‥‥」
「努力次第では自分の属性以外の魔法も使えるようになります‥‥ただし、威力は落ちます」
エーテルと属性については何となく理解した。
あとは、それを体内に蓄積する練習だ。
ダークエルフは取り込んだエーテルを
エナジー(筋力増幅)に自動変換する特性があるが、
エーテルが空気内を漂うこの世界では
ダークエルフ以外の誰もが魔法を使うことができる。
私にも、チャンスは十分にあるとのことだ。
多少魔法が使えるようになれば、
今よりもっと皆の役に立てる。
もしかしたら、魔法で元の世界に帰れるかもしれない。
途方も無く情報を集めるよりも可能性があるわ!
「あの、異世界に転移する魔法ってあるのでしょうか?それで元の世界に戻れるかと思いまして‥‥」
「無いわけではありませんが‥‥貴女の元いた世界の詳細が分からないと、難しいですね。貴女自身の記憶のみが頼りですから、本人が転送魔法を使うのが確実です。情報が不確かな場合、瓜二つの別世界に辿り着くか、世界の狭間に迷い込む可能性がありますから‥‥」
「世界の狭間に迷い込むとどうなりますか?」
「進むことも戻ることもできないまま、留まり続けて衰弱死‥‥が妥当でしょうね」
「う、分かりました。魔法の練習、頑張ります‥‥!」
魔法の稽古を終えると、私は針子の手伝いに戻る。
(学校で専攻していたため得意だった)
この世界でもオシャレの価値観はあって、
大抵の冒険者はガチガチの鎧をステータスはそのままに
魔法で見た目をオシャレな洋服に変えているらしい。
なので、オシャレ装備は冒険者にも人気だとか。
周りのお手伝いさんに服装を褒められたので、
いつか自分のデザインした洋服を誰かに着て欲しいわ。
夜は宿に戻って、
レッフェルとフォルケッタのお夕飯を準備する。
皆で私の部屋に集まって、
今日はどんな依頼をこなしたとか、
こんな場所へ行ったのだとか、2人の話を聞いた。
そんな毎日が暫く続いた。




