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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅱ】イズムルート王国
13/58

2-5

もう何年前も出来事。

幼い私は、泣きじゃくる2人の手を引いて、

2人を虐めた子のいるクラスまで殴り込みに行ったっけ。


当時、男の子よりも気が強かった私は、

2人が虐められたと聞いた時、

誰よりも怒って、誰よりも先に行動してしまった。


虐めた子達が複数人に対して、

私は1人でボロボロになるまで相手を叩いた。

〇〇と〇〇が何したの!?2人に謝れ!!

なんて、怒鳴り散らしていたのよね。


結局、私だけが怒られたけれど、

その後、2人は虐められなくなったと聞いた。


もう名前すら覚えていないけれど、

3人で作った歌は覚えている。

タイトルはないけれど、忘れられないあのメロディー。


***


「‥‥ぁ」

「‥‥!!ごめ、ごめんなさいぃ‥‥俺っ!」


気が付くと私は、宿屋のベットに寝かされていた。

すぐ隣では心配そうにセフィロトが

私の顔を覗き込んでいた。


懐かしい夢を見ていた気がする。


冷水で濡らしたタオルだ、冷たくて気持ちいい。

彼が介抱してくれたのだろう。


ちゃっかり服も着せられていた。


「此方こそごめんなさい‥‥介抱ありがとうね」

「ううん、全部俺のせいだから‥‥ぐすん」

「馬鹿ね‥‥全部は違うでしょう、どうしてすぐに全部背負ってしまうの」


涙ぐんだ彼の目元を親指で拭う。

きょとんとする彼の表情が何だか愛くるしくて、

おかしくなって笑ってしまった。


「今日はもう寝ましょう‥‥セフィロトも、自分の部屋に戻らないと、レッフェルやフォルケッタにどやされるわよ」

「‥‥ぅん、わかった」

「しょんぼりしないの。明日、一緒にイズムルートを回りましょう?」

「‥‥うん!わかった!」


元気よく自室に帰っていくセフィロトを見送ると、

私は部屋の灯りを消した。


***


「結局、“聖杯”は見つかったのかい?」

「見つかったよぉ‥‥ただやっぱり、“白百合”の刻印があったんだよねぇ‥‥」


「ほう‥‥天族が動いたか」

「まだ想定内ですがねぇ‥‥」


「白百合は消えかかっていたし‥‥恐らく、天族が直々に刻印したものじゃあないよ」

「天族に隷属しているヒトの仕業じゃねーの?」

「憑依、の可能性が 高い。隷属だけで 光属性は ヒトごときに 扱えないから」

「ヒュー!相変わらずエグいことするねぇ」


「天族など今は眼中に無い、奴らに構うな。貴様は“聖杯”を必ず手に入れること‥‥良いな?」


***


次の日、4人でイズムルート内を散策した。

レッフェルの案内で回ったのだが、

その‥‥住民たちの視線がとてもとても痛い。


何でも、レッフェルとフォルケッタには

それぞれのファンクラブなんかがあるそうで。


エルフ族は極端に女性の出生に偏り、

数少ない男性はほぼ持て囃されるそうだ。

背も高いし、顔も異次元レベルだものね。

エルフ、恐るべし。


逆に、ダークエルフ族は男性比率が高く、

女性慣れしていない傾向がある。

フォルケッタのファンクラブが出来たのも

レッフェルと行動するようになってからなんだって。

今でもファンクラブの扱いに困っているみたい。


私は小さくなって3人の後ろを歩いた。

レッフェルは気を遣って

なるべく私を背中に隠して歩いてくれた。


「すみません、先に説明しておくべきでしたね‥‥」

「いいの、気にしないで」

「はぁ~女って本当訳わかんない‥‥ピーチクパーチク煩いだけなんだけど」

「俺は羨ましいけどなぁ‥‥」


ある程度地理を把握したところで、

レッフェルとフォルケッタは依頼を受けて

国外の方へと向かった。


今日の分のマカロンと預けていた文書を受け取って、

人気の無い木の幹に腰を賭ける。


戦えないセフィロトも一緒にお留守番だ。


「その本は‥‥?」

「異世界から飛ばされてきた人達の情報が纏められた文献よ。参考になるかと思って」

「異世界から飛ばされてきたの?」

「ええ。前に、レッフェルが私を訳あって魔法が使えないって言ってたでしょう?その訳ってつまりそういうことなの」


文献と言っても、例が少なすぎる。

じっくり読んでも10分足らずで読み終わってしまった。


物質を転送する装置を開発したが失敗して‥‥

テレポート魔法の場所指定に失敗して‥‥

異世界からの召喚魔法で間違えて呼び出して‥‥


どれも、私の元いた世界ではありえない。


「‥‥帰りたい?」

「そうね。帰れなかったら騒ぎになっちゃうし、私が居なくても月々のあれこれ払わなきゃ行けないし、仕事だって」

「ねぇ‥‥本当に、自分の意思で“帰りたい”の?」

「‥‥せふ、」


唇に、柔らかい感覚。触れるだけのキス。

彼は瞳に悲しみを溜めて、私の肩を抱き締めた。


「俺‥‥君のこと、好きみたい。ねぇ、置いていかないでよぉ、‥‥きっと、レッフェルも、フォルケッタも、君のこと‥‥」

「だめ‥‥」

「本当は君は、この世界に浸っていたい‥‥心の内でそう願ってる。あの世界で‥‥“また”無駄に時間を消費していくの?」

「やめて‥‥!」


思い切り、ひっ叩いてしまった。

泣き虫な彼のことだ、すぐ泣きじゃくり始めるだろう。

はっとなって謝ろうとしたが、

気付いた時にはもう、彼はどこにも見当たらなかった。


夕方になっても、セフィロトは帰ってこなかった。


依頼を終えたレッフェルとフォルケッタに

どうしよう、私彼を怒らせたかもしれないと

切羽詰まって相談してみたものの、

レッフェルは大丈夫ですよと私を宥め、

フォルケッタは彼に対する悪態を吐いていた。


夜になった。

私は宿屋のキッチンをお借りして、

4人分の食事を用意した。

けれど、いくら待ってもセフィロトは帰ってこない。


「‥‥そんなに落ち込まないでください。僕まで悲しくなってしまいます」

「あいつが居なくなるって分かってたら1人にしなかったのに。何も無かった?」

「‥‥うん、大丈夫よ。‥‥ごめんなさい」

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