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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅱ】イズムルート王国
12/58

2-4

イズムルートの宿屋は、一人部屋だった。

鈴蘭の花に似た(かなり大きいけれど)植物が

そのまま宿屋になっていて、

茎の中を梯子で上れば、花の部分が個室になっていた。


一つ一つの部屋にお風呂があったので、

今夜はゆっくり湯船に浸かることにした。


「はぁ‥‥きもちい‥‥」


一人用のバスタブはコンパクトだが、

脚が伸ばせるくらいには奥行きがあった。

白い花びらを浮かべたエメラルドグリーンのお湯は

疲れた体に染み渡り、思わず感嘆の吐息を漏らした。

目を閉じて、バスタブに体重を預ける。


湯船に浸かると、歌いたくなるのよね。

部屋の外に聞こえないように、小さく口吟む。


幼い頃、誰かと歌った名も知らぬ歌。

リズムが心地好くて、

お風呂に入ると私はよくこの歌を歌う。


コンコン。


不意打ちで扉をノックされ、

慌てて水しぶきを上げながら飛び上がってしまった。

個室のはずなのに、一体誰?!


「あ、あのぉ‥‥俺、です。1人は心細くて‥‥お風呂、一緒に入っちゃ駄目‥‥?」


今にも泣きそうなセフィロトの声だ。

私ったら、個室の鍵を閉め忘れたのかしら。


一緒に入ってあげたいのはやまやまだけど、

彼は仮にも男性だし(弱々しいけれど)

レッフェルにも少しは警戒するよう

反省しなさいって言われたし、どうしましょう。


「ごめんなさい‥‥セフィロトは男の子だから、ちょっと恥ずかしいかな」

「ふ‥‥ぅう、どーしても駄目‥‥?最初で最後にするからぁ‥‥寂しくて怖くて死んじゃうよぉ‥‥」


ああ。

そうよね、知らない土地は不安よね。

私も最初そうだったもの。

彼は気が弱いから、私よりもっと怯えているはず。


出窓のスペースに積まれたバスタオルを1枚取って、

体に巻き付ける。

ちょっとお行儀悪いけど、仕方ないわよね。


「今日だけよ。おいで」


恐る恐る扉が開かれた。

泣きじゃくって目元が赤くなったセフィロトが

少し申し訳なさそうに俯いて此方へ入ってきた。


う、やっぱり緊張してしまう。

冷静に、冷静に‥‥。


セフィロトが遠慮がちに私に抱きついてきた。

少し震えている。

優しく頭を撫でて、風邪をひいてしまわないように

湯船に浸かろうと促した。


一人用のバスタブに二人で入ると、

お湯が溢れだしてしまう。

狭くて肌が密着してしまうので、

極力彼が苦しくないように身を端へ寄せた。


「苦しくない?」

「ん‥‥大丈夫‥‥あったかい、ね」


私が彼から身を離しているのに対して、

彼は此方に体を預けている。

私の努力は一体‥‥。


はたと、セフィロトが私の鎖骨の

文様に気付いたようで、まじまじと見つめてきた。


「あ、これは‥‥」

「‥‥“白百合”だぁ」

「これが何かわかるの?」

「ん‥‥とね、闇属性の魔法から身を守る、光属性の刻印だよ。あくまで魔法から身を守るだけであって、物理攻撃とかは普通に食らっちゃうけどね‥‥」

「ほお‥‥」

「でも、力が弱まってきてる‥‥この刻印が消えたら、女王様に入れ直してもらうといいよぉ」

「王様なら誰でも出来るの?」

「うん‥‥かなり魔力を使うから、お気に入りのヒトにしか施さないみたいだけれどねぇ‥‥」


くすくすと意味深な笑みを浮かべるセフィロト。

先程まで涙ぐんでいた姿は何処へやら。


「ねぇ‥‥ココに、キスされたのかなぁ‥‥?随分欲深い王様なんだね‥‥」


するり、鎖骨を彼の指が這う。

熱を孕んで見える彼の艶かしい視線が私を捉えたとき、

似たような表情をしたレックスを思い出した。


途端に、顔が熱くなる。


「な‥‥んで」

「何でって‥‥発動はキスが条件だし?」

「ねぇ‥‥もういいでしょう?離して?」

「王様は良くて、俺はダメ‥‥?俺の事‥‥嫌いなの?」

「そんな事ないけれど‥‥でも」

「じゃあ、もっと触っても良いよね‥‥?」


やばいやばい、目が本気。

普段あんなに弱気で泣き虫なセフィロトが、

こんなにも力が強かったなんて。


我に帰って暴れてみたものの、

狭いバスタブにぎゅうぎゅうに詰め込まれているし、

上手く身動きが取れない。

そんな私を挑発しているのか、

水を蹴りあげた足を捕まれ爪先にキスをされた。


もはや半泣き、お手上げだ。


「あ、あまりお姉さんをいじめないで‥‥?」

「そんな可愛いこと言われたら、もっと意地悪したくなるよぅ‥‥?指の隙間、弱いんだね」

「や、やだぁ」


思考回路がショート寸前、心臓がパンクしそう。

‥‥あら、頭がふわふわしてきたような‥‥?


途端に慌てたようなセフィロトの表情を最後に写し、

私の視界はシャットダウンした。


幸か不幸か、逆上せてしまったようだった。

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