2-2
「わあぁぁぁぁあん待ってよぉ~!!俺を虐めないで、俺は惰弱で不甲斐のない弱者なんだよおぉ‥‥っ」
2人は剣を振りかざしたまま、
地べたを這って泣きじゃくる男の子に視線を下ろした。
栗皮色の癖のある長髪に、
長い前髪で隠れ顔はよく見えない。
褐色肌で耳はやや小さいが尖っている様子から、
恐らくはフォルケッタと同じ
ダークエルフではないかと思われた。
レッフェルは剣を鞘に収め、
フォルケッタは抜刀したまま男の子を踏んずける。
「やめて気色悪いダークエルフの恥晒し」
「わぁぁぁぁん、痛い、痛いよぉぉ‥‥!」
「ちょっとフォル、目がイってるから落ち着いて!」
暴れるフォルケッタをレッフェルが抑えた。
鼻を啜って泣いているダークエルフの彼に近寄り、
服の砂を払って顔の土を拭ってやる。
長い前髪の隙間から、若芽色の潤んだ瞳が覗いている。
「こんにちは。貴方、こんな森の中で迷子かしら?」
「ひっぐ‥‥うん‥‥そうなの」
「あら、前髪が目に入っちゃってるわ。痛いでしょう?ごめんなさい、胸元のリボン借りるわね」
胸元のくちゃくちゃになったリボンを解き、
前髪を上げてカチューシャのように結ってやると、
端正な顔立ちが顕になった。
どちらかというと美少年系の儚げな顔立ちだ。
長い睫毛に涙の雫が乗っている。
「お姉さん、ありがとお‥‥!」
にっこりと笑う彼の笑顔が眩しい。
レッフェルといい、フォルケッタといい、国王様といい
この世界にはイケメンが多すぎる気がするわ‥‥。
なんて考え事していたら、頬に柔らかな感覚。
ダークエルフの子が、私の頬にキスをしたようで。
でも何だろう、パッと見歳下だからかしら?
微笑ましいなぁという感想であまり恥ずかしくない。
「あんたマジでブッ●す!!僕の大剣で三枚おろしにしてやるからそこに直れよ!!」
「貴女も初対面の男に気を許しすぎですよ。少し反省なさってくださいね」
珍しくレッフェルまで怒っていらっしゃる。
確かに子供っぽいとはいえ彼も男性だものね。
素直に謝って、2人をなだめた。
フォルケッタが落ち着く頃、
ダークエルフの男の子が自分のことを話し始めた。
彼の名前はセフィロトと言う。
気が付いたらこの森で迷っていたそうだ。
レッフェル曰く、彼からは魔力が感じられないそうで、
ダークエルフであることは半ば確定した。
(フォルケッタは心底嫌そうな顔をしていた)
エルフとダークエルフは似ているが、
エルフは魔力に秀で魔法の扱いに長けており、
ダークエルフは魔力を持たず密度の高い筋肉を持つ。
その為、戦い方がまるっきり違うのである。
「俺、昔から弱くって‥‥ずっと虐められていたんだ」
「努力しなよクズ」
「言い方が酷いよぉ‥‥うぅっ‥‥」
「大人気ないですよフォル、少しはオブラートに‥‥」
「まだ大人じゃないし僕」
「エルフやダークエルフの中では若くとも僕達は他の種族から見たら中年ですよ」
えっ。一体何歳なのかしら。
同い年くらいかなーなんて勝手に思っていました。
離れててもせめて2、3歳くらいかと‥‥。
「内緒です」
私の心の声に気付いたのか、
レッフェルが唇の前に人差し指を立ててウィンクした。
***
そのまま4人で焚き火を囲うように夜を過ごした。
朝、目が覚めると
レッフェルが朝ご飯の支度をしていた。
昨晩は暗くてよく見えなかったけれど、
泉の畔は色取り取りの花が沢山咲いていて、
七色の絨毯のようだ。
そんな花の中に埋もれて寝息を立てるセフィロト。
何故かそのまわりに集まる動物。
彼の頭には小鳥が数匹、鼻先には蝶、
お腹の上には栗鼠や兎などの比較的小柄な動物達、
その周りに鹿や狐などの生き物が集まって、
彼を慈しむように囲っている。
「魔族以外にも普通の生き物もいるのね」
「ええ、勿論。魔族でない動植物も沢山いますよ」
おはようございます、とレッフェルが
私に暖かなスープの入ったカップを差し出した。
お礼を言って、一口いただく。
野菜の旨みに香辛料の効いたスープだ。
とても温まる、優しい味。
美味しいと伝えるとレッフェルは嬉しそうに笑った。
「そういえば、フォルケッタは?」
「食材を探しに。そろそろ戻るかと思います」
「じゃあこれからの調理と後片付けは手伝わせてね」
「そんなお気になさらなくても‥‥でも、助かります。ありがとうございます」
その後すぐフォルケッタが帰ってきた。
沢山の果実や野菜を籠いっぱいに抱えてきて、
私とレッフェルで切ったり焼いたり。
初めて見るものばかりだけど、
だいたい元の世界にあるものと似てるもので、
味もそんなに奇抜なものはなかった。
ご飯がある程度出来上がった頃、
セフィロトは大きく伸びをして起き上がった。
彼が起き上がると動物たちは姿を消した。
「動物に好かれているのね」
「ん、俺も動物好きだからね‥‥わぁ、いい香り」
「あんた手伝わなかったからご飯抜きね」
「まあまあそう言わずに」
何だかんだで4人仲良くご飯を平らげ、
食器を片付けて出発の準備をする。
さっき気付いたのだけれど、
レッフェルは魔法が使えるので
食器などの荷物を別空間で保管しているみたい。
魔法って本当に便利ね‥‥。
大量のマカロンと借りた文書も
レッフェルが一緒に預かってくれた。
どこでもすぐ出せるから安心して下さい、なんて
まるで四次元ポケットのようだわ。