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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅰ】エーデルシュタイン王国
1/58

1-1

生き血を吸ったような深い紅の蕾が綻ぶ様は、

まるで肉食獣が大きく口を開き

獲物をいざ喰らわんとする姿によく似ているもので、

美しさに見惚れて‥‥と言うよりかは

恐怖に腰を抜かして、私は微動だに出来ずにいた。


***


「ふあー、疲れたわ‥‥」


私の名前は狩珠めあり、一人暮らしの社会人だ。

仕事は服飾デザイナーだが、

まだまだ新米のため

基本的に先輩や上司の手伝いが主な業務。


小さい頃から可愛い洋服が大好きで、

中でもワンピースがお気に入りだった。

大人になった今でもワンピースはよく着ている。

(洗濯物が少なく済むのも好きなポイント)


今日は金曜日。

土日休みのお仕事なので、明日から二連休!

金曜日にはちょっとしたご褒美を自分にあげるのだ。


私は冷蔵庫の中からボルドーのボトルを出し、

棚から薄いワイングラスをかっさらうと、

連勤でくたくたになった身体をソファに沈めた。


(ん~っ、染み渡る~♡)


真紅のワインが乾いた喉を潤して、

疲れた肉体を癒し、程よく酔わせてくれる。

感嘆の吐息を漏らし天井を見上げた。


いつか自分のデザイン案が採用されたらいいな‥‥

なんて妄想をしていたら、スマホのバイブが鳴った。


画面越しに、今日はあなたの誕生日です、の文字。

すっかり忘れていた。

子供の頃は、学校の友達が前もって

プレゼントは何がいいか聞いてきたりしたものだから、

自分の誕生日が楽しみでもあったのだけれど。


友達だった子達はそれぞれ別の道を歩み、

今はもう連絡すら取っていない。

取ろうと思えば取れるのだろうが、

お互いに忙しい手前なかなか踏み出せずにいる。

社会人ってそういうものなのかな。


スマホの画面を消して、ワインの味わいに浸る。

さて、そろそろお風呂に入らなくちゃ。

ソファから立ち上がって、脱衣所へ向かう。

アルコールが回ってきたのか、

洗面台の鏡に映る自分の姿がやけに朧気だ。


鏡にぼんやりと、赤いものが見える。

血‥‥?

眉間に皺を寄せて、まじまじと鏡を見つめる。


少しずつ鮮明になる視界。

真っ赤なワインに瓜二つの、真っ赤な一対の瞳。


勢いよく振り返るが、誰もいない。

鏡に映る赤い瞳は、よく見れば自分のものだ。

嘘だ。

私は純粋な日本人で、髪は染めて薄茶色だけれど。

瞳は落ち着いたブラウンだった。

こんな、アニメみたいな赤い色じゃなかった!


‥‥ああ、酔っ払っているのかしら。きっとそうね。

今までどんなに強いお酒を飲んでも酔わなかったのに、

今更酔うなんて不思議。


酔ったままお風呂は危険だし、

少しベランダで夜風でも浴びようかしら。

なんて思っていたのに、

鏡の向こうの私じゃない私は妖しく微笑んで、

私に手を伸ばし、温もりの無い掌で私に目隠しをした。


***


目隠しが解かれた時、

私は見知らぬ平原に置き去りにされていた。


「ここは‥‥?」


どこまでも広がる草原、

鮮やかな青い空、どこからとも無く小鳥の囀る音。

遠くに街らしきもの見えるが、

見たことの無い建物ばかり。

とにかくあの街に行って、

此処が何処なのか誰かに尋ねなくては。


歩きだそうとした瞬間、

右脚が何かに縺れて派手に顔面を地に打ち付けた。


「いたぁい!」


顔を上げると、

そこには見たことも無い植物があった。

さっきまで何も無かった場所なのに‥‥。


真紅の大きな蕾を携えた植物から、

うねうねと触手のような蔦が伸びてきて、

私の右足首に絡みついていた。

まるで生きているかのように、頻りに動いている。


頭がクラクラするくらい甘い花の香り。

ゆっくりと、蕾が花開いていく。


生き血を吸ったような深い紅の蕾が綻ぶ様は、

まるで肉食獣が大きく口を開き

獲物をいざ喰らわんとする姿によく似ているもので、

美しさに見惚れて‥‥と言うよりかは

恐怖に腰を抜かして、私は微動だに出来ずにいた。

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