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第9話

 夫の野村雄との手紙のやり取りに、最低でも4か月は掛かる。

 この現状は、お互いの想いのすれ違い、現実とかみ合わない手紙のやり取りを誘発していたことに、私は後で気づいた。

 勿論、大正時代のこの当時では、それが当たり前なのだが。


 1918年の春頃、夫の雄は、日本海兵隊員の一員として、イタリアからフランスへと移動しつつあった。

 とは言え、チロルでの大損耗や戦車の大規模な導入もあり、少し閑というか、余裕があり、色々と想い、考えを巡らせる時間が、夫にはあったらしい。


 私の父、岸三郎は、私のそれとない頼みもあり、ジャンヌ=ダヴーが、夫の雄と密会等をしないように監視の目を光らせていたらしい。

 だが、それにも限度がある。

 夫の雄は、親友等を通じて、ジャンヌがアランを産んで、独りで育てている現状を把握してしまった。


 そうなると、アランだけ認知せずにいることを、雄は心苦しく思い出したらしい。

 他の3人はきちんと認知している(細かいことを言えば、私は正妻なので、私との間の子、総司を夫は認知する必要が無いが。)ことを考えると、アランも認知したいという想いを雄はしていた。

 しかし。


 私や父は、それに猛反対していた。

 そもそもジャンヌは街娼であり、(私は雄の子なのを裏では確信しているが)アランが金髪碧眼であることから考えても、他の男の子の可能性が高い。

 何で、そんな誰の子とも分からないアランを雄が認知して、野村の家(戸籍)に入れて、日本人にしないといけないのか、という理屈である(この当時は出生後であっても、父が認知したら、日本国籍を子は取得できた。)。


 雄は戸主なので、強行突破と言うか、独断でアランを認知して、野村の家に入れることは、当然のことながらできるが、上官(それも将官)である私の父の意向に反して、そこまでの決意を、この当時の雄はできなかったのだ。


 それで、雄は父の説得に努めると共に、私に手紙で認知を認めてほしい、と更に書いてよこしていた。

 そして、その手紙を何度か読む内に、私はあることが気になった。

 ジャンヌの態度である。

 ジャンヌは、雄と直接に会っておらず、雄に認知を求めていないようなのだ。

 一人で考え込むのには限度がある。

 私は裏事情も知っている村山愛と話し合うことにした。


「普通に考えたら、やはりジャンヌはこの世界に来ていないってことかしら。もし、来ていたら、絶対に雄にアランの認知を求めて、雄に会いに行くと思うけど」

「澪じゃなかった忠子さんのお父さんの監視の目が厳しいから、警戒しているのでは」

「でも、完全に監視の目が行き届くわけじゃない。実際、手紙のやり取りを密かにやっている気配はある。会いに行く試みもしない、というのが、引っかかるのよ」

「別れがつらくなるから、会いにいこうとしないとか」

「うーん。何だか考えるほど、深みにはまるわね」

 私達は考え込むしかない。


 ジャンヌに会えば、カマをかける等して、この世界に来ているのかどうか、私達に分かるのだが、この世界では平時であっても欧州まで行くとなると、行くだけでも数か月掛かりだ。

 それに加えて、今は戦時中、私達二人は共に乳飲み子、幼子を抱えていては、欧州に行ける訳がない。


 私が冷静に考えれば単純な話だった。

 お互いに忙しすぎて、会いに行くどころではなかったのだ。

 雄には日ごろの訓練、部下の指導等々といった任務があり、ジャンヌは海兵隊病院での雑役婦という仕事を抱えている身だ。

 それにジャンヌにはアランを安心して預けられる親戚などいない。

 アランを連れて、ジャンヌが雄に会えば、すぐに周囲の目に留まってしまう。

 そういったことから、ジャンヌは雄に会おうとしていなかっただけだった。

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