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第6話

 その後は、私が完全にその場の主導権を握って、話が進むことになった。


 何しろ、篠田家は、りつの自爆発言で、形勢が一遍に悪くなっている。

 私は真実を暴露することにし、りつから雄を誘った、りつの側の責任が大きい、とりつを弾劾し、りつは返す言葉が無い有様だった。

 何で私が知っているのか、という篠田家からの辛うじての反論には、村山キクから聞かされた、と私はシラを切り続けた。

 キクのことを、この世界の篠田家の面々は、当然のことながら知らない。

 だから、どこまでのことを私が知っているのか、りつを始めとする篠田家は暗中模索の有様だ。


 そして、篠田家の面々が、顔面蒼白の有様で帰宅した後、私は野村の本家の面々とあらためて、キクとその子の幸恵の事情を話せる範囲で、少しでも野村家の気が軽くなるように内々の話をした。

 雄が、私との縁談が本格化した頃に、当時、芸者だったキクと遊び、それで、キクは妊娠したこと。

 キクとしては、雄が出征した後で妊娠に気付き、雄が戦死するものと想い、独断で産んだこと。

 だが、実際に産み育てようとしたら、生活に困ってしまい、思案にあぐねて、私を訪ねて来たこと。

 野村の本家の面々は、その言葉を聞いて、少し気が軽くなったようだった。


 余り褒められた話ではないが、若い独身の海兵隊士官が芸者遊びをするのは、よくあることだ。

 それで、思わぬこと、相手の芸者が妊娠することも、時として起こる。

 こういう場合、芸者は男性に相談するものだが、男性が出征中という事情がある。

 だから、独断で産んだ、というのであり、野村の本家に責任はない。


 野村家は、私がキクの話に疑念を覚えていないことに、少し違和感を覚えたらしいが、私は横須賀ではキクが嘘を吐くような芸者ではない、とよく知られている、ということで何とか誤魔化した。

 そして。


 この後、私は3日程、会津に腰を据えて、後工作に専念し、りつが嘘を吐いていたことを暴露する、と裏で言って、篠田家と野村の本家を強引に和解させた。

 その際に、篠田家に味方していた会津の人達に裏事情を明かせる範囲で小出しに情報を流した。

 彼らにしても、裏事情を知り、私が赦すと言っているのに、それ以上は煽る必要もない。

 そのために、野村の本家は離散せず、会津に残れることになった。


 だが、問題は篠田家だ。

 私が去った後、篠田家に話を蒸し返され、嘘の噂がまた流れてはかなわない。

 私は熟慮した末、篠田家に横須賀に来てもらうことにした。

 危険な物事は、目の届く所に置いておくに限る。

 しかし、そうなると。


「いやいや、心の広い奥様で」

「嫌みなことを言うわね」

 横須賀に還って早々、村山愛に、私は揶揄された。


「だって、そうでしょ。夫の浮気相手の女性の一家の住まいから、就職先まで世話をしようと言うのだから。しかも、臨月の身で。ま、厳密に言うと、浮気は結婚前だけどね」

 村山愛は、半ば呆れているようだ。

 うん、私も本音では、こんなことしたくない。

 でも。


「いきなり、会津から横須賀に出て来て、住まいとか、就職先がある訳ないでしょ。かと言って、会津に篠田家を置いて置いたら、また、野村の本家がトラブルに巻き込まれかねないもの」

「確かにねえ。野村の本家が、千恵子の養育費をたかられるとか、あの篠田りつの性格からありそうだし」

 私の言い訳を聞いて、愛は納得した。

 念のために言うと、りつの本来の性格は悪くない、と生まれ変わりの土方鈴を見ても分かる。 

 ただ、雄に自分が捨てられたのが納得いかず、ある意味、りつは八つ当たりをしているのだ。


「ともかく、雄に連絡の手紙は書いたわ。幸恵と千恵子を認知させて、養育費を送ってもらわないと」

 私は更に前を向くことにした。

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