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第5話

 取りあえず、会津の野村の本家に、明日、急に訪問しないといけない用事が出来た、詳細は逢って話します、と書いた電報を私は急きょ打った。

 世界大戦の真っ最中とはいえ、戦禍が広まっているのは欧州であり、表向き日本は平穏そのものだ。

 だから、横須賀から会津に行くのには、列車を使えば、何の問題もない(筈だった)。


 この世界で目覚めた翌日、私は朝食を食べて、臨月の身で列車に乗る羽目になっていた。

 この世界の母は、私の身を案じて同行したがったが、私は断った。

 同行されると、私の言動に、母は絶対に不信感を覚えるだろう。


 幾ら大正時代当時とはいえ、横須賀を朝に出れば、夕方には会津若松にたどり着く。

 もっとも、この時代の時刻表を見て、自分で旅行計画を立て、切符を買う、という必要がある。

 21世紀にネットで旅行計画を立てるのに当たり前に馴染んでいた私は、昔の旅行計画の立て方って、こんなに面倒だったっけ、と嘆く羽目になった。

 更に乗車した後の蒸気機関車のばい煙にも、私は泣きたくなった。

 こんなに蒸気機関車の煙は、煙いものだったっけ?

 21世紀の電車の有難さを、私はあらためて感じながら、会津若松にたどり着いた。


 会津若松駅に私は着いて、人力車で野村の本家へと向かった。

 電報が着いて、すぐに私が到着したような感じだったらしい。

 だから、野村の本家は取り散らかり、私を迎えられる有様では無かった。

 更に、野村の家の中からは怒号までも聞こえる。


「ともかく何らかのケジメを付けて下さい。娘が父無し子を産む事態になったのです」

「まさか、息子がそんなことをするとは、本当に申し訳ない。でも、信じられないのです」

 声からすると、私の義父、雄の父が、篠田りつの父に責められているらしかった。

 私は、無言で家の中に上がり込み、いきなり修羅場に乗り込んだ。

 幸いなこと(?)に、篠田りつまでいる。

 その場にいた全員が、いきなり乗り込んできた私に注目した。


 りつは、私を見ても感情が動く気配が無かった。

 やはり、土方鈴はこの世界に来ていないらしい、と私は推測したが、一応はカマを掛けることにした。

「えーと、そこにいるのは、鈴さんでしょうか」

「失礼な。私は、篠田りつ、と言います」

 りつは憤激したようだ。


 これは、やはり土方鈴ではない。

 もし、鈴が来ているなら、もう少し答え方が違う筈だ。

「これは失礼しました」

 一応、私は頭を下げた後、野村の義父に顔を向けて、爆弾発言をした。

「昨日、村山キクという女性が私を訪ねて来て、7か月の娘が、夫の子だと言うのです。野村家は聞いていましたか」


「嘘、彼は私を抱いた時に、初めての関係だと。それで、千恵子が産まれたのに。雄は、私を前から裏切っていたの」

 りつは衝撃の余り、自爆発言をしてしまった。

 やった、りつが自爆した。


「おい、りつ、さっきの話は本当なのか」

 りつの父親が、りつを責め出した。

 やはり、りつは、かつてと同様に以前から雄とは肉体関係がある仲だったのに、自分を捨てて私と結婚した、と嘘を周囲に吹聴していたのだ。

 野村家の面々のりつに向ける目も険しくなっている。

 逆に、りつの顔色は真っ青だ。

 私はこの世界に来て、初めて溜飲が下がる想いがした。


「りつさん、欲をかくのも程々にしたら。千恵子はちゃんと野村の家に入れます。そして、養育費もお支払いしましょう。でも、野村雄の正妻は、私です。それに間もなく、私も子を産む身です」

 私が半ば宣言すると、りつは黙って俯いてしまい、すすり泣きし出した。


 私はりつを放置して義父と向かい合った。

「村山キクのことはご存知でしたか」

「いや、初耳です」

 義父は状況の急変についていけないのだろう。

 平板極まりない声を出した。

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