第4話
他の作品群、取り分け「僕の人生の一番長い一日」や「私の本当の家族を求めて」を読まないと分からない話になり、本当にすみません。
しばらく頭を抱え込んだ私だが、前を向くしかない。
そう、この世界で幸せを掴むためにも。
「会津に私が乗り込んで、話を鎮めるしかないようね」
私はそう決意した。
前世では、野村家が悪い、と私は被害者ぶり(実際、私は完全に被害者だ)、それもあって、野村の本家は、離散してしまった。
だが、この世界では雄が生きている以上、野村の本家を潰す訳には行かないだろう。
そして、私が動くしかない。
だが、愛はそれに水を差してきた。
「一言、忠告しておくね。鈴やジャンヌは、この世界にいない公算が高い。いや、来たがらない、と思う。だから、いきなり、篠田りつに、鈴さんと声を掛けても、まず無意味ね」
「何で。あの二人は、この世界にいないの」
私は、何となく全員でこの世界に来ている、と思い込んでいた。
「あのねえ。例えば、鈴にしてみれば、もっと確実に雄と結婚できる世界に行きたがるわ。例えば、お兄さんが若死にして、雄を速やかに婿養子に迎えられた世界とか。二人は幼馴染なのよ。4人の中で、一番早く雄とは知り合っている。だから、抜け駆けが可能なのよ」
「言われてみれば、その通りね」
鈴め、卑怯なり。
「ジャンヌは?」
「彼が長生きしても、ジャンヌの下には残らない。あなたの下に彼が還ると、ジャンヌには予め分かっているもの。元街娼の自分と上官の娘の正妻、どう考えても自分に勝ち目はない。だから、そもそも彼が長生きしている過去に戻ることを、ジャンヌは希望しないわ」
確かに、言われてみれば、その通りか。
「それにしても、私が会津に乗り込む口実が問題ね。りつや千恵子のことについて、一言の連絡もないのよ。野村の本家からは」
「そりゃ、あなたが妊娠中だからね。無事に、あなたがお産を済ませてから、連絡するのが普通の考えね。いっそ、私を悪者にする?あなたのところに、私が怒鳴り込んできたことにしたら」
愛が入れ知恵をしてきた。
それだ。
「いいの」
「いいわよ。澪からもらうお金で、やっと、香の物がおかずで食べられるのだから。お金がないので、具のほとんどない味噌汁を掛けまわして、冷たい玄米飯を1日2回、食べる日々。1日に3回の煮炊きをしては炭代が勿体ないからね。21世紀の生活を覚えていて、こんな生活をしたら、1日やれば、嫌になるわよ」
愛の半ば捨て台詞に、私は卒倒しそうになった。
この頃、幸恵のお産、育児で、愛じゃなかったキクがお金に困っていたとは聞いていたが、そこまでの貧困に喘いでいたとは。
よく幸恵が育ったものだ。
「よく生きてられたわね」
私の正直な感想だった。
「本当に過去に戻ったら、ここまで貧困に喘いでいたのを思い出して、心底、後悔したくなっているわ。ともかく、会津の件を片付けましょう」
「そうね」
愛の言葉に同意して、自分は愛と共に自宅に戻り、愛に当座のお金を渡した。
ちなみに、この件を急に知らされた母は卒倒しそうになった。
何しろ自慢の娘婿に隠し子が二人いる、しかも、母親が違うことを知ったのだ。
「そんな男とは知らなかった。忠子、すぐに別れたら」
とまで言われてしまった。
うん、過去に来て、あらためてそう思う。
でも、過去に来てしまった以上、少しでも良い方向に物事を動かさないといけない。
我が子のためにも。
ただ、問題は。
この世界だと、私にとって、我が子は総司だけでなく、幸恵や千恵子、更に下手をするとアランまで、我が子ということになることだ。
幸恵と千恵子は不倫の子ではない以上、まだ認める余地がある。
しかし、アランは。
千人もの男と寝たことを誇りにするあばずれ女、ジャンヌが、私と結婚した後の雄との間に作った不倫の子なのだ。
断じて私の子にするものか。
堅く私は誓った。
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