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余談

余談です。


史実では戦死した野村雄の生まれ変わり、「彼」の視点になります。

「女性4人から手紙が届いていますよ。本当に隅に置けませんね」

「はは」

 手紙を届けてくれた伝令兵の言葉に対して、僕は苦笑いで返すしかない。

 自分の前世が、そんな女たらしだった、と自分でも信じたくないが。

 自分の前世の記憶がよみがえってみて、更に他の4人の前世の記憶とも一致していては、自分が彼女達4人と子どもを作ったことは、とても否定できない話だ。


 その前世での半ば報いとして、世界で最も危険な紛争地帯の一つとされる中東のこの場所に、僕は平和執行部隊の一員として、日本海兵隊の若手士官として派遣されている。

 死者が出ない日の方が少なく、この1年間で日本海兵隊だけで200人余りの死者を出すというトンデモナイ激戦地というのが、日本を含む世界各地の国際世論らしいが。

 かつてのヴェルダン要塞攻防戦を経験した自分にしてみれば、こんなの戦争には入らない、という小規模レベルの紛争だ。

(勿論、冷静に考えれば、1年も経たない内に敵味方併せて、数十万人の死者を出したベルダン要塞攻防戦の方が異常極まりない戦争の代物なのだが)


 そうした中で、自分達、現地の海兵隊員達はスマホ、携帯等の文明の利器を持つことを禁じられた生活を基本的にここで送っている。

 何故かと言うと、スマホや携帯を個人で持つことによる戦場での情報リスクは極めて高い代物だからだ。

 だから、この地に派遣された日本海兵隊の将兵を後方から慰問するのは、自分が前世を過ごした大正時代と基本的には変わらない手紙が主な頼りという事態が起きている。


 僕は、空き時間を利用して、早速4人からの手紙を読むことにしたが。

 最初の1通を読み終えるまでに驚愕し、その後も驚愕し続ける羽目になった。


 土方鈴は、篠田りつという変名を使って、手紙を送ってくる。

 何故かと言うと、今の彼女にとっては、その名の方が馴染みがあるし、手紙の差出人が、土方伯爵家の令嬢だとすぐに他の海兵隊員にバレかねないからだ。

 その手紙の中で、鈴は、4人共に曰くアリの宿に泊まり、異世界に皆が行って、自分は僕が長命して陸軍士官になった世界に行ったこと、そこでは、自分と鈴が幸せに寄り添ったものの、子ども達には先立たれ、フランスが事実上崩壊する等、世界史が大きく変わったという事が簡潔に書いてあった。


 他の3人の手紙の内容は、ほぼ同じだった。

 他の3人は、僕が長命した世界に行ったのだ。

 そこで、澪を放り捨てて、ジャンヌの下に僕は奔ったという。

 僕は自分が信じられなかった。

 何で正妻の澪を捨てて、ジャンヌに奔るまでの決断を、冷静になった後までしてしまったのだろう。

 また、そこでも世界史は大きく変わっており、イギリスを凌ぐ世界第三位の大国にフランスはなっているとのことだった。


 僕が生きるか、死ぬか、または、陸軍に進むか、海兵隊に進むか、といった些細な物事で、世界史がそこまで大きく変わっていいものなのだろうか。


 確かに前世の記憶をよみがえらせた後、今でも一部のフランス人から、救国の英雄の一人として扱われているアラン=ダヴー将軍が、前世の自分の実子なのを知ったが、それこそアランの顔を見ることなく死んだ自分としては、全く実感の湧かない話のままだ。


 いわゆるバタフライ理論というのがある。

 ほんのわずかな違いから、大きく違う事態が生じることを基本的にいう理論だ。

 勿論、最初の些細な、ほんのわずかな違い等、ほとんどの人が気が付かない。

 だが、それによってもたらされるものというと。

 

 僕の前世の選択、生死の結果、というものはそういうものだったのだろうか。

 歴史的には、いわゆる無名の尉官で戦死したのに。

 手紙を全て読み終えた後、僕は物思いに暫く沈んでしまった。

 これで完結させます。


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