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第27話

 政界引退に追い込まれたとはいえ、私はまだ50代だ。

 その後も、色々と私は政治的な活動を止めなかった。

 横須賀の選挙地盤を私は考えた末に、継娘の土方千恵子に事実上は譲り、私は影の支援に徹した。

 そして、千恵子は若き伯爵夫人ということもあって選挙民の受けもよく、次の衆議院総選挙で小泉純也に圧勝して、小泉純也を政界からの引退に追い込み、小泉家の政治家としての命脈を完全に断つことに成功した。


 その一方で、ユーグ=ダヴーは、インドシナ総督としてインドシナ独立に尽力し、更に北アフリカ総督に異動して、アルジェリア独立等に尽力して、戦後の仏連邦成立の陰の最大の功労者となった。

 この世界のフランスは、植民地独立で多大な血を流して、国力を消耗することなく、世界第三位の大国の地位を、私が生きている間は確保し続けたのだ。


(一方、この世界でのイギリスはインド独立に伴う騒乱にどうしても介入せざるを得ず、この問題について、自国の国力の消耗を嫌う日米仏がイギリスに対して非好意的中立を維持したことから、国力を史実より大幅に消耗してしまい、世界第三位の大国から完全に転落してしまったのだ。)


 北アフリカ総督が、ユーグの最後の顕職になった。

 1958年に大きな血を流すことなく、自分が最後の総督となったフランス領北アフリカが、アルジェリア等に分離独立して、仏連邦にそれぞれが所属することが決まるのを見届けて、ユーグは引退した。


 それまでの功績から、ユーグの仏大統領就任を希望する声も仏国内にあったが、既に各地の独立運動への対処という心労から、病気がちになっていたユーグはそれを固辞して、1968年に病死した。

 仏は国葬でその功績に報いたが。


 その場に妻の私は招かれなかった。

 あれは名義上の妻で、本人も長年、離婚を希望していた、という事情から、ジャンヌが内妻として国葬に参列して、故人の妻の役割を果たしたのだ。

 そのことで、私が名義上の妻なのが、世界中に広まってしまい、私としては、世界に恥を晒してしまったような気がして、いたたまれない気持ちになってしまった。

 こんなことになると分かっていたら、早く離婚すべきだった、と心底から私は後悔してしまった。


 また、ユーグは遺言で私が今でも法律上は妻だからとして遺産の3割を遺してくれた。

(なお、総司と千恵子、幸恵が各1割、遺り4割をジャンヌとその子達が受け取ることになっていた。)

 とは言え、こんな事が報道されては、総司や千恵子、幸恵はともかく、私は遺産を受け取りかねる。

 結局、自分の受け取り分を、私はジャンヌとその子達に全部譲渡せざるを得なかった。


 そして、ユーグの死が、私達4人の心の張りを失わせたようだった。

 まず、篠田りつが、後を追う様に翌1969年に病死した。

 次にジャンヌが、1970年に病死した。

 更に、村山キク、愛が病床に親しむようになった。

 私は、この世界での最期の会話を交わすために、愛の下に赴いた。


「もうお互いに赦し合いましょう。忠子さんじゃなかった澪」

 病室に自分と私しかいないのを確認した後、愛は私に語り掛けた。

「あの後、ジャンヌの下に彼が奔ったのは、あなたが自爆したせいもあるでしょ。だからね」

「そうね」

 私は短く答えて、物思いに沈んだ。


 愛の言うのは正しい、50年以上かけて、ようやく自覚出来た気がする。

 でも、元の世界に還れたとして、ジャンヌ達を私は本当に赦せるだろうか。


「お願いよ」

 それが愛の私への最期の言葉で、愛は彼岸へと旅立った。


 そして、私も愛を見送った後、1972年の札幌五輪開会式の情景を、病室のテレビで見つつ、この世界の息を引き取った。

 ジャンヌ達を赦せるか、と自らに問いながら。

 これで、本編は終わり、この後、エピローグを裏も含めて2話、余談を1話、投稿して完結予定です。


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