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第24話

 だが、その予想は違えられなかった。

 世界情勢がどんどん悪化していることから、野村千恵子と土方勇の結婚式も少し前倒しされ、1939年8月に史実と違い、私は嫡母として、野村千恵子と土方勇の結婚式に参列していた。


 なお、これまた史実と違って、村山愛じゃなかった村山キクも、公然と参列している。

 千恵子にしてみれば、義理を含む3人の母の中で、一番親しみを感じるのは、キクだった。

 また、土方勇というか土方家もそれなりに幼い頃から、岸家、野村家と親交があったことから、そういったことを熟知している。

 だから、キクもこの場に招待されていたのだ。


「うーん、この世界に来て良かったな。20世紀のこの頃の華族の結婚式の場に出れるなんて」

 その際、キクはこっそりと私にささやいたが、私は何となく憮然とせざるをえない。

 だって、やむを得ないこととはいえ、やはり、新婦の父、ユーグ=ダヴーこと雄は、この結婚式に欠席しているのだ。

 つまり、夫婦そろって我が子の結婚式に参列、ということは無かったのだ。

 私の性格が悪いだけだ、と自覚してはいるのだが。


 何で、愛人のジャンヌの子の結婚式には、雄は参列して、それ以外の子の結婚式には参列しないの、という想いが私に噴き上げてくる。

 なお、この点については、総司、幸恵、千恵子も私と一致団結している。

 勿論、自分達が冷静に考えれば、子どもの結婚式に参列したいけど、とても無理だから、と過分なお金を結婚式の度に3回とも雄は贈ってきていて、父親の愛情を十分に示してはいるのだが。

 それでも、何で愛人のジャンヌとの間の子どもの結婚式には雄は父親として参列するのだ、という想いを私や子ども達がするのは、当然ではないだろうか。


 そして、結婚式は無事に終わったのだが、世界情勢は急な坂を転げ落ちる一方で、1939年9月、第二次世界大戦は勃発、独ソ中は、独ソのポーランド侵攻等をきっかけに、日米英仏満韓等を相手とする戦争を吹っ掛けて来た。

 こうなると、日本も本格的に戦争に突入せざるを得ない。

 私自身も、衆議院の議場で代議士として、独ソ中が無条件降伏するその日まで、米英仏満韓と我が国は共闘して勝利を収めることにまい進せざるを得ない、と獅子吼する羽目になった。

 その一方で。


 私は、村山キクというよりも村山愛と共に半ば愚痴りあっていた。

「何れは(第二次世界大戦が)起こると半ばは分かっていたけど、つらいわね」

「そうね」

 私の語り掛けに、愛はそう言った後、暫く口ごもった。

 私は身振りで愛の発言を促した。


「海兵隊は、欧州に赴くのよね」

「私の立場上は明言できないけど、おそらくね」

 愛の問いかけに、私は半ば肯定した。

 衆議院議員の間では、それは半ば公知の事実だが、世間にはまだ発表されていないのだ。


「美子が私に耳打ちしたのだけど、雄を殴る計画を、総司と土方勇がしているらしいわ。幸恵と千恵子も賛同して、後押ししている」

 愛は口ごもりながら言った。

 私も暫く黙って考えざるを得なかった。


 子どもとして、自分の実母を捨てて、他の女性に奔った父親を殴りたくなるのは半ば当然だ。

 しかし、問題は子どもが日本海兵隊の尉官なのに、父親がフランス陸軍の将官であることだ。

 日本海兵隊の尉官が、フランス陸軍の将官を殴りつけた。

 どう考えてみても、下手をすると日仏間の外交問題になりかねない。


 だから、私は代議士としての立場もあり、総司達を止めないといけないのだが。

 これまでの雄の所業を考えてみると。


「息子たちの良識に任せましょう」

「本当にいいの」

「所詮は父子喧嘩よ。周りも何れは分かってくれるわ」

 愛の心配にも関わらず、私はそれで押し切ることに決めて、愛を説得してしまった。

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