第22話
何で私の息子の総司が、感情的に納得できない事態が起きたのか、というと。
悪気は全くなかったのだが、村山キクじゃなかった愛が、ジャンヌにアランの結婚式の写真が欲しい、とおねだりして、ジャンヌがそれを送ってきて、それをキクの娘の美子が見つけて、夫の総司に見せるという事が起きてしまったのだ。
その結婚式の写真と言うのが。
新郎のアランと新婦のカテリーナの傍で、ユーグとジャンヌが夫婦のように寄り添って写っているという写真だったのだ。
何で正妻の私がいて、自分は正妻の息子なのに、自分の結婚式には、父は出席せず、父は愛人と夫婦同様に寄り添い、愛人の息子の結婚式には出席しているのだ、という感情が、息子に沸き起こるのはやむを得ない話ではないだろうか。
もっとも、冷静に考えれば、私と夫が暮らしたのは10日余りで、私とジャンヌの事実婚生活は約20年に達しており、どちらが正妻的立場かといえば、文句なしにジャンヌである。
更に自分の養育費、母の私の生活費も、父はずっと支払ってきてはいるが、既にフランスに帰化することで野村家を出て総司に家督を相続させている父が、支払う必要が法律上あるか、というと法律上は無いのだ。
それなのに、手厚い保護を父は与えていると言え、理性的には充分すぎる気配りを父がしているのを、総司も大人になって分かってはいる。
それにフランスと日本の距離の問題。
この頃だと、フランスから日本に行くだけでも、1月以上は掛かってしまう。
そんなこんなを考えれば、理性では納得せざるを得ない、しかし、いわゆる腹の虫が。
という想いを総司がするのは当然の話だった。
なお、更にいらない話をするならば。
この写真問題は、意外と波紋が広がる話となってしまった。
総司は、二人の姉、幸恵と千恵子にも、この写真を見せたのだ。
幸恵も結果的とはいえ、自らの結婚式に実父が参列してくれなかったことに、仕方ないとはいえ、割り切れないものを覚えている。
また、千恵子も、この写真を見たことで、何とか自分の結婚式に、ユーグを招きたいと思うようになってしまったのだ。
この世界の千恵子は、女学校を卒業した後、いわゆるバイト生活をしつつ、花嫁修業にも勤しむ日々を送っていた。
史実に準じているというべきか、史実よりも早い事態が起きてしまったというべきか、千恵子と土方勇は、千恵子が女学校を卒業するまでに相思相愛と認められる仲に周囲から成ってしまった。
21世紀で言えば、高校2年生の女子と中学3年生の男子が付き合うようなもので、その若さで年の差を気にしないのかな、と私は考えてしまうのだが。
愛さえあれば、年の差なんて、というのは、10代半ばでも通用する話らしい。
だが、身分差というのはある。
史実でもそうだったが、千恵子は庶子なのに、勇は伯爵家の跡取り息子なので、普通なら宮内省の許可が出ない関係なのだ。
(勇は華族なので、婚姻には宮内省の許可が必要になる。)
そういったことから、千恵子は何とか出自を取り繕おうと考えた。
ユーグに、千恵子の実母、篠田りつとは内妻関係にあった、という上申書を書いて、と頼んだのだ。
私はムッとしたものを覚えたが、この件では、嫡母として娘の幸せを考えるべき、とそれこそ総司までが史実と同様に私の敵に回ってしまった。
なお、言うまでもないが、りつは公然と千恵子の後押しをした。
かつて、自分が自爆したのを何とか誤魔化したいらしい。
その結果。
「野村雄の上申書に鑑み、野村家の娘、千恵子と、土方勇の婚姻許可が宮内省から事実上は下りそうだな」
「ご尽力に心から感謝します」
私は、林忠崇侯爵に心にもないお礼を言う羽目になり、内心で盛大な溜息を吐いた。
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