幕間7(ジャンヌの想い5)
幕間で、ジャンヌの視点の話になります。
1938年1月、息子のアランの様子は微妙に怪しかった。
どうやら、本来から行けば、惚れてはいけない女性と相思相愛になってしまったようだ。
この辺り、どうも父と息子とよく似ている。
それにしても、と息子と相思相愛らしい相手に心当たりのある私は、溜息が出た。
どうやら、この歴史は変わらないらしい。
史実では、アランは私の知る限り、2回、結婚している。
それがいつなのかは分からないが、私の家系図から類推はできる。
最初の女性にして、再婚相手のカサンドラ、そして、初婚の相手、カトリーヌである。
カサンドラはスペイン人で、日系義勇兵としてスペインに赴いたアランとスペイン内戦の際に知り合って、交際した末に、妊娠までしたのだが、カサンドラがスペインから離れない、と言うので、その時は別れた。
そして、アランは、スペイン内戦の際に戦死した上官の未亡人の面倒を見る内に、相思相愛となってしまい、結婚したのだ。
それが、カトリーヌだ。
そして、カトリーヌが病死した後、カサンドラとアランはよりを戻して、再婚したのだ。
だが、この世界では、アランはスペインに日系義勇兵として赴かなかった。
それは半ば当然の話だ。
この世界では、父のユーグが生きている。
父のユーグが生きているので、瞼の父を追い求めて、アランがスペインに行く必要等、全くない。
それに我が家の生活費の問題がある。
私の肚を痛めた長子として、弟妹のことを気に掛けないといけないアランは、弟妹を放っておいて、スペインに赴く等、論外の話だったのだ。
だから、アランがスペインに赴くことは無かった。
従って、カサンドラと知り合うことも無かった。
ここまではいい。
でも。
フランス陸軍士官学校の先輩ピエールと、アランは同じ日系ということで知人になった。
もっとも、その発端と言うのが、ある意味、微妙な話で。
ピエールが自分の父は土方歳三と聞いている、と言ったことに、アランがそれは間違いでは、と指摘したことから、喧嘩沙汰となり、それが却って後で二人の親交を深めたというのだ。
そして、ピエールは、スペイン内戦に日系義勇兵として赴く際に、親交のある後輩アランに、新妻のカトリーヌを半ば託した。
もしもの時は、助けてやって欲しい、と言い置いたのだ。
もっとも、ピエールが生きている間は、二人の間には何もなかった、と私は思う。
この辺り、変な話だが、私の知るアランは、それなりに倫理性が高い。
ここも父子で似ている所だ。
複数の女性と子どもを作った、と言っても、自分なりの線を作って、それは越えないのだ。
だが。
ピエールが戦死したことで、二人の間の一線が崩れてしまった。
カトリーヌはアランに縋り付き、アランはアランで、カトリーヌにほだされてしまったようだ。
なお、ユーグも察しているようではあるが、自分の所業から男女間のことに、自分からは口を挟めないのを熟知している。
もっとも、その辺り、私もユーグのことを全く言えない身である。
そのため、アランにこの恋の成り行きをお互いに任せるしかない。
そして。
「お父さん、お母さん、実は結婚したい女性がいるんだ。子どものいる寡婦なんだけど」
とうとう、アランは腹を括ったらしく、私とユーグがいるところで、正面から向き合って、結婚の話をし出した。
はいはい、と。
私は半ば呆れる想いがした。
そりゃ、カトリーヌは生まれ変わった私の直系の曾祖母なのだから、アランと結婚して当然なのだが。
まさか、スペインにアランが赴かなくても二人が知り合って、結婚する事態が起こるなんて思わなかった。
ちなみにユーグは、アランがカトリーヌと結婚することには消極的賛成らしい。
私はアランの結婚に何故か微笑んでしまった。
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