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第20話

 そう、私は意気込んだが、さすがに当時、事実上の与党だった立憲政友会の公認を得られるとはいえ、衆議院議員選挙の相手は悪すぎた。

 小泉又次郎、立憲民政党の重職を歴任し、横須賀市どころか神奈川県政界の重鎮とまでいえる存在相手に、女性解放運動、婦人公民権獲得運動で、少々知名度を上げた位の私が、小選挙区制の対抗馬として立候補してもそうそう勝てる相手ではない。


 後で事情通の林忠崇侯爵から、直に私が教えてもらったところによると。

「小選挙区制だから、誰か候補者を立候補させないと立憲政友会としては、いわゆる面子が立たない。でも、小泉相手に勝てる訳が無い、どうせ落選する、と立憲政友会が声を掛けた衆議院議員候補者が皆、及び腰の惨状でな。それで、一か八かでお前に声を掛けたら、お前が乗り気なのを見て、それなら頑張ってください、と厄介ごとを押し付けられたわけだ。貧乏くじを、お前は退かされたという訳だな」


 その話を聞いて、私は半ば憤然とせざるを得なかったが、冷静になった半ばでは、確かに他の候補者の判断は正しい、と思わざるを得なかった。

 もっとも、そう思うようになったのは、最初の衆議院議員選挙に見事に惨敗して落選したためもあったが。

 そう、私の最初の選挙結果は、惨憺たるものだった。


 1936年2月20日、第19回衆議院議員選挙の投票が行われた。

 私自身が陣頭指揮して、懸命に選挙運動に走り回ったが、私の肌感覚で有効投票の4割取れれば上等、と投票前から観念する有様だった。

 この時の選挙では、そもそも立憲政友会に逆風が吹き荒れる有様だった。

 婦人公民権法や労働組合法を制定することで、立憲政友会はいわゆる左、革新層の支持を集めようとしたのだが、そのことが旧来の立憲政友会の支持者であるいわゆる右、保守層の支持を離してしまった。

 また、満州事変勃発、黒竜江省油田発見開発といった特需景気も一段落して、反動不況が起きたことから、中間層からの与党の立憲政友会への支持率の低迷が起きていて、浮動票が逃げてもいた。

 そのためもあって。


「3割も取れなかったか」

「こりゃ、再立候補も無いな。やっぱり、女はダメだな」

 総選挙の結果を聞いた街角の無責任な噂雀のさえずりが、私の胸に突き刺さる。

 小泉又次郎は、当時の私にとって、余りにも強大な敵だった。


 だが、敗因を私は分析することで、小泉又次郎のアキレス腱に私は気づいた。

 小泉又次郎の有力な資金源は、小泉組だ。

 小泉組は横須賀海軍工廠とつながっている。

 そのつながりを叩き潰せば。


 又、立憲民政党という事で、横須賀の労働組合の多くも小泉支持だ。

(立憲民政党は左寄りで、多くの労働組合が支持しており、立憲民政党出身の宇垣一成首相が、メーデー集会で挨拶をするくらい親密だった。)


 私は、海軍省に林侯爵を通じてヤクザ組織の排除を働きかけ、小泉組を弱体化させた。

 更にヤクザ追放運動を提唱した。

 鶴見騒擾事件等、ヤクザが世間の目をひそめさせる事件も、当時、多発していたことや女性運動でのつながりもあり、私の運動は野火のように広がった。


 こうなってくると、労働組合の多くの婦人部が小泉不支持を言い出した。

 小泉又次郎は、元ヤクザで刺青をしょった代議士として著名だったのだ。

 そんな元ヤクザとして名を馳せて刺青をしょった代議士等、女性として支持できない、という訳だ。


 そして、中国内戦勃発で、立憲民政党の力が落ち、立憲政友会の力が盛り返したこともあり。


 村山キクから、何のためにこの世界に来たの、と呆れられてしまったが。

 私は次の総選挙で、小泉又次郎に勝つことができ、立憲政友会(米内・吉田派)の新人女性代議士の第一歩を踏み出すことが出来た。

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