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幕間6(ジャンヌの想い4)

「いつの間に、あれだけのお金を準備していたんだい。それは有難かったけれど」

「お金のことは秘密。聞かないで。でも、決して後ろ暗いお金じゃないから」

「分かった。信じるよ」

 夫じゃなかった彼は、それ以上のことは聞かなかった。

 でも、彼はこのお金の出所の事を察しているだろう。

 だが、お互いにそれには触れない。

 それは、私の恥部で、子どもにも決して話せないことだから。


 未だに謎なのだが、私が街娼時代に稼いだ預金がどうなっているのか、第一次世界大戦の真っ最中、私がイタリアからフランスに戻った際に銀行に確認したら、私はその預金を全額手に入れることが出来た。

 密かに通帳を隠し持って街娼から抜けられたとは言え、てっきりユニオンコルスがその際に私の預金を自分の物にしていると思っていた。

 何故なら、その銀行は表向きは真っ白だったが、ユニオンコルスのマネーロンダリングに裏で加担しているのは、私達の街娼仲間では半ば公然の事実だったからだ。

 だから、ユニオンコルスが私の預金を全て入手していると思っていた。


 でも、史実で危険を冒して銀行で尋ねたら、お金が手に入ったことを思い出し、史実より少し遅れて銀行で尋ねたら、この世界でもお金が手に入ったという次第だ。

 伊達に1000人の男と寝た訳ではない。

 幾ら安い街娼とはいえ、約1年余りでそれだけの男と寝たら、それなりの額にはなる。

 史実では、そのお金で平生の不足したお金を補い、アランを私は養うことが出来た。

 この世界でも、同様に活用している。

 とは言え。


 とうとう8回目の妊娠を私がしてしまっては、さすがに生活費が苦しい。

 貧乏人の子沢山もいいところだ。

 だから、幸恵にお金を出すのには、本当はかなり躊躇った。

 キクというか、愛からはこっそりと手紙で、気にするな、と予め連絡があり、私からのお金を忠子、澪を介して受け取った後、あらためて礼状が届いた。

「本当にごめん」

 それだけしか書いていなかったが、手紙の一部が強張っていた。

 愛なりに考えた末、それだけしか書けず、涙を零してしまったのだろう。


 それなら、受け取らなければいい、という人もいるだろう。

 でも、私としては、愛の気持ちも分かる。

 私も詳しくは知らないが、この世界に来る前の打ち明け話だと、愛は実はこの頃、それなりに北白川宮殿下の好意によって裕福だったらしい。

 だからこそ、料亭「北白川」をこの頃の愛は悠々と持つことができた。

 だが、この世界では、やっとの思いで小料理屋から料亭へと「村山」はなっていたが、そのための融資返済の必要もあり、幸恵の高等小学校進学を、愛は躊躇う有様のようだ。

 だから、表向きはユーグから贈られたお金を受け取ることにしたのだろう。


 私は色々と想いを巡らせた。

 はっきり言って、我が家の暮らしは苦しい。

 とてもフランス陸軍少佐の家庭の暮らしとは言えない。

 だから、私は内職に勤しむし、アランを筆頭に我が子達も、小遣い、お駄賃稼ぎに知恵を絞る有様だ。

 だが、この忙しさがある意味、いい方に転がっている。


 言うまでもないが、私には21世紀の生活の記憶がある。

 だが、忙しすぎてそんな便利な生活を私は思い起こすどころではない。

 また、我が子達も目の前の現状からお互いのことを懸命に思いやる有様で、結束している。

 そして、言うまでもなくユーグは、惜しみなく私達に愛情を注いでくれる。


 下手に時間があったら、貧困や20世紀の生活の現実に私は負けたかもしれない。

 だが、夫や子ども達が懸命に協力し合い、現実を良くしようとしてくれるし、私は忙しさに追われている。

 そう言った点で、この頃の私は幸せをこの目で見て実感して、貧困等の不幸から目をそらすことが出きていたのだ。

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