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第15話

 息子の総司が、尋常小学校に入学した頃、私は夫に捨てられたという傷心を歳月の流れで癒し、再び(少しずつだが)男女平等運動のために動くようになっていた。

 それは何故かと言うと、夫が事実上いない以上、財産の管理、運用については、誰か男性の親族に任せるべきだ、という圧力が陰に陽に私に掛かるようになってきたからだった。

 実際、この当時の民法では、親権者が母のみの場合、財産管理については、母は辞退して誰か他の人に任せることが認められていて、私の見聞する範囲でも、そのような場合には、財産管理を男性の他の親族(例えば、母から言えば舅、子どもから言えば父方祖父)に任せる母親は決して珍しくなかった。


 だから、私も同様にすべきではないか、という圧力が掛かってくるのは、半ば当然だったが。

 このことに私は過敏に反応せざるを得なかった。

 私としては、きちんと財産を管理できていて、実際、少し苦しいとはいえ夫からの送金で子どもを養育できているのに、私が女性であるというだけで、将来を不安視して、財産管理を他に任せるべき、例えば、私の父の岸三郎に任せては、と親切ごかしに何度も話を私に持ち掛けられては。

 却って反発心を私がこじらせるのは、半ば当然ではないだろうか。


 私は、市川房枝や奥むめおといった方々と連携して、婦人参政権獲得運動に取り組むことにした。

 私の立場(父が海兵隊の将官、つまり、海軍提督という立場)上、山川菊栄等といった社会主義者系の面々と手を組むことは無理があった。

 だから、この組み合わせは、半ば必然と言えた。

 まずは、婦人参政権の獲得を、その上で、女性議員を増やして、男女平等の実現を図る。

 それが筋道だと私には思えたのだ。

 かくして、1920年代半ば、私は積極的に政治活動に勤しむことになった。

 

 幸いなことに、既に治安警察法第5条2項は改正されていて、女性が政治的な集会に参加することは認められていたが、それ以上のこと、例えば、政党に加入し、党員になることは、女性には治安警察法第5条1項によって、まだまだ認められていなかった。

 でも、これでは女性の政治活動が十分にはできない。


 ダメなものはダメ、なんて遅れた話をされるのは、私はまっぴらごめんだ。

 理屈、道理に合わないような法律、そんな法律は変えられてしかるべきだ、と私は想う。

 大体、例えば、21世紀の日本では、公務員が政党に加入して、勤務時間外で政治活動をするのは完全に自由なのだ。

 公務の政治的中立云々、という主張も一部ではあったようだが、天皇主権国家において、公務員も臣民に変わりはない以上、政治的自由を勤務時間外で公務員が謳歌出来て当然だ。

 

 そして、私の活動を見た篠田りつは、当然のことながら、当時の女性として、思い切り眉をひそめて、娘の千恵子や、更に私の息子の総司にまで、ああいう女性はよろしくない、と言って聞かせたらしい。

 更に、村山キクじゃなかった村山愛からは、何のために過去に来たの、とまで言われてしまった。


 ほんの100年程、時代が違うからといって、私の考えを直接に話し合って理解しようともせずに、私の下を去った夫が悪い、と小理屈を私は(内心で)捏ねて政治的活動に勤しんだが、私の活動加入は、私の予想以上に影響が大きかった。


 私の父は、海兵隊の提督であり、更にその伝手から、林忠崇侯爵にも直に私は訴えることが出来た。

 林侯爵のことを、政治家としては私は大した実力等が無い、と漠然と思っていたのだが。

 父に言わせれば、それは表向きだけで、実は元老の山本権兵衛元首相の懐刀、と陰で言われる程の実力が林侯爵にはあるとのことだった。

 実際、後でその実力を私は痛感することになった。

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