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第14話

 息子、総司の小学校入学を前にして、私の目の前に最新の戸籍謄本がある。

 その中にいる夫の子どもは7人、もっとも1人はいわゆるバツ印で抹消されている。

 実際にその中で私がお腹を痛めた子は、総司だけだ。

 後の6人は、と言うと。


 最年長が野村幸恵で、村山キクの子である。

 キクが結婚して、家庭を築いたのを機に、私との従前の約束もあり、村山家に養子として入った。

 だから、この子のところには、バツ印で抹消されており、今は村山幸恵と名乗っている。


 次が、野村千恵子、篠田りつの子である。

 この子も総司と一緒に小学校に入学する身で、私は親権者代行として、色々と手続きをする羽目になった。

 本来なら、夫がするのだろうが、夫は外国、フランスにいる。

 だから、私が代わりにするしかない。


 残りの4人が、アランを筆頭にジャンヌ=ダヴーが産んだ子達だ。

 夫が認知したので、野村の戸籍に入り、日本の国籍を取得している。

 それは、まあぎりぎり良し、としよう。


 だが、問題は日本のこの当時の民法だと、夫にもしもの事があったら、親権者として、私がアラン達の面倒を見ないといけないという事だ。

 それにしても、家制度は、女性をないがしろにしていないだろうか。 

 何で正妻だからといって、産みの親で無い私が、親権者として面倒を見ないといけないのだ。


 そして、夫はジャンヌとの事実上の夫婦生活を営み続けている。

 2人の間には、2年と経たずに次の子どもが産まれているのだから、余程、身体の相性が良いのだろう、と皮肉な考えが私に浮かんできてならない。

 全く、避妊したらどうなのか。

 そして、産まれる度に、その子のことが、この戸籍に記載されるという訳だ。


 そのための生活費が掛かるという事で、今、私に送金されているのは給料の4割程に過ぎない。

 幾ら何でも安すぎではないだろうか。

 他の女性の下に奔り、その女性の為の生活費が掛かるから、という理由で、妻をないがしろにしていい訳が無い、と私は大声で叫びたくなる。

 最低でも正妻として5割は、私が受け取る権利があると思う。

 そのお金で総司を私は膝下で育てて、千恵子の養育費をりつに渡して、千恵子を育てていた。


 ちなみにこの世界の篠田家は下の上から、中の下という暮らしを今はしている。

 何とか借金せずに生活できているというレベルだ。

 思い出してきた史実だと、篠田りつの兄、篠田正が野村の本家から一括して得られた千恵子の養育費を元手にした第一次世界大戦後に発生した不況相場で大量に空売りをして大金を稼ぐことで、中の上くらいの生活を篠田家はしていたが、この世界だと一括しての大量の養育費が篠田家に入らなかったので、そうしたことは起こらなかった。


 似たようなことが、村山家にも起きていて、この世界では料亭「北白川」ができておらず、小料理屋「村山」のままだ。

 史実だと陰で北白川宮成久王殿下(更に林忠崇元帥からも)の援助があり、村山キク夫婦は既に料亭を作ることが出来たのだが、この世界ではそこまで行っていない。

 もっとも、史実同様にキクの夫の腕前は確かなようで、順調に小料理屋「村山」の業績は伸びており、数年もすれば料亭「村山」になるのではないだろうか。


 何だか、日本の3人は「彼」が死んだ世界の方が幸せだった気が時々してしまう。

 そんな私の鬱屈した想いを、子ども達も察しているのか。

「幸恵姉ちゃんのところに遊びに行ってくる」

 総司は、しばしば村山家に幸恵や千恵子と遊ぶために行く。

 村山家が、3人姉弟の集いの場と化しているのだ。


 気が付けば、いつの間にか、キクが3人姉弟全員の母親になっているみたいだ。

 たまには、我が家で3人姉弟で遊べばいいのに、そんなことを私は想ってしまった。

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