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第13話

 私に追い打ちを掛けるように、夫の仕打ちは冷酷だった。

 私にフランス外人部隊で得られた給料の6割しか送って来なくなったのだ。

 自分の暮らしに必要だという。

 ふざけるな、という想い、怒りを私はますます溜め込んだ。

 絶対に夫とは離婚してやるものか。

 ちなみに。


「雄が還って来ない、という話は聞いていて、その理由もフランスの金髪女に誑かされたからだ、という噂話を聞いてはいたのですが、そういう事情ですか」

 私から、事の真相を聞いた村山キク、じゃなかった村山愛は、意味深な顔をして、私の話を聞き終えた後で言った。

「うーん。雄は優しいわね。惚れ直したわ」

「どこが優しいのよ。妻を放り出して、他の女に奔るようなことをしているのよ」

 愛の言葉を聞いて、私は色々と怒りを再度、募らせてしまった。


「だって、事の真相が分かったのは、あなたのお父さん、岸三郎提督の言葉からでしょう。もし、彼の言った通りの事を、あなたが聞いていたら、もっと怒りを募らせていたのではないかしら」

 愛の言葉に、私はぐっと詰まってしまった。

「岸提督としては、あなたにこの時代の常識人として、男女平等なんていう妄想極まりない話をしないでほしいのよ。雄には、分かっていると思うけど21世紀の未来知識等はないのよ。今は20世紀なの。男女平等を訴えただけで、反政府主義者、革命主義者と叩かれても仕方のない時代なの」

 愛の言葉が、更に私に追い打ちを掛けてきた。


「だって、どうにも我慢できないのだもの」

 私は思わず反論したが。

「きちんと現実に合った話をなさい。全く以前にも紙おむつが欲しい、とか無いものねだりをしたよね」

 と愛に反論されては、愛の反論が半ば正論(半ばだけである。私としては時代に合わせた正義等、否定されてしかるべきと考えている)だけに、それ以上のことを私は言えなかった。


「それにしても、ジャンヌ=ダヴーは頭がいいわね。結局は、自分が独り勝ちしたのか」

 愛としては、そんなに深く考えずに言葉を続けて言ったのだろうが、その言葉が私に前を向かせた。

「ジャンヌが、頭がいいとは、どういうことよ」

「だって、ちゃんと時代に合わせた判断をして、それで、雄を独り占めして勝ったのでしょう」

 私の言葉に対する愛の答えが、(愛にはそんなつもりは無かったろうが)私の胸に深く突き刺さった。


「決めた。夫と断じて離婚はしないわ。裁判でも何でも私は受けて立つ」

 私はうそぶいた。

「ちょっと幾ら何でも無理が無い」

 愛は思わず21世紀の感覚で突っ込んできた。

 21世紀の日本では破綻主義が離婚に際しては取られている。

 だから、ある程度の別居期間が夫婦間であったら、割合、容易に離婚が裁判でも認められる。


 その言葉を、私は(内心で)せせら笑った。

「この件では、法律を私は逆用させてもらうわ。浮気をした夫が悪いのよ。この世界では、浮気をした側からの離婚請求裁判は認められないわ」

 私の言葉に、愛は固まった。


「夫の雄を素直に諦めて、別のいい男性を探して、あなたは再婚すべきよ。それがあなた自身のためよ。もう負けを自認した方がいいわよ」

 愛は、慌てて私の説得に取り掛かるが、私の心の中はどす黒いもので固まってしまった。


「最低でも雄が私と直接に会って、離婚を言わない限り、離婚を私はしないわ。これ以上、ドアマットのような扱いを、夫が正妻に対してするようなことが許されるものですか」

「そもそも、こんなことになったのは澪自身のせいでは」

 私の言葉に対する愛の反論には、私は耳を塞いだ。

 愛の言葉が、私の胸に刺さりすぎるからだ。


「それはもっと自分をつらくするだけよ」

 愛は私にそう言って、私と別れて行き、私達は暫く口を利かなかった。

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