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幕間4(ジャンヌの想い2)

 幕間で、ジャンヌの視点になります。

「戦争が終わった」

 その第一報が届いた時、私やその周囲の人達は、呆然自失したといっても過言では無かった。

 それくらい、余りの忙しさに追われ、何か実感の湧かない言葉に聞こえたのだ。


 連合軍が最終攻勢を執る、ということはそれだけ大量の死傷者が続出するということだった。

 更にスペイン風邪という伝染病の来襲があった。

 そのために第4海兵師団病院は、地獄の惨状をまたも呈した。

 大量の戦場での死傷者に加え、スペイン風邪患者も大量に担ぎ込まれる。

 スペイン風邪はたかが風邪ではない、意識がまともにない重症患者が当たり前のように出て、死亡率も極めて高いのだ。


 そうした地獄のような状況の中で、アランを基本的に背負って、私は懸命に病院内の雑務に励んだ。

 本来なら伝染病患者が大量にいる中に幼子を連れて行く等、正気の沙汰ではない。

 でも、頼りになる身内のいない私はそうするしかなかった。

 アランを孤児院に預けたらどうか等の誘い、提案もアランを産んでから、周囲から何度もあったのだが、私はアランを手放すことは、彼とのつながりを断ち切ることになるとして、ずっと拒んでいたのだ。

 それでも、私やアランが、スペイン風邪にやられなかったのは、神の加護のおかげだったのだろう。

 そして、第一次世界大戦の終戦の日を私は迎えたわけだ。


 戦争が終わった瞬間、負傷兵が全て治る筈もなく、私は負傷兵全員が退院するまで、師団病院の雑役婦として働き続けることが出来た。

 そして、この後、どうやってアランと共に生活していこう、と私が考えていたら、いきなり彼が私の下を訪ねてきて、私は驚く羽目になった。


「アランは順調に育っているな」

 彼は私の下を訪ねてすぐにアランを抱き上げて、そう言った後で続けた。

「初めて自分の子に会えたよ。他の3人は日本にいるからね」

 そう言えばそうか、日本の3人の子は、彼に会ったことが無い。

 彼が出征した後で、他の3人は産まれているからだ。


「逢ってしまったら、離れがたくなった。一緒に来てくれないか」

「えっ」

 彼の言葉に私は固まった。


「奥様の下に還られるのでは」

「妻があんな過激思想の持ち主とは知らなかった。離婚しようと思っている」

 澪、あなた、何をやらかしたの。

 私は半ば呆然とし、彼からそれとなく話を聞き出そうと試みた。


 彼の話を聞くにつれて、私は頭を抱え込みたくなった。

 澪、自爆し過ぎ。

 時代を考えて動いてよ。

 そりゃ、結婚したら無能力者扱いされて、集会参加すら許されないこの時代の男女差別の現実に憤って、男女平等運動をしたくなるのは分かるけど。

 この時代だと、あなたの考えや行動は、完全に革命家並みの過激思想と行動よ。


「私は何とか生きていきますから。日本に還られて、直接、奥様と話し合われた方がいいのでは」

「君は本当にいい女性だな。そう言われると僕はますます離れにくくなる。アランを絶対に認知するな、と圧力を父まで使って掛けてくる妻とは大違いだ」

 私は、何で自分が澪の味方をしているのだろう、と自分自身不思議に思いながら、彼を日本に還らせる方向で話を懸命に進めたが、そのことが彼の好感度をますます上げていくようだ。


「決めた。上層部に現地除隊の申請を出すよ。そして、現地除隊した後、フランス外人部隊に入隊しようと思う。僕は軍人としてしか生きていけないから。そんな僕でもいいかい。僕についてきてくれないか」

「ついて行くわ。アランと一緒についていける限り」

 私は即答した後で想った。

 この世界に来られて、本当に私は良かった。

 彼とアランとそれから私達でこれからつくる子達と、私はこの世界で生きていって見せる。


「ありがとう」

 彼は微笑んで、私とディープキスを交わしてくれた。

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