表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/38

第11話

 この1918年当時、欧州にいる夫や父が、そんな想いをしている等、私には思いも寄らないことだった。

 私は1歳以上に成長した息子、総司を母に半ば任せて、色々と動き回っていた。

 ともかく、21世紀の意識がある私にしてみれば、ふざけるな!と怒鳴り散らしたいことばかりだった。


 この大正時代では、何で妻の私は民法上は無能力者なのか、

 女性であるというだけで、政治的な集会への出席さえ治安警察法第5条2項で、女性は禁止されるのか。

 過去に戻って理不尽さに気付いた私は、色々と動くことに決めたが、男性どころか、一部の女性にまで私の行動は非難され、「牝鶏晨す、は亡国の基」、「女は三界に家無し」等々、散々に叩かれた。

 何で女性にまで叩かれるのか、と私は憤懣を溜めるしかなく、父や夫が目の前にいないこともあり、積極的に動き回っていた。


 この世界の私の母は、良くも悪くもこの時代の常識人なので、私を諫めた。

「女は黙って夫に従うものです。何でそんなロシア帝国を潰して、革命を起こした共産主義者のようなことを叫ぶのですか」

「だって、女性だからと言って差別されるのが、我慢できないの」

 私の反論に、母はこの大正時代の常識人として、更に諭した。

「それは差別ではありません。男女間の区別です。親権は父親、男性が持つ。女性は結婚したら、夫の同意無くして何もしない。集会への参加とか、政治的要求を女性は決してせずに、男性に完全に任せる。それが日本古来の美風、公序良俗です」


 へええ、それでは日本は、100年も経たない内に完全に秩序が崩壊し、日本では無くなっていますな。

 21世紀では、何しろ女性が選挙に行くのですよ、更に女性の首相も日本には誕生していますよ。

 私は、母の余りにも保守的、右翼的な主張を冷笑せざるを得なかった。

 しかし。


 村山キクではなかった、村山愛までも、私の行動を冷めた目で見るようになっては、私も少し自省しないといけないかな、と思うようになった。

 愛は言った。

「幾ら何でもやり過ぎよ。気持ちは分かるわ。古臭い、男女差別だといきり立つのは分かる。でもね」

 そこで、一息切って、愛は私にトドメを刺しに来た。

「そんなことをしていたら、夫、野村雄は逃げ出すのじゃない。この世界の雄は、21世紀の事情を全く知らないのよ。妻がそんな過激な行動に勤しんでは、自分にまで累が及ぶ、と考えるわ」


 うーむ。

 確かに言われてみれば、そうかもしれない。

 父や夫がいないことをいいことに、私は動き過ぎていたかも。

 

 と私は愛の忠告を受け入れ、少し行動を控えることにした。

 しかし、それは遅い決断だった。


 母は、私の行動を心配し、父に手紙を送って、私の行動を止めようと考えた。

 更に私としては当然の行動をしているだけなので、夫の雄に自分の行動を黙っていたのだが、父は私の行動に仰天して、夫に私の行動を把握しているのか、と尋ねて、私が自分の行動を黙っていることに、父も夫も更に仰天してしまった。


 かくして父や夫は私の行動を諫めて止めようとしたのだが、これまでも述べてきたように手紙のやり取りには4か月は掛かるのだ。

 そのために、自分が行動を自制して、それを夫や父が知り、母の手紙で更に確信するまでに、第一次世界大戦は終わろうとしており、更に次兄までもが、スペイン風邪で亡くなるという事態が起こってしまった。


 私としては、世界大戦が終わって、夫が帰国してくると期待で胸を膨らませていたのだが。

 夫は、帰国して岸家を継がされ、過激な共産主義者の妻の籠の鳥としてずっと暮らすよりも、異国の地に骨を埋めた方が、とまで思いつめてしまった。

 この辺り、私は自分の都合の良いように物事を本当に考えすぎていた。

 ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ