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幕間2(ジャンヌの想い1)

 フランスのジャンヌの想いになります

 はっきり言って、目覚めは最悪の状況と言って良かった。


「起きて、時間よ」

 そう誰かに叫ばれながら、ガンガンという目覚ましの金属を叩く音で、私は目が覚めた。

 寝ぼけ眼で周囲を見回し、更に病院特有の悪臭に気が付き、思わず吐きそうになる。

 ここはどこなのか、宿で私は寝ていたのではないか、と考える内に、私は真っ青になった。

 ここはどう見ても前世、それもこの世の地獄、ヴェルダン要塞攻防戦の真っ最中だ。


 取りあえず、やれることをやらないといけない。

 第4海兵師団の野戦病院なので、流石にどうにもならない重傷の負傷兵は送られてこないが、それでもここに送り込まれてくる負傷兵は、すぐの前線復帰が無理な兵ばかりだ。

 それにここに何とかたどり着いても、容体が急変して云々という事も稀ではない。

 私は、日本で言うところの阿鼻叫喚地獄に飛び込んだような想いで、身体を動かすことに努めた。


 今日の日付を確認するどころではない地獄の日々。

 12時間ほぼ休みなく医師、衛生兵、看護婦の応援のために、私は雑役婦として身体を懸命に動かして、働く日々を送ることになった。

 12時間の間に、食事の時間も一応は休憩のために交代で2時間程はあるのだが、手が少しでも空いた時に食べられる物を急いで詰め込むような感じで休憩どころではない。

 そして、働き終えたら、疲れ切った体に食べ物を詰め込むや否や、寝床に身を投げ出して眠るというよりも意識を失い、12時間の休息時間を終えた後で時間になったら、ガンガンという音で起こされるのだ。


 そんな日々が1月程も続いただろうか。

 日本海兵隊はヴェルダン要塞攻防戦で勝利を収め、伊方面に移動することになった。

 当然、自分も移動することになり、ようやく余裕ができた。

 それまでに、何となくだが、自分の状況の推察はできていたが、確認のしようがなかったのだが、この移動の合間に状況の確認がようやくできた。

 彼、野村雄が生きている世界に、自分は来ていることが分かった。


 冷静に考えれば、むしろ彼が死んでいる方が、という想いが私にはこみ上げてくる。

 だって、彼が生きていたから、と言って、彼は私の下には来ないし、息子のアランも彼は認知はしてくれないだろう。

 何故なら、彼には、澪じゃなかった、妻の忠子がいるから。

 そして、忠子は、街娼の私が産んだ息子を、夫の子だと認知することに猛反対するだろう。


 それでも、私は来て確認したかった。

 彼が、ひょっとしたら、アランを認知してくれるのでは、という想いがしていたから。

 その場合、アランは私の下から引き離されるかもしれない、それでもアランが父無し子でいるよりは、という想いが私にはあったからだ。


 そして、翌春、私は無事にアランをかつてと同様に産んだ。


 私は考え付く限りの伝手を使って、アランが産まれたことを彼に伝えた。

 彼の義父、岸三郎提督は様々な方法で妨害を試みたが、完全には阻止できず、彼はアランの存在を知り、雀の涙ほどだったが、養育費をこっそり出してくれた。

 私は泣きたくなった。

 この世界に来れて良かった。


 第一次世界大戦と言う地獄の日々、そうした中、女と遊ぶだけ遊んで、子どもができたら、知らん顔という兵は、日本兵の中にも山のようにいる。

 だが、彼は認知こそしないが、自分の子として認め、養育費を少しだけどこっそり出してくれた。


 地獄の戦場をあらためて見たせいか、私の感情が少し壊れてしまったのかもしれない。

 それでも、この彼の優しさは決して忘れない、この時の私はそう誓った。


 その一方で、私は別のことを想った。

 この世界には岸澪らも、私と同様に来ているのだろうか。

 そして、どうこの世界に彼女らは順応して過ごしているのだろうか。

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