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第1話

 あらすじにも書きましたが、「私の本当の家族を求めて」のB面、裏面の話になります。

「私の本当の家族を求めて」で少し触れましたが、岸澪、村山愛、ジャンヌ=ダヴーは、「彼」村山雄が戦死せずに生き延びた世界に行きました。

 その世界で何が起こったのか。

 主に岸澪の視点からの話になります。


「うーん」

 私は、体内で胎児が動く感覚を覚えて、思わずうめき声をあげつつ、目が覚めてしまった。

 お腹の子は、順調に育っている、本当に幸せ、と半ば寝ぼけながら想った瞬間、本格的に目覚めた。

 何で処女の私が身ごもっているの?


 がばっ、と身を起こして、薄暗がりの中で自分の身体を見分する。

 どう見ても、寝る前の10代前半の中学生の身体ではない。

 この身体は。

 20代半ば、前世で息子の総司を身ごもっている頃の身体のようだ。


 時刻的には夜明け頃らしく、障子を開け放てば、もっと明るくなりそうだ。

 障子を開け放ち、その明かりを使って、部屋の中にある鏡台で、自分の顔を確認する。

 前世の20代半ばの自分の顔が、鏡の中から自分を見返した。

 声にならない悲鳴を自分はあげてしまった。


 何で、どうして、と半ばパニックになりながら、私は寝る前の事を思い起こす内に原因に気付いた。

 自分の希望する世界に転生しているのだ。


 そもそもの発端は、恋敵の土方鈴の言葉だった。

「同級生にヴェルダン要塞の見学に行かない、と誘われたの。あなた達も行かない?」

「「「行くわ」」」

 私、岸澪を含め、他の恋敵、村山愛も、ジャンヌ=ダヴーも即答した。


 さて、何でヴェルダン要塞の見学に4人が行くことを即決したか、というと。

 私達4人は全員が前世の記憶持ちで、前世での夫、恋人が、第一次世界大戦のヴェルダン要塞攻防戦で戦死している、という事情があるからなのだ。

 だが、問題は、その夫、恋人が同一人物であるということで。

 しかも、全員がその子孫として生まれ変わっている、というややこしい関係にある。

 ちなみに、私は正妻で、この世界では、生まれ変わってきたかつての夫の従妹でもある。


 全員が前世の記憶を取り戻した際に、ちょっとした(?)騒動を引き起こしたことから、私たち全員はほとぼりを覚ますために、日本からフランスへと半ば逃亡する羽目になった。

 ちなみに夫、彼は、あれ程嫌がっていた戦場に赴く羽目になってしまった。

 これについては、好き放題に子作りをした夫の自業自得、と思いつつ、私達が騒動を起こさなければ、という反省を私はしている。


 そして、他の同級生と一緒に、私達は二泊三日の行程でヴェルダン要塞見学に赴くことになったのだが、その際に泊まることにした宿が曰く付きの宿だった。

 何でも、目覚めた際に自分が希望した過去の世界に戻れるという噂の宿だったのだ。

 そして、彼が戦死しなかった世界に行きたい、と願って1日目の夜に私は寝たのだが、その時には戻れなかった。

 だから、嘘だったのか、と思って、2日目の夜も寝たのだが。


 噂は半ば本当だったという訳だ。

 おそらく、下手に念じすぎると却ってその世界に行けないのだろう。

 だから、噂に止まっているのだ。


 そんなことを考えている内に、お腹の子は暴れ出し、私はトイレに行きたくなった。

 ここが過去の世界なら、トイレはあそこだった筈、と考えて行き、その通りの場所にあったのだが。

 私は早速、過去の世界の洗礼を受けてしまった。


 大正時代なので当たり前なのだが。

 トイレが汲み取り式で、消臭剤、芳香剤も無かったのだ。

 21世紀の水洗トイレに慣れていた私は、鼻をつまんでトイレの悪臭を我慢するしかなかった。

 前世では明治生まれだろうが、と言われようと、私にとって、臭いものは臭いのだ。 

 早く慣れないと、という想いと、よくこんな悪臭に耐えていたな、という想いが私の中でせめぎあった。


 幸いなことに、私が今いるのは、過去の世界とほぼ同じらしかった。

 そのために、私はお産のために実家に帰っている身で、この世界の実母が臨月の私を気遣ってくれて、朝食の準備等をしてくれた。

 それで、家事の心配はさほどでも無い、とすぐに割り切れたが。

 他の事が私の頭の中で心配になった。

 それは、この世界に他の3人もいるのではないか、ということだった。


 今の時間を、新聞や日めくりカレンダーで確認したら、丁度、前世の夫、彼が戦死した日だった。

 ということは、他の3人も全員、子どもを産んでいるか、妊娠中の筈。

 私は懸命に頭を回転させ、すぐ近くにいる筈の一人に会いに行くことにした。


 村山愛の前世、村山キクは、同じ横須賀市内に住んでおり、歩いていけるところにいる筈だ。

 朝食を食べて少し休んだ後、実母を誤魔化して散歩と称し、臨月のお腹を抱えて苦労しながら、村山キクの下を私は訪ねていった。


 幸か不幸か、キクは、長屋にある井戸の傍で洗濯中だった。

 よく見ると、おむつを洗っているらしい、ということは、幸恵が産まれているのだ。

 そんなことを想いつつ、私は悪戯心を起こして、

「ひょっとして、愛さん」

 と声を掛けた。

 もし、キクの中身が、愛ならば、この声に反応する筈だ。


 愛の反応は、私の斜め上もいいところだった。

「ひょっとして、澪ちゃんなの」

 洗い物の手を止め、愛は驚愕して、半ば叫んだ。

 そして、私の顔を見た瞬間、愛は涙を零しだした。

 その反応等を見て、私も目の前の女性、キクの中身が愛なのを確信した。


「澪ちゃんだ。おそらく一緒に来ていると思ったけど、本当に来ているとは思わなかった」

 愛は泣きながら言った。

 その反応を見ている内に、私も涙がこぼれだした。

「澪ちゃん」

「愛ちゃん」

 私達は、思わず駆け寄って、抱き合う所だったのだが。

 澪の次の一言が、それを台無しにした。

「お金頂戴。澪ちゃん」

 私は盛大に(内心でだが)ずっこけてしまった。


「ちょっと待ちなさい。何で私がお金をあなたに上げないといけないのよ」

 ずっこけから速やかに立ち直り、私は酷い頭痛がしそうな想いに駆られつつ、愛に問い返した。

「まあまあ。少し陰にいかない。お互いに、前世の記憶持ちなのを隠したいでしょう」

 愛は、冷静にそう返してきた。

 確かにその通りだ、前世の記憶持ちなのを触れ回るのは、良くないだろう。

 私は分別を聞かせて、愛と物陰に移動した。


 移動してすぐ、私は愛との会話を再開した。

「あなたの娘と言うか、曾祖母の幸恵はどこ」

「私の母が見ている筈よ。もっとも、3月に産まれているから、もう7か月、ハイハイをし出して、目が離せなくて困っているわ」

 愛は母親らしいことを言った。

 その言葉を聞いて、私は確信した。

 やはり、私達は前世に来ているのだ。


 そうでなかったら、村山幸恵が7か月でいる訳が無いし、私が臨月でいる筈がない。

 これは丁度、私達が1916年10月に経験していた世界で間違いない。

 だが、この後が違ってくる。

 私の夫、彼はこの日、戦死したのだが、この世界ではこの世界大戦を生き抜くのだ。

 そして、終わったら、と考えて、私は違和感に気付いた。


「愛、この世界大戦はいつ終わったっけ」

「あ、澪もそうなんだ」

 愛はホッとしたように言って、言葉をつないだ。

「それが、私も先の事が分からないの。恐らく私達がこの世界に来たことで、未来が変わり、先のことが分からなくなっているのよ」

「ええっ」

 私は驚愕した。


「未来知識を活用して、ということができない」

「そういうことね。ま、仕方ないんじゃない」

 私は動転してしまったが、愛はのんびりとしている。


「どうして、そう落ちつけるのよ」

「だって仕方ないじゃない。なるようになるわよ」

 私の半ば詰問を、愛はさらにいなした。

 その声を聴く内に、私も少しずつ落ち着きを取り戻すことができたが。


 それよりも、さっきの愛の科白だ。

「何で、私があなたにお金をあげないといけないのよ」

 私は、愛を問い詰めた。

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