転生じゃなかったんですか?
目がさめると見たことのない天井が広がっていた。
「異世界に来たんだな」
俺は天井を見ながらそんなことを思った。俺は手をついてムクリと起き上がり周りをキョロキョロと見渡す。家を観察しているわけではなく、人を探しているのだ。だが、誰もいないので一番近くのドアへと向かっていく。そこでいきなり、ドアが勢いよく開く。
「この人です!」
部屋の中に急いで駆け込んできた女性がベットを指さしながら叫ぶ。
「どの人ですか?」
女性が連れて来たと思われる男性が首をかしげながら女性に問いかける。
「この男の方です!」
と言いながら女性は指さした方向を見る。
「あれ?いない!?」
その反応を見て、多分俺を探しているんだろうな、と思い声をかけることにした。ちなみに今までは勢いよく誰かが入ってきたことにびっくりして物陰に隠れている所である。
「あの、俺のことですか?」
「そうです!この人です!ってえぇ!?」
何にそんなに驚いているのか、後ろ向きに倒れるのではないか?というぐらい驚いている。いい反応だな。じゃなくて…
「俺がどうかしたんですか?」
「どうかしたんですか?じゃないですよ!すごい怪我だったじゃないですか!」
「え?」
俺は女性の言葉を聞いて自分の身体を見る。隅々まで見てみるが怪我をしている様子はない。
「どこも怪我していないんですが?」
「そ、そんなぁ」
女性は力が抜けたようにへたり込んだ。なんだかいちいち反応が面白くて可愛い、などと思って少し笑っていると男性の方が俺に近づいてきた。
「一応、見させてもらいますね?」
「お願いします」
男性はしばらく俺の体を見た後、特に異常はないですね、と呟いた。この男性は医者なのだろうか?まぁ、今はどうでもいいか。そんなことよりも、さっきから地面に座っている女性だ。
「大丈夫ですか?」
「はい、あなたこそ大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫ですよ」
そう言いながら俺は女性の手を掴み、女性を起こす。
「ありがとうございます」
「いえ」
まぁとにかくなにもなくてよかった、と安心したところでふとどうでもいいこと思った。異世界転生じゃなくて、異世界転移だったんだな、と。