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【四話】悩む少女

宿で遊び人共は酒を飲んでいた。……かなり強いお酒を一気飲みする奴もいた。ムーンだ。あいつはあの遊び人の中でもかなり酒に強い奴だった。他の2人も相当強い酒を飲んでもある程度は平気なのだから、正直凄い。流石遊び人。素の状態でここまで強いのはもう流石としか言いようが無い。


……俺?俺はチート能力のお陰で酒なんてビクともしないね。アルコールが吸収されても、瞬時に回復するから、酔っ払う事は無い。ある意味これも便利な能力だ。流石俺様。神だわぁー。


後、この世界は酒に対する規制が無いから、子供でも酒を飲んでいる。これはマジ。

まあ、俺はどっちにいても問題無いけどね。20超えているから。

マナは飲みすぎたのか、寝てしまった。布団かけてやるか。今夜は冷えているから、そのままの姿で寝たら風邪を引いてしまう。俺なりの優しさってもんさ。流石の俺でも鬼にはなりたく無いからな。

ムーンはまだ飲み足りて無いのか、まだ酒を飲んでいる。と言っても、先程の様にただひたすら飲む訳では無くて、少しずつ、少しずつ飲んでいるのだ。


「……まだ飲み足りてないの。貴方も一緒にどう?」


「うむ。頂くとしよう。」


「うふふふ♡ありがとう♡」


普段の口調とは随分違う雰囲気なのだが、あれ自体が多分嘘の演技なんだろう。本当はこの様な普通の女の子だったのだろう、しかし様々な事情があったせいで歪んでしまって、あの様な性格になってしまったのだろう。あいつらも、本当は普通の女の子になりたいと思っているのかもしれない。


「いつもは酷い事を言ってごめんね……本当はそんな事思ってないんだけどね。」


「いやいや、大丈夫さ。僕も別にあの程度じゃあキレないさ。」


「フフッ。そうね。貴方はいつも冷静に判断していたからね。」


「いやいや、普通の事さ。ところで、何故その様な事を今?」


「……私は、物心がついた時には既に両親に売られていたの。」


「何だって?どうしてだ?」


「真相はまだ分からない。けど恐らく、お金の事でしょうね。お金が無くて、私を売った。売って自分達は金を手にした。だけど売られた方の子供はどうなった?子供の方は突然変な場所に送り込まれ、働かされる。怖い人達に怒られづづけて無償で永遠に働く。地獄でしか無かったわ。」


「……」


ケンタロウは黙る。ここで下手にリアクションを取らない方が良いと考えたからである。


「そこから逃げたかった。早く逃げ出したかった。けど私、見つかって捕まった時の姿を自分で想像しただけで震えてが止まらなくて、怖くて、そんな事を出来そうにも無いって思ったの。真面目に生きても、地獄で労働されるだけ。自殺しようとしても、何処からか見張っていた人達に捕まって拷問を受ける。私は絶望した。生きているって事に絶望してしまったの。


……その時だった。私の心に、もう一つの人格が宿った瞬間が。あの人格が。みんなの機嫌を良くする為に私は何でもした。自分を偽りつづけて、自分が地獄から通りざける様に努力した。


……そのせいか、私はやがて、演技以外でもあの人格が出るようになってしまって、それがどんどん悪化していく事に痛感した。

なんとか直そうと考えたけど、自分を偽って来たせいで変えたくても無意識に戻っちゃうから中々あの性格を止めることが出来ないの。今ではもう、酒で酔っている時しかこんな感じで喋る事が出来なくなっちゃって……


……私、どうなっちゃうのかな……?このまま完全にあの性格に染められて元々いた自分が消えちゃうのかな?今のこの女の子の感情が死んじゃうのかな?そんな事を考えていると……怖くて……怖くて……安心して眠れないの……!ねぇ、どうすればいいと思う?私は、どうすれば救われると思うかな?ケンタロウ、私は何をすれば良いの……?!」


女の子は己の心の闇。その侵食によって自分が消される事に怯えて、泣いている。

これまで自分が生きた記録も、全部それに抜き取られて消滅する事を、彼女は恐れている。

本当は、優しい心を持った女の子、だったはずなのに、いつの間にか黒い心に塗り替えられようといる。

彼女は、辛い記憶の中で生きてきた人間だったのだ。悩める乙女だったのだ。

ろくな人生を歩んでこなかった俺に比べて、その人生の重さは比べるまでも無かった。

ここまで深い闇を抱えている女の子を救いだす事は出来るか?


俺には出来ない。それを払うには俺では経験が圧倒的に足らなかった。

だが、払う事は出来なくても、励ます事なら出来る。それなら、誰でも出来る。


俺にでも出来る。唯一の方法だ。


「……なら、俺と2人でいる時は、その本音を曝け出せば良い。無理に変えようだなんて、考えなくても良い。普段はいつも通りのままでいい。だけど、俺と君だけの時は、君の本当の姿を俺には見せる。俺だけになら見せても良いんだと。そうすれば、絶対に消えないはずだから。優しい心を持つ君を、俺が忘れない限り、君は生き続ける事が出来る。俺が君の救いになる。だから、諦めずに生きてくれ。」


俺なりの精一杯の言葉を言えた気がする。これ以上言える言葉は残念ながら持ち合わせていない。

けど、これで彼女の救いに少しでもなれれば、それで良いと思っている。


……あれ、泣いている?まさか、このセリフが気持ち悪過ぎて告白とかでも思われちゃったか?!

どうしようどうしようどうしよう。俺まじでどうすr


「ケンタロウ!!」


ムーンに抱きつかれた。近い。意外に力強い。潰されるるるゥゥゥゥ……


「……ありがとう……!」


彼女は泣いた。思いっきり泣いた。今まで我慢した感情が一気に溢れ出したのだろう。どうやら俺は、彼女の救いになれたらしい。良かった良かった。


その後は、ムーンと2人で一緒に酒を飲みながら夜空を見た。

そういや、ミーナ何処言ったんだろうね。

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