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第7話 スライムの可能性……スライムって言ったら、触手だよね?

 ヴォルカニックバードに腰掛けて足をゆらゆら揺らすキアラ、サックリ鉤爪に耐えている俺、キアラの太ももを見つつ俺を羨む相棒。

 ショートパンツから伸びる太股が太陽のように輝いている。

 う~ん、眩しいぜ! 耐えたご褒美がこれなら文句はない。


「大まかなところはそんな感じよ。明日は実際にモンスターを配合してもらう。詳しくは、配合しながら確認してみなさい。質問はあるでしょうけど、それも明日ね。お疲れ様!」


 説明を聞いた俺たちはいろいろと確認したかったが、明日まで待つか……いや、待てよ?


「なぁ、姉御。本とかないか? この世界のことを知りたいし、さっき言われたことも復習したい」


 唸りながら、難しい顔をするキアラ。

「う~ん、余計なことをしないでよ? 本当は檻に入れてしまいたいけど、大人しく本を読むなら許可しましょう。ヘルミナに本のある部屋に案内してもらうわ」


 キアラの太ももに意識を割かれていた俺たちは、背後に近づいていたものに気付かなかった。

 と言うより、背後の風景が歪む。一瞬の歪みが元に戻ると同時に、そこから背後からコウモリのような羽根が覗く美女が現れる。

「もう少し周りへの警戒をしたほうがいいかもね。ウフッ。ヴァンパイアのヘルミナと言うの。よろしくね」


「気付かなかったのは無理ないわよ、あなたたち。ヘルミナは、後ろを取るまで幻術で姿を隠していたわ。ジョブは《幻術師》だからね」


 紹介されたヘルミナは、幻術師からイメージするローブ姿の杖ババアなどからかけ離れた女性……俺には怪盗三姉妹をイメージさせるタイツを着ている美女だった。

 ヴァンパイア然とした白めの肌、暗い赤色の髪と目、大きめの八重歯が印象的だ。

 タイツなのでスタイルが丸わかり、小ぶりだが上向きなのも確認できる。

 ついでに背後から確認したいのは、肩から少しだけ覗かせているコウモリのような羽、それに続くくびれとおしりなんだが……


「あなたたちがいる間は、私たち全員の服装は気をつけたほうがいいかもね」


 どこに意識を割いていたかを気取られたようだった。

 しかし、それ以上に気になることがあった。


()()ということは、他にも見るべき女性がいるってことか!?」


「だめだよ、ヴァン。まずは、ヘルミナさんに挨拶をしないと……ヘルミナさん、ごめんなさい。騒がしくて。僕はスライムのエリックと言います。よろしくおねがいします」


 相棒め! 俺をダシに点数を稼ぎやがって。


「ヘルミナっていう名前なんだな。俺は、同じくスライムのヴァン。エリックの弟だ。兄弟ともどもよろしく!」


 俺たちの挨拶に明るく答えてくれるヘルミナ。

「ウフフ、ふたりともよろしく。ただ、あまりジロジロ見ないでほしいというのが本心よ。《幻術師》というジョブだから、視線はあまり好まないの」


 挨拶を済ませる俺たちに、キアラは声を掛ける。

「ヘルミナは、私の側近でとても信用しているわ。どれぐらいかというと、会って数分で私を怒らせるような奴らとは比ぶべくもないわね」


 相棒の身体は小さく波紋を浮かべる。

 信頼度の差ににショックを受けているようだ。

 確かに、今日の行動で信用を勝ち取ることは土台無理な話だ。


 すまんな、俺が巻き込んだ部分も多いからな。

 ただ、目覚めちゃったのは俺のせいじゃないぜ?






 §§§§§§§§§§§§§§§


 キアラと別れ、ヘルミナに案内された部屋で俺は興奮した。

 12畳程の部屋に、人が通れる通路を残して本棚がところ狭しと並んでいる。


「ここからが人間に関する本で歴史書などになるかな、あまり数は多くないの。残りのほとんどはダンジョンに関するもの。読んでいいのは、モンスターに関する資料で、この棚のここから………こちらの棚のここまでね。それ以外の蔵書に関しては、キアラに閲覧を禁止されているの。破ったら、どうなるかわかるよね? ……休む場所は隣のスペースね。飲食物はそちらに用意しているわ」


 ヘルミナの言葉は、子どもに諭すような口調だ。なんか優しい保健室の先生みたいだ。

 しかし、禁止事項に関しては妖艶な雰囲気とともに威圧感を感じたので、オイタはしないようにしようか。


 許可された本は、全体からするとあまり多くはない。しかし、未知の世界における本には心躍る。

 案内された俺達は思い思いの本棚に行く。俺は人間の歴史書、相棒はモンスターの図鑑の類のようだな。

 やはり、文字も読めるようだ。今まで言葉が通じてるしな。

 ただ、読み慣れない感覚が強い。


 少し戸惑っている()()()に、ヘルミナが告げる。

「魔王があなたたちをダンジョンマスターとして転生させた際には、その資質も一緒に植え付けていると思うわ。その中にはダンジョンマスターならではの知識がある。そして、ここにあるのはダンジョンマスター用の本よ。だから、初めての文字だと思うけど、あなたたちは読めるようになっているはずよ」


 本棚のあっちにいる相棒も、俺と似た反応を示したのだろう。

 この世界の魂である相棒が、文字に戸惑う理由がないからな。

 説明を加えヘルミナは、俺たちが本に集中し始めると部屋を出て行った。


 まぁ、理由がどうあれ、読めるなら問題ない。

 読みにくくても、どんどん読めばそのうち慣れていく。

 勉強は得意だ。




 時間が経ち、一区切りついた俺は飲食物のあるスペースへと向かう。

 区切られたスペースはサロンのようになっており、一休みできるようになっている。

 ……ベッドとかはない。

 スライムに必要ないのか、俺たちに用意しないのか……


 まぁ、答えはわかっている。

 さっき、相棒が部屋の外に出られるか試していたが、鍵を掛けられていた。

 そういうことなんだろう。


 サロンでくつろいでいる相棒の前には、見た目から味が想像できない食べ物が並ぶ。

「どれもおいしいから、まずは食べてみたらいいよ。これなんかはオススメかな?」


 俺は、相棒のオススメを美味しく身体の中に浮かべる。

 前世とは全く違う食べ方だが、美味しく食べられた。


 俺が食べるのを安心した様子で見ている相棒に、俺は聞く。

「前世と何か違うことはあったか?」


「お姉さまの言うとおり、モンスターの分類、と言うよりは捉え方が違うね。だけど、そこまで気にするものはなかったかな。それよりも文字は大丈夫? 僕は、前世の知識と一緒に文字を読んでいるから、まだ読みやすいけど」


「俺は人間の歴史書を読んでいるから、そんなに気にならないな。やはりどこの世界でも一緒なんだな、歴史書の書き方ってのは。前世のときの歴史の方が、見にくくて醜いぐらいだ。為政者ってのは自分を正当化したいからな。ここのはダンジョンマスター用って言うぐらいだから、偏りがなくて読みやすい」


「そうか、それもそうなんだろうね……ただ、僕は歴史書なんてあまり読んだことがないよ。ヴァンは勉強家だったの?」


「そうだな、侠客だからこそ勉強が必要だと息巻いてた時期があったからな。まぁ、勉強は得意だな。実際にこの身体は便利だぜ? 身体全体で考えて見ることができる上、2冊以上同時に読めたりできるんだからな」


「ヴァンはすごいね。そんなことまでしてたんだ。前世では勉強家なんて言えなかったけど、今からはヴァンを見習って頑張ってみるよ。その同時に見るってのはどうやるの?」


「そうだな……ちょうどいい、この2つの違う果物を同時に食ってみな。んで、それぞれを味わうようにしてみな」


 2つの果物を二本の太めの触手で食べようとする相棒。

「ん~、こうかな? 2つの味はわかるけど、難しいな」


「こう食べるんだよ」


 相棒の果物をひったくろうとして、相棒の触手と俺の触手が交差する。

 その瞬間、奇妙な感覚に襲われる。

 まだ食べてない果物の味が分かったようなのだ。


「!!! 今、なんか変な感じがした。エリックはどうだ?」

「……うん、食べ物を味を感覚的に説明できた気がした」


 これってすげぇことじゃね?

 元々が同じ身体だからなのか?


「試してみるか……ちょっと俺の触手に触れてみろ。俺の前世の姿をイメージしてみる。感じ取ってみてくれ」


 触手と触手を伸ばし、おっかなびっくり先端を接触させる。

 E○か! ついでに光らせられないかな?


「このゴーレムが崩れたような動物は、○Tって言うの? 本当に、これがヴァンの前世の姿?」


 失礼な! 人間でもないじゃないか!

 ってか、そっちのイメージが先に伝わっちゃったか。

 ……でも、この即応性は驚異的なスピードだな。


「違~う! 変なイメージが混ざった。これが俺の本当の姿だ」


 今度はちゃんとイメージをして伝えるが、

「これがヴァン? 確かに、ヴァンらしいんだけど……嘘をついてない? さっきのはなんなの?」


「信用ないな! まぁ、いい。でもこれは使えるな。それぞれの前世のことを知りたいが、それよりも面白いことができるぜ。読んだ本の情報をイメージして、情報を交換するんだ。読むスピードが数倍上がるぜ」


「それは面白そうだね。それに、モンスターの情報とかだったら前世の知識と一緒に渡せそうだ。これでヴァンと同じ勉強家になれそうだ。やろう!」




 俺たちは移動し、片っ端から本を読んでいく。

 それぞれ2冊以上の本を読みながら、情報交換も同時並行だ。

 身体の一部を休ませつつ、ぶっ通しで読み続けたが、問題ないようだ。

 許可された大体の本を読み終わり、内容を反芻しながら整理する、もちろん情報交換をしながら。


 内容も整理し終えたら、余裕ができる。

 いろいろと試す中で、授受する情報も任意で選べるようになっていた。

 ついでに、前世のこととかも含めて、大量に情報を相互交換する。




 数時間が経ち、キアラが様子を見に来た。

「さぁ、馬鹿者たちのエリックとヴァンはどこ? 変なことをせずに、大人しく本を………………なんで、触手で絡まり合った上に、無言なんだよ……」


 う~ん、説明しようにも、初見のこの状態は誤解を免れないよな。

 

 キアラの目に映るのは、俺たち。

 引っ付いて取れない餅のように、触手と触手を絡めている2つのスライムの姿だった。




 大好きな本を読む……光の出ない触手なのに、LANケーブル(クロス)なんかより性能が半端なかった。


 ミギ○の話と触手で、ロマンある可能性を考えたんですよ?

 何を期待したんですか?

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