第6話 モンスターの構成要素を教えてもらう……が、教育的指導の認識が違いすぎる
悪意に気付いた俺をニヤニヤしながら見るキアラ。
「さぁ、次よ。今度はランクの違いを体感してもらう。最初のランク1をエリック、ランク3をヴァンが担当。自ら挑戦しないと成長はないわよ!」
確実に、キアラのテンションが上がっている。
どんだけSなんだよ……明るく良さ気な言葉で締めくくってるが、純然たる嗜虐心しかないだろ。
ゲンナリする俺を傍目に、ゲンキンな相棒は喜ぶ雰囲気すらある。
そんな相棒の目の前の空間が捩れていく。
現れたのは普通の大きさのニワトリだったが、身体全体が石の羽毛で覆われている。
羽毛の見た目はその辺に転がっている石と変わらない。
しかし、全体的に石で覆われているため、硬そうな上に保護色にもなっている。
群れで潜伏されたら、気付かずに群れのど真ん中に踏み入ってしまいそうだ。
ただ、やはり一匹のみのランク1。
首にまとわりつき、ニワトリを難なく仕留める。
今度は溶解しにくかったのか、先に窒息したようだ。
仕留め終わったところで、キアラが口を開く。
「今のは、《(けもの+物質)×火山×グラップラー》のランク1の『ストーンバード』ってモンスターだ。さぁ、ヴァン? お待ちかねの同じ配合のランク3、『ボルカニックバード』! 油断すると……死ぬわよ?」
空間が捩れ始める。
そう言えば、さっきの《アクア》を掛け合わせたモンスターの名前を聞いてねぇな。
穴を掘るアナコンダは『アナホリンダ』、地中から跳んでくるツチノコは『ツチナカノコ』とでも覚えておこうか。
なかなかナイスネーミングだな、俺。
しかし、アホな言葉遊びをしている間に出てくる黒い靄は……大きい。
焦って距離を取る。
さっきのイノシシよりも大きいワシが岩肌に降り立つ。
単に大きなワシではなく、こいつは岩の羽で覆われていて所々赤熱している。
オイオイオイ、これはヤバイだろ! 油断してなくても死ぬだろ、これ!
咄嗟に逃げようとする俺を鋭い鉤爪で捕まえ、颯爽と空へ飛び立つ。
鉤爪はサックリと食い込み、口に纏わり付く作戦もすでに封じられた。
鉤爪にズタズタにされながらも軟体ボディで逃れることも考えるが、そんなことを許してくれそうな雰囲気はない。
青ざめる俺を捕まえたまま、空を悠然と翔ぶワシ。
捕まえられたまま、俺は下を見る。
たった今までいた火口の縁に見えるのは、慌てるエリックと悠然としたキアラ。
絶望的な俺を助けようとする相棒を隣に、明るい声で叫ぶキアラ。
「大~丈~夫~? ちなみに、そいつは口から火を吐くから、窒息させる戦法は元々使えないからね~。そして、実はジョブこそ違え、私の下位互換のモンスターなのよ~、そいつ~。可愛いでしょう~? ランクが違うだけで、強さが桁違いでしょう~? それを実感してもらいたかったの~。じゃあ、そろそろ死ぬ~?」
青くなっていたが、青筋を立てて怒る(緑色のままの)俺が毒づく。
「このアマ! 何がそろそろ死ぬかだ! この状況はてめぇの思い通りの筋書きだろうが。やれるもんならやってみやがれ!」
何か意図があって、保護者として情報を言うからには簡単には殺さないはずだ。
まぁ、これで殺されそうになったとしても、漢なら全ての結果は受け入れて然るべきだ。
そして、俺は前世で言いたいことを言ってきた、それは今からも変わらない。
「ア・マ・だ・と? さっき言ったでしょ? 保護者には逆らうなと!」
キアラの肩の陽炎は、語気が強くなるに連れ、炎に変化していく。
陽炎が全て炎に変化したことを皮切りに、俺を捕まえたままワシが降下し始める。
地面に押し付けられた鉤爪サックリの寒天ゼリーに、肩を炎で彩るキアラが問いかける。
「何か言うべきことがあるよねぇ~?」
貼り付けたような笑顔のキアラを前に、次の発言を俺は考える。
クソっ、漢らしく言いたいことを言ってやる!
「ナメた発言を許して下さい、姉御。先ほどの発言は前世では日常会話のようなところで生きていたんです。逆らったつもりはありません」
心底! 今! 言いたいことを言ってやったぜ。
見てたか、相棒?
「お姉さま、ヴァンを許してやって下さい。良ければ、代わりに僕が、そのゴ……罰を受けます」
お前っ……その発言……流石は相棒……
今……御褒美って言いそうになったんだろ?
「その後、罰」じゃなくて、「その御(褒美)」だったろ?
その物言いのセンスは、見習いたいが俺には真似できない。
しかし、その物言いのスタンスは、俺は真似したくない。
だが確かに、相棒は言いたいことを言った上で、理に適った物言いをしたわけだ。
そんな相棒と俺の心理を無視して、キアラは冷静に相棒に答える。
「安心しなさい。殺すような馬鹿な真似はしないよ」
残念そうな表情を(ボディ表面に)浮かべる相棒。
その気持ちは、俺を助けられなかったからか? ゴ(褒美)が貰えなかったからか? どっちだ?
「言ったでしょう、アタシは保護者だと。それに、モンスターは操れると。まぁ、痛めつける目的もあって、絶対に勝てないランク3にしたのだけどね」
やはり、俺の予想通りではあったわけだが……
「悪意は否定しないんだな、姉御」
鉤爪が食い込み、地面に潰されている俺を確認するキアラ。
そして、俺を踏んづけて、ボルカニックバードの背に上り、足を投げ出すように腰掛ける。
「これは教育的指導なのよ? ありがたく受け取りなさい」
俺の謝罪とひしゃげた姿で、すでにキアラの怒気は収まっているようだ。
しかし、山本五十六の教育的格言は知っているか?
『やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ』っていうのがあるんだ。
ただ、ここは異世界だからな?
知らないだろうから、言葉には出さずに心の中にしまう俺。実は続きもあるんだぜ?
思いの丈を飲み込み、現状の打開を試みる。
「その指導は心身に刻み込まれたよ。(実際に、)スライムボディが鉤爪で切れてるし、焼けてもいる。この痛みも忘れない。今後もこの教育的指導をありがたく受け入れるから、今回はそろそろ放してはくれないだろうか?」
なかなか屈辱的な状態だが、これもしょうがないと割り切り、受け入れるしかないだろうな。
山本五十六の漢の格言ってものがあるしな。
『苦しいこともあるだろう
言い度いこともあるだろう
不満なこともあるだろう
腹の立つこともあるだろう
泣き度いこともあるだろう
これらをじっとこらえてゆくのが
男の修行である』
やっぱり漢はこうでなくちゃな。
だが、残念なことにキアラは知らないだろうから、言葉には出さずに心の中にしまう俺。
そして、そんな思いを露知らず、明るく宣う女性のキアラ。
「ああ、今も痛めつけているのは、わざとで教育的指導なのよ。肉体再生があるでしょう? まぁ、いつか放してあげるわ。その後はそいつ自身の好きにさせるかもね」
一向に事態が良くなる気がしねぇ……これも修行なのか……
しょうがない、話を変えてみるか。
「姉御、ジョブだったり、モンスターに込めるエネルギーってのは何なんだ? 系統やフィールドには、他にどんな種類があるんだ?」
鉤爪に捕まったままの俺、その状況を羨ましそうに見る欲望に捕らわれたままの相棒。
キアラは、その状況を上から眺めつつ、このままの状態で説明を始めてしまう。
これも漢の修行なんだろう……相棒、心底代わってやりたいが、これもこらえていくしかない。
・エネルギーとは、DP-ダンジョンポイント-と言い、自身のダンジョンで活動する人間などの生物が活動した時に得るエネルギーを指す
・モンスターを配合する際のDP量は、ランクと掛け合わせる数に比例する
・ただし、自身を構成する要素ならば、DPのコストはかなり抑えられる
・自身の固有能力は、モンスターに付与できるが、DP量は高い
・系統の配合はベースとサブの2つまでで、掛け合わせた方が強くなる
・ベース系統がモンスターの在り方を決定し、サブ系統が多少影響を及ぼし、モンスターの種類を決定する
・モンスターのランクは、1から5まである
・ダンジョンマスターはランク外にあたり、ダンジョンマスターというランクになる
・系統は、スライム/アクア/植物/バグ/けもの/物質/アンデッド/悪魔/ドラゴンの9系統
・それぞれ、特徴的な方向性と強化されやすいステータスがある
・ステータスは、スタミナ/筋力/耐久性/敏捷性/気力/身体操作性/魔力量/魔力操作性/特殊の9ステータス
・フィールドは、森/平地/山/海/地下/砂漠/火山/氷河の8フィールド
・フィールドを変えれば、同系統同ランクでも全く別のモンスターになる
・ジョブは、基本職とその掛け合わせとなる上級職に分けられる
・基本ジョブは、ソルジャー/グラップラー/魔法使い/聖職者/レンジャー/パフォーマーの6職
・上級ジョブは、系統の配合と同じでベースとサブの2つで構成
・上級ジョブになると、ステータスや基本職スキルの強化に始まり、便利な固有スキルを持つことが可能となる
痛みに耐えている俺の上で、足をゆらゆら揺らすキアラ。
キアラの説明を聞くことに注力したが、痛みを紛らわすことには心血を注いだ。
といっても、目の前にご褒美があるから、そこまで苦ではなかった。
目の前のご褒美は、褐色の太もも。
ボルカニックバードに腰掛けるキアラは、ショートパンツだからな。
ショートパンツから伸びる太ももが輝いていた。
う~ん、眩しいぜ! 耐えたご褒美がこれなら文句はない。
ちなみに、相棒もこの輝きを見ているようだが、俺の状態を恨めしそうに見ている。
視線のない俺たちの注視は、キアラには気付かれず……
「大まかなところはそんな感じよ。明日は実際にモンスターを配合してもらう。詳しくは、配合しながら確認してみなさい。質問はあるでしょうけど、それも明日ね。お疲れ様!」
保護者としての義務感からなのか、キアラの笑顔は輝いていた。