第4話 ガキが現れた……嫌でも魔王と実感した
金曜日投稿を忘れていました、ごめんなさい。
そこに現れたのはガキ、それも薄ら笑いを浮かべる生意気そうなガキだ。
やけに整った顔、緑と蒼のオッドアイ、無造作な短い金髪、服装は上品な光沢を放つ白のワンピースをベルトで留めている。
「やぁ、ご機嫌よう、キアラ」
キアラに向いてにこやかに明るく高い声で話す様子は、無遠慮そのもの。
ガキ特有の万能感だけで生きているようで、腹立たしさを感じる。
見た目も中身も、生意気なガキにしか思えない。
キアラが言うように、本当に魔王なのか?
疑う気持ちは大いにあったが、注意されたばかりだからな。
「これは魔王。ようこそ、私のダンジョン〈フェニックス〉へ。こちらのスライム2人が新たなダンジョンマスターです。ご承知のように、双子として生まれ、一時間も経たないうちに『名乗り』まで終わりました。なかなか手を焼いているところです」
朗らかな口調のキアラの言葉に、咄嗟に反応してしまう俺。
「いや、焼かれたのは俺たちの方なんだぜ、魔王さん」
その言葉に、ゆっくりと俺の方を向く魔王。
「確かにそうだろうね。上手い指摘をありがとう、ヴァン」
俺は戦慄する。
俺たちの名前はまだ言ってない上に、並んでいる相棒と俺は双子だ。
しかし、確実に俺のみに視線を向けた魔王は俺の名前を告げた。
俺たちが警戒しようとする瞬間、
「ただ、僕はまだ君らに挨拶してすらいないのに、キアラとの話に割り込むのは如何なものかなぁ?」
圧倒的なプレッシャーが、現実的に心臓を握られたような実感を与え、俺は意識を手放したくなる。
相棒のエリックはプレッシャーを掛けられていないようだが、確実に強張っている。
俺がなんとか謝罪の声を絞り出そうとする前に、相棒が一歩前に出る。
「申し訳ありません。魔王様とお呼びすればよろしいでしょうか? 僕は、新たにダンジョンマスターとなったエリック、ビショップのスライムとしてここにご挨拶を申し上げます。そして、不躾ながら弟であるヴァンのご無礼をどうかお許し下さい」
頼りになる相棒だ。
いくらかプレッシャーが弱まり、声を絞り出せた。
「……不遜な態度を取り、誠に申し開きございません。俺はヴァン、頼りになるエリックを兄とする、侠客のヴァンと申します。ご容赦頂けるならば、どうかお見知りおきを」
数瞬の後、魔王のプレッシャーから解き放たれる。
「謝罪と挨拶を受け入れるよ、エリックとヴァン。気をつけようね、どんなに親しくてもマナーというものがあるよ」
俺は緊張と警戒をしながら、発言する。
「謝罪を受け入れて頂き、感謝いたします。できれば、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「そうだなぁ、まだ君たちはダンジョンも創ってもいないアリンコ以前の石っころ。そんな君らに名乗れる名は持ち合わせてないよ。僕のことは『魔王様』と呼んでくれないかな?」
「魔王。この子たちの無礼を許して頂き、ありがとう。お前たちも相手を見誤ってはいけないわよ。この人は魔王。私たちが逆立ちしても敵わない私たちの親に当たる人よ。ちなみに、私は過去に魔王と呼んで良いようになっているの」
プレッシャーは感じないが……俺はもう実感してしまった、この魔王の恐ろしさを。
「魔王様、出過ぎたことを申しました。平にご容赦を」
「うんうん。素直なことはいいことだね。君はこの世界の魂ではないから、君なりに人間を滅ぼしてくれることを願っているよ。素直なことに免じて、一つ教えてあげよう。この世界の言葉を君が分かるのは、この僕が君の記憶を調整してあげたからだよ」
謝罪を受け入れた魔王は、今度は相棒の方に向き直る。
相棒は驚いて波紋を浮かばるが、それのみで魔王の言葉を受け入れる。
「そして、エリック。君の救いたい気持ちは尊重するけど、人間を滅ぼさないと、君自身が滅ぼされることになる。そのへんをよく考えてね?」
先ほどの薄ら笑いと違い、俺たちに向かって満面の笑みを浮かべる魔王。
ただ、子供の素直の喜びとは違い、その邪悪な思想は表情に表れている。
本当に、ダンジョンマスターとして人間を滅ぼさないといけねぇんだな。
「では、簡単な挨拶も終わったことだし、用件を伝えよう。3日後、このダンジョン〈フェニックス〉で顔見世パーティーを開催してくれるかい、キアラ? 通告はこちらから出しておくよ。いつもどおりの顔見世パーティーだ」
キアラは無表情に頭を下げる。
「当然のことです、魔王。滞りなく用意しましょう。楽しんでいただける場を用意しておきます」
キアラの言葉のあとに、俺たちに明るく語りかける。
「では、今日はさようならだね。最後に、今からキアラに扱かれるだろう君たちにアドバイスだ。『渇望し行動すること、それがこの世の真理』。この世を楽しんでくれ」
その言葉を言い終えた魔王の表情から光が失せる。
先ほどの明るい声とは打って代わり、抑揚のない地味な声で発する。
「残りもいつもどおり、パーティーの前払いだ。受け取ってくれ」
キアラはおもむろに魔王に近づき、手をかざす。
何をするのか注視する俺達の目の前で、キアラは何かを呟く。
その瞬間、魔王は青い炎を巻かれながら、焼かれていく。
「この素体、あなたたちが魔王の思っているこれは、魔王の通信用のモンスターなのよ。そして、このモンスターのDPを吸収することが、さっきヤツが言った前払いっていう意味」
呆気にとられている俺たちに、キアラは言葉を続ける。
「ヴァンの受けたプレッシャーは本体の持つ力そのものよ。エリックもその力は感じ取ったわよね? ただ、本体はここに来ていないってだけのことよ。何者かは言ったけど、アレが魔王で、正真正銘の化物よ」
俺は先ほどの精神的ダメージから払拭しようにも、すぐには抜け出せない。
「大丈夫、ヴァン? さっきはかなりの威圧を受けていたようだけど?」
「ありがとう、エリック。なかなかにしんどいが大丈夫だ。一つ謎は解けたしな。俺の魂がアイツに弄くられていると思うと不愉快だがな」
それを見ていたキアラが鷹揚に話し出す。
「ヴァン、アレの前でははしゃがないほうが懸命よ。せめて、面白いダンジョンを創るなり、まずは認められないとね。私はあることで認められて、『魔王』と様をつけずに呼ぶことができているの」
キアラからの言葉で、少し持ち直してきたな。
「そうだな、姉御。アイツだけはいけねぇ。他にもあんな奴がいるなら、考え直さないといけないけどな」
「そうね、あんな化物はアレだけで充分よ。ちなみに、私はこの世界で有数のダンジョンマスター、これを指標にしておくといいわ」
雰囲気を変えたいのか、相棒が弾む。
「そうだよ。ダンジョン〈フェニックス〉はとても有名なダンジョンなんだ。後でどれぐらいなのかは教えてあげるよ」
「よろしくね、エリック。では、なぜ魔王が来たのかを説明するわよ。まず、新たなダンジョンマスターが生まれたら……正確には、〈名乗り〉をすることでダンジョンマスターとして確立した瞬間に、魔王との接見になるの。私が慌てたのはこのせい。いきなり魔王から連絡が入ってきて、あなたたちの様子を見に行くと告げられたのだからね。私には〈名乗り〉をした覚えがないのによ」
先ほどの2人が強く光ったこと、所謂〈名乗り〉がキアラにすぐにバレた理由がやっと納得できた。
そして、キアラの赤熱アイアンクローを思い出し、少し緊張する。
そんな緊張を余所に、キアラは言葉を続ける。
「つまり、〈名乗り〉はダンジョンマスター同士でやるの。保護者であるダンジョンマスターと新たなダンジョンマスターの間でね。予定では、任意の固有能力とジョブを良く吟味する一日が経った時。通常、ダンジョンマスターは一人だけで生まれるから、監視下のもとでしか〈名乗り〉はできないはずなのよ」
う~ん、良く考えてみると、少し後悔をしないでもないが……
「それを聞いたとしても、俺は全く後悔はしないぜ。吟味しなかった結果で死んだとしても、俺は納得できるからな」
「僕もヴァンの言う通りですね。新たな生を享受しましたが、今までの生き方は変えられないです」
手をはためかせるキアラ。
「それはもういいわ。仕返しはしたし。で、次に『顔見世パーティー』のことよ。これは、至って簡単。このダンジョンに、特別に他のダンジョンマスターを呼んで、あなたたちの紹介をするの。まぁ、用意することはあるけど、それは追々ね。あとは、あなたたちにダンジョンに関する知識と経験を教えることが、この3日間でやることよ。返事は?」
俺たちは、お互いに視線を交わし(たように、波紋を浮かべ)、応える。
「わかりました、お姉さま」
「了解だ、姉御」
「呼び方はどうでもいいけど、さっきも言ったように私に逆らわないようにね」