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第3話 美女を燃えさせた……俺に可愛いスライムだなって萌えてほしいのに、逆に俺が燃えそうになった

 俺の動き以外の、全ての時間が止まる……………………

 その針を進めたのは、キアラの脱力しきった言葉。

「お前は、頭の回転は早いし、感も良いが……やっぱり、馬鹿だ」


 呆れ返るキアラに反して、弾むエリック。

「もう、発現したの? すごいじゃないか。それに、モンスターを美女にするなんて能力は全く想像できないよ。流石、ヴァンだね」


「あれ、おかしいな。キアラも、『もう、能力発現したのかい? すごいじゃないの!』って流れじゃないのか?」

 俺は、首を傾げるように、寒天ゼリーが片側に傾くように体を曲げた。


「はあぁぁぁ……ダンジョンを作りながら能力を発現させるのは、自分のダンジョンを作る上で必要かつ効率的な能力を見定めるため。それに、本人が強く納得しイメージできないと発現出来ないから、ダンジョンの知識がいくらか必要なの。実際には、イメージが必要だから無茶苦茶な能力にもならないけど……今選んだ能力は、もう変えられないのよ? それに、良い能力を持ってもらいたいじゃない。この馬鹿!」


 呆れ返って、説明をしてくれるキアラ。

 陽炎がゆらゆら全身から立ち昇る。


「ん~、俺的には最高の能力をイメージできたんだがな。能力名は《太夫化(たゆうか)》っていうんだ。それに、最後の『この馬鹿』はハニカミながら、言ってほしいな」


 からかう俺に、キアラは、肩だけではなく全身から炎を立ち登り始めた。

 しかし、それと同時に、隣のエリックが強い光に包まれる。


 光が収まり、おずおずと言葉を繋ぐエリック。

「僕は、《救急搬送》にしました。時間を止めて転移できる能力のようです。傷病者の元にすぐに駆けつけたい時や危険から逃れる時というのが、今までで一番無力さを感じたからです。死に瀕した攻略者を安全に転移させたい気持ちをイメージしました」


 肘で小突くように、ぶつかって弾むスライム。

「その能力もすげぇじゃねぇか。流石だな、エリック」


 弾みまくる二つの寒天ゼリーとなった俺達は気付けなかった。

 完全に、燃え上がる炎となっているキアラに。


 少し明るく熱くなったなと思った瞬間、ブレる視界と共に、地球で死んだ時の痛みを思い出した。

 加えて、ブレる視界の端に捉えたのは、俺の相棒エリックがキアラに拳でぶっ飛ばされているところだった。


 俺は、壁にへばりつくようにぶつかった後、床に落ちて、抉れた傷を持つ……一口食べられたような寒天ゼリーになる。

 が、すぐさま抉れた部分が再生し始める。


 エリックも壁にぶつかったはずだと確認すると、既に台座の上に戻っている。

 あいつ、ぶつかる寸前に転移?したのか、やるなぁ。


 肉体再生中は痛みが薄れるのか、苦もなくバウンドするボールのように台座に戻る俺。

「肉体再生中の痛みは薄れるみたいだ。《肉体再生》は便利だな。それにしても、ヒドイじゃねぇか。いきなり殴るなんて」


 轟々と燃えているキアラ。

「てめぇら、話を聞いてんのか? アタシャ、ブチ切れだ! てめぇらの『価値』であり『通貨』になるんだぞ!」


 轟々と燃える炎になっているキアラは、口調まで変わっている。

 なかなか熱くなってんな……いや、文字通り、というか、文字通りではないというか……こちらまで暑い。


 ここで冷静に話をするエリック。

「ごめんなさい。でも、転移は本当に便利だし、納得してイメージした能力なんです。キアラさんのアドバイスが分かりやすかったから、すぐに発現できたんです」


 流石だな、エリック。

 燃える炎は変わらないが、幾分かは勢いが落ちてきた。

 更に、こちらを向いて言葉を続けるエリック。

「ちなみに、ヴァンは殴られてないよ。蹴りが見えた。ほら、抉れ方が違って、そっちのほうがヒドイでしょ? 僕は、それを避けようと転移を使おうとしたんだけど、間に合わずに殴られたんだ。壁にぶつかる前に転移できたけど」


 お互いの身体を確認する寒天ゼリー二つ。

 だが、まだまだ腹の虫が治まらないキアラ。


「説明を聞かずに先走りしたのは謝る。はしゃぎすぎた。すまなかった」

 謝る俺に、弱火になってきたキアラ。


 そのタイミングで、大きく弾む俺。

「これで説明を続けられるだろ? でも、能力は決まったから、エリックと俺、二人セットでダンジョンの説明ができる。なぁ、俺も連れてってくれよ。そんな燃えていないで、『もぉ、可愛いスライムだな』って、萌えてくれよぉ」


 ……………………今度は横薙ぎに、強い炎で蹴られた。


 ちなみに、今度はエリックの転移は間に合った……

 が、転移先に待ち構えたキアラにまた殴られた。

 すげぇな、キアラ。


 §§§§§§§§§§§§§§§


「てめぇら、今日一日やることはなくなったから、反省してろ!!!」


 キアラの炎で高温になった部屋に閉じ込められた二人。


 しばらく、お互いに言葉はなかったが……

「すまないな、最後のはからかいすぎた」


 謝る俺に、身体を横に振るエリック。


「いいよ、僕もはしゃいでいたのは事実だから。それに………なんか、殴られても再生するとわかったら、気持ちよくなってきたし」


 ……………………こいつ、ご褒美に目覚めやがったよ!


 いやいやいや、俺の行動の全てを許して認める。そして、そのセリフを真っ当に言えるのも強い証拠だな。


「なぁ、兄弟。お前、漢だな」


「え、エ、ェ、僕は真性じゃないよ。ホントだよ」

 キョドるエリック。そういう否定の仕方かよ。


「動揺するなよ。わかっている。キアラの攻撃を転移で避けようとしているしな。ってか、そういう意味じゃないんだ」

 落ち着いた口調の俺に、動揺を抑えるエリック。


「言いたいことはだ、エリック。俺たちが双子ってのは、いきなり決まったことだ。だが、なんか通じるもんがあって、双子としてここにいるんだろ? 実際にお前もそう感じるものがあるはずだ。だから、俺はお前を全面的に信じる」


 数瞬の間、何かを言いかけるエリックを制して、

「だからな、《スライム》である《侠客》のヴァンは、ビショップのエリックを兄貴とする。頼むよ、兄弟」


 言葉に詰まったエリックが、形を変えながら悩む。

 そして、上擦る声で話し始める。

「ありがとう、ヴァン。頼りがいのあるヴァンの方が兄に相応しいと思うけど………その信頼に責任を持って応えるよ」


「僕は《ビショップ》として生きる《スライム》のエリック、侠客のヴァンの信頼に応えるべく、兄としての責任を持つ。頼りにするよ、兄弟」


 二人が確認しあった瞬間、二人は強い強い光に包まれる。


 §§§§§§§§§§§§§§§


 光が収まり、何の光なのか、首をかしげる二つの寒天ゼリー。

 ただ、もう学習していた。

 この光は、勝手に光らせてはいけないものだと。


 少し経つと、閉じられた扉が開き、慌てて入ってくるキアラ。


 俺はキアラの蹴りを警戒し、相棒は拳を警戒……いや、期待もしているな。


 ただ、予想に反して、ため息をつくキアラ。

 俺は警戒を解いて力を抜き、相棒は期待通りにならず脱力する。


 長い長い溜息が終わる。

 陽炎のみを揺らしながら、俺たちに近づくキアラ。

 そして、ゆっくりと頭に当たるてっぺんに手を載せる。


 俺もエリックも頭を撫でられる。

 褒められるようなことをしたのだろうか?


 しかし、ご褒美ではなかった。

 一度撫でられたかと思うと、そのままアイアンクローで持ち上げられる。

 あ、相棒にはご褒美だった。


 アイアンクローをするキアラは、炎は出ていないが赤熱している。

 スライムの身体って便利だな、身体全体で知覚ができる。

 頭と思えるところをアイアンクローされても、他の部分で見ることもできる。


 そんな冷静な観察を余所に、赤熱アイアンクローで寒天ゼリーを焼くキアラ。

「てめぇら、何しやがった? まさか、《ジョブ》と《種族》を強く意識して確かめ合うような真似はしてないだろうなぁ?」


 いやいや、もう分かってますよね?

 ってか、他の場所にいても分かるもんなのか?


 ブチ切れているキアラに冷静に、勇気を出して応える相棒。

 上ずった声で……いや、上気もしているな、こいつ。

 難儀なやっちゃ。


「僕が兄として、ヴァンが弟として、前世の職業とともに名乗り合いました。漢の誓いをしたまでです」


 力強い言葉に、赤熱アイアンクローのまま睨むキアラ。

 蒸気を上げながら、上気もしつつ、睨み返す(雰囲気の)相棒。


 一呼吸を置いて、俺達を下ろすキアラ。

「それぞれ、もう一度、アタシの前で名乗りを上げな」


 俺達は顔を見合わせ、応える。

「僕はエリック、《ビショップ》の《スライム》として生き、ヴァンの兄として信頼を預かる」

「俺は、《スライム》として《侠客》のヴァンを名乗る。エリックを兄として誓いを立てる」


 細く長い溜息で応えるキアラ。

「アタシがキレてる理由を教えてやるよ……いや、どのみちか、このまま待ってな」


 首を傾げるように、上体を曲げる俺たち。

 疑問を発する前に、キアラに機先を制される。

「先に行っておく。アタシは、てめぇら馬鹿どもの保護者に当たる。絶対に、アタシの言うことに今後逆らうんじゃないよ! 返事!!!」


「了解だ、姉御」

「わかりました、お姉さま」

 俺たちは、身体に大きな波紋を浮かべ、同時に返事をする。


 返事を終えると同時に、キアラが部屋の隅に視線をやる。

 俺たちもその視線を追い、部屋の隅に注意を向けると、空間が捩れて黒い靄が現れる。


 何事かと俺たちが警戒する中、キアラは告げる。

「コイツは魔王だよ。警戒していいけど、軽んじていい相手ではないよ」


 キアラの言葉が終わると同時に、黒い靄は徐々に形を成す。


 そこに現れたのは、一言に言えば()()だった。






 兄弟の誓いを立てる、結果、美女がブチ切れる



 日本語としての言葉遊びが多いですが、異世界でも日本語バンザイです!

 そういう世界で仕様です。



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