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第1話 転生したらしい……が、美女に馬鹿にされ、双子の片割れに裏切られる。

ゆっくり投稿していきます。


よろしくおねがいします。

 気分が良いのか悪いのかわからない……

 そんな中、無理矢理起こされて、起き上がろうとする。


 視界が拡がる、前後左右上下()()にだ。

 見回す必要がないことに気付きつつ、周りを見渡す。

 そんなに大きくない部屋だ。

 俺は、なにかの台座の上にいるみたいだな。

 いろいろと理解できないものも目に入る。


 訳が分からないまま、目の前の美女が呟く。

「双子か……そのようなこともあり得てしまうのか?」


 そう、隣には俺がいる。

 いや違うな、隣には俺と同じ姿の別個体のスライム。

 何故、俺がスライム状になっているかは理解できないが、何故か隣にもスライムがいて、俺と似たやつだと分かる。


 更に続けて、目の前の女が言う。

「私はキアラ。《迦楼羅(カルラ)》のキアラだ。あなたたちに聞くわ。名前と、自分がどうしてここにいるのかを説明できるかしら?」


 ここで少し悩む。「ぼく ホイミン!」と答えてライアンの仲間になるか、「ボクはわるいスライムじゃないよ?」と保身を図るか……いや、今まで通りを貫こう。


「俺は侠客のヴァンと呼ばれている。何故、こんなスライムみたいになっているのかすらわからねぇ」


 キアラは、肩から立ち上る陽炎を揺らめかせながら、怪訝な顔を向ける。

「記憶が無いの? ここは、この世界ビオガルドの大陸ミースヘイムにあるダンジョン、《フェニックス》の中だ。そして、あなたたちは、ダンジョンマスターの私が創り出した新たなダンジョンマスターだ。これで分かるでしょう? じゃなきゃ、馬鹿でしかないわ」


 もう一人のスライムが、毅然とした態度で答える。

「僕の名はエリック。僕は……既にダンジョンマスターなるものになっているのですか? それは何なのですか?」


 キアラは、ハッと気づくような素振りを見せ、

「あなたはあまりダンジョンに潜っていないの? 分かりやすく言うと、私もお前たちもダンジョンのラスボスなのよ。実は、人間で言うラスボスをダンジョンマスターと言うのよ」


 なんだよ、それは。ダンジョン? ここに3人いるのに、ラスボス?

 こちとら、日本の奥深い山で育ち、ビルの乱立する都会のダンジョンを彷徨いながら、生きてんだよ。

 まず、スライムになっている意味がわかんねぇよ。


 そんなことを思っていると、言葉を整理していたエリックが苛立ちを見せ始める。


 スライムだから、表情なんてわからねぇが、俺もスライムだ。一点が小刻みに震える様子は、貧乏ゆすりをしているとしか思えない。


 そうだよな、意味わかんねぇよな。続けて言ってやれ。もう一人の俺。馬鹿はテメェの方だ! と。


 しかし、エリックは苛立ちを抑えつつ、呆れた様子を見せる。

「そうか、僕はやはりレムドヘイムのダンジョンで死んだのですね。死に物狂いで《ビショップ》になったのに……では、死に際の声は本当なのですね……」


 面食らい、身体を叩かれたように波紋を浮かべる俺。

 エッ………こいつも意味わかんねぇ! いや、なに納得しちゃってんのよ、もうひとりの俺!


 そんな俺を取り残し、キアラは苦々しげに答える。

「その声は魔王だよ。つまり、あなたはダンジョンマスターとして気に入られた。そして、あなたはこの世界が好きで、どんな形であれ、この世界で生きたいと答えたでしょう?」


「そうです。《聖職者》として、《ビショップ》として頑張っていたのも、この世界が好きだからです。ダンジョンから時折溢れるモンスターと争いながらですが、ダンジョンは恵みも与えてくれることもある。だから、僕はダンジョンに潜る攻略者を救うジョブになったんだ」


 項垂れるエリックに、あけすけに声を掛けるキアラ。

「まぁいいわ。前の立場からは変わるだろうけど、その気持ちはとても大事なのよ……一応ね。その救うという気持ちの方向性は変えなきゃならないだろうけど……魔王に気に入られたのよ、大丈夫でしょう」


 だが、こちらを馬鹿を見るような目で向き直るキアラ。

「さて、あなたは馬鹿なのかな? さっきからの様子を見ると、何を言っているのか全然分かっていないのでしょう? ダンジョンに潜ったことはないの? それとも、ダンジョンすらわからないのかしら?」


 《迦楼羅(カルラ)》のキアラとはよく言ったもんだ。文字通り、肩から陽炎を伴いながら炎を立ち上らせる。

 美女の蔑みと罵りに、腹立ちながらも……怖い。美女の蔑みに歓喜する人種ではないので、怖さしかタたない。


 だが、俺も漢だ。引いてはならない時がある。

 いままでの会話でわかったこともある。

「俺は……地球というところで育った。ダンジョンなんて地球にはない。俺はここの生まれではないだろうな。最後の記憶は、女性に絡む半グレ共をブチのめした後、女性が逃げていく姿と後ろからの痛みだ。たぶん、常日頃、筋目を通す俺を気に入らねぇ半グレ共が後ろからヤったんだろうよ」


 スライムの身体から、細い触手のようなものを出しながら、頭をかく。

「そのあと、『まだ生きたいか?』という声が聞こえたから、半グレ共だと思って答えたよ。

『ぶっ殺す!』ってね」


 今度は、キアラとエリックが面食らった表情をする。


 エリックは「そんな暴力的な人がもう一人の僕なの?」と呟いている。

 いや、俺もさっきあなたに裏切られたからな?


 そんなエリックを尻目に、思案に耽るキアラ。

「異世界から……ということか……双子の上に、片方は異世界からの魂ってのは、正直嬉しくもあるわね……」


 そして、何やら納得した様子で笑顔を浮かべる。


 オッ、図らずも美女を笑顔に出来たようだ。

 男冥利に尽きるというもんだ。


「では、私が全て説明しよう」


 二人のスライムは身体を波打たせながら、胸を張って陽炎と立ち上らせるキアラへ居住まいを正す。


 まぁ、単なるゼリー状の球体がポヨンと弾んだだけだが。



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