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94 竜の招待

「ドラゴンだとっ!?」


 突如として眼前に降り立った緋色のドラゴンに、誰もが驚愕する。しかし、瞬時に思考を切り替え、俺達は武器を手に戦闘態勢を取った。


 そんな中、俺は少しビビっていた。

 初めて見る生のドラゴンは視界を覆うほどに巨大で、大きく広がる翼がさらにそれを助長しているようだった。縦に細い瞳は肉食獣らしい凶暴さを有しており、その鋭い眼光は上位者としての威圧感を放っている。


 全身から一気に汗が滲み出ていた。これが本気で危険を感じた時に出る冷や汗なのだろうか。


(くっ、覚悟ならとっくにできてる。かかってこいやー!)


 意志力で恐怖心を抑え込み、ドラゴンと対峙する。だが、どうした事だろう。そんな俺の意気込みとは裏腹に、ドラゴンは一向に襲いかかってこなかった。


「アーサー、何か来る。」


 少し疑問に思い始めた次の瞬間、クーデリカの台詞と共にとんでもないものが目に飛び込んできた。なんと緋竜の背後の空を数十匹のドラゴンがこちらを目指して飛んでいたのだ。


「………ナニコレ。流石にマズくない?ルー、あの大群倒せそうか!?」


 この世界はいつも急展開ばかりか!と嘆きたくなってくる。一匹であれば、ドラゴンを打ち倒した経験のあるクリムゾンクローもいるし問題無かっただろう。しかし、あれだけの数は普通に考えても無理に決まっている。

 こんなピンチの時こそ、頼みの綱の大賢者の本領発揮の場面なのだが………。


「出来ないこともない、かな? ただその場合、私以外は全員死んじゃうんだけど………それでいいかしら?」


「よくねぇよっ!却下だっ!!」


 この切迫した状況でも、ウチの大賢者様はお構い無しにジョークが言えるらしい。………本当にジョークだよな?


「クーデリカは?巫女の力で追い払ったりとかできないのか?」


「それは無理。」


「なんでっ!!」


 様子を見ているのか動かない緋竜に目を向けつつ、俺はクーデリカに強い語調でさらに問いかけた。

 もう竜の大群はすぐそこまで差し迫っている。徐々に空気が緊迫していく。


「この子達、敵意ない。」


「えっ?」


 返答するクーデリカの言葉がよく分からなかった。聞こえなかったわけではなく、理解ができなかった。


「私達を襲いに来たんじゃない。たぶん別の理由。」


 次々と舞い降りる竜達は、緋竜を先頭にその背後に隊を成していく。統率の取れたその異様な光景は絶望感を通り越して、まさに圧巻だった。



 本当にクーデリカの言う通り、眼前のドラゴン達に敵意はないのだろうか?凶暴な存在だというのは俺の思い込みなのだろうか?


 俺の心配を余所に、ドラゴンの一団は静かにその場に留まっている。それどころか、緋竜を筆頭に、他の竜も左右に広げていた翼をたたみ始め、戦闘の意志の有無を明示してきた。


 なんとも奇妙な状況である。


「これって………助かった、のか?」


「俺らはやりあっても良かったんだけどな!」


「そうだな。全員でかかればどうにかならないレベルではなかっただろう。」


 この戦闘狂達………一度死んだ方が良いと思う。クリムゾンクローの面々が僅かばかり残念そうな顔をしていることに少し怒りが込み上げてくるのは仕方ない事のはずだ。



 成り行きに身を任せる俺達に、見知らぬ声が掛けられる。声の主は目の前の緋竜だった。


「御待ちしておりました。よくぞ、天空へとお戻り下さいました。」


「ドラゴンが喋った!?」


 意外にも女性の声だった。言葉を話すドラゴンに呆気にとられる一同だったが、彼女らはどうやら俺達の事を出迎えてくれただけのようで、ひとまず安心した。しかし、今気になる事を耳にしたような………。


「あの、誰かと勘違いしてませんか?今、戻ってきたって。」


 仲間同士で顔を見合わせるが、皆一様に首を振って自分のことではないと否定した。


「いいえ、ちゃんと合っていますよ。まずは我らが城にお越し下さい。全てはそこで明らかになるでしょう。」


 俺の問いかけに丁寧に返してくれると共に、少し離れた小高い丘の上にある城を緋竜は指差した。



 それから竜の軍勢は一足先に城の方へと飛び立ち、俺達は馬車で城へと繋がる一本道を進んでいった。


 本当に進んで大丈夫なのか、引き返すべきではないのか、そういった危惧は俺達にはあまりなかった。

 クリムゾンクローはドラゴンの大群に目を輝かせていたし、俺達も次の目的地となる予定だった空中都市らしき場所に辿り着いたからである。そして、何よりも『全てが明らかになる』という言葉が今後の俺達の命運を左右すると思われたからである。




 ***


 暫く馬車に揺られて、城へと辿り着いた。

 全てが白で染まった巨大な城だ。ドラゴンが入ることを想定しているためか、入口から何まで人間界の物とはスケールが違っている。

 入口正面の幅の広い階段の前で停車した馬車を降り、その荘厳さに心を奪われそうになりながらも、俺達は一段一段を踏みしめて上へと昇っていった。


 階段を昇りきると、一人の女性が大扉の前で待ち構えていた。


「よくぞお出でくださいました。中へ御案内致しますので、ついてきてください。」


 ドラゴンの皮膚のような刺々しい鎧に身を包んだ彼女は、細見ではあるが引き締まった体つきであり、目にも少し鋭さがある。そんな彼女はサラサラと流れる緋色のセミロングの髪を翻し、城内へと歩き出した。


 前を歩く彼女の第一印象としては、規律を重んじる軍人のような厳格な人物といったところだろうか。


 彼女の後に続いて城内へと入る。


 中に入ってすぐに目を奪われた。

 スケールの大きさにも驚いたが、その内装にも驚いた。奥へと繋がる大通路には、金で縁取られた赤絨毯が敷かれている。通路の両サイドには柱が立ち並び、一つ一つに精巧な彫刻が為されている。左右の壁にも各々竜の姿が刻まれており、また、見上げれば天井にも何やら美しい模様が描かれている。この空間自体が一つの作品のようで、どこかの歴史的美術館にでもいるのかと錯覚しそうになる。


 ふと、ガディウスが前を歩く女性に声をかけた。


「なぁ、姉ちゃん。もしかしておめぇ、さっきのドラゴンか?似た声してるよな?」


 言われてみれば、確かに似ている。よく見ればあの緋色の髪も先頭にいたあの竜と同じ色だ。


「そうだが?………あぁ、竜の人型を目にするのは初めてか?上位竜は人型になることができるのだ。」


「人型になれる事自体初めて知ったぜ。それよりおめぇ、結構強ぇんじゃねぇか?やべぇオーラをビンビン感じるぜ。後で一発やろうやっ!」


 まるで女性を口説くように、人型の竜を闘いに誘うガディウス。どこでも戦闘脳のこのバトルジャンキーにつける薬がこの世に無いものだろうか………。


「面白い男だな。そういえば紹介が遅れたな。私の名はシュナ。機会があれば手合わせ願おう。さあ、着いたぞ。」


 シュナはそう言って、左右一面に竜の紋様が刻まれた、鉄製であろう巨大で重厚な扉の前で立ち止まる。


「シルフィーナ様、彼らをお連れしました。」


 そして、シュナへの返答であるかのように、重々しい扉はゆっくりと開き始めた。

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