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92 答えの先に在るもの

 部屋全体が輝きを増し、青白さで埋め尽くされる。


 震動が始まった。そろそろ臨界点に達するようだ。


 ゴーレムと向き合う俺の背後では、仲間達が祈るように状況を見守っている。対峙する眼前のゴーレムは上半身を回転させ、停止と同時に俺に視線を落とした。


「コタえはデましたか?マチガったバアイ、バツとしてこのホシをダイバクハツさせます。では、ジャッジメント!」


 こんな世界の片隅にひっそりと訪れた過去最大級、世界最大規模の危機。逃げることも不可能。この答え次第で世界の命運が決まってしまう。

 なんとも理不尽極まりないし、まったくもって馬鹿げた事態だ。


 それでも、ここで正解を導き出す以外に道はない。


「このクイズの先にあるもの………俺達の答えは──」


 緊張で胸の鼓動が速くなる。


「──何も無い、だ。」




 沈黙に包まれる。刹那の間なのだろうが、その僅かな時間が何倍にも長く感じられる。汗が頬を伝うのも気づかない程、誰もがゴーレムの一挙一動に集中していた。



 そして、ゴーレムは動き出した。ついに審判が下る。



 ゴーレムは再び上半身を回転させ、停止と同時に両手を正面に向けた。三本の刃の爪を開き、穴の開いた手の平がこちらを向く。


 部屋の光と同様の光が、その手の穴から輝きを放っていた。


「くそっ、違うのかっ!」


 それが意味するところはつまり、その手から放たれるのは同様の攻撃魔法という事だろう。


(皆………ごめん。)


 パン、パパァーンッ!!


 諦めの言葉が脳裏を過ったその時、ゴーレムの手から乾いた弾ける音を伴って、勢いよく何かが発射された。


「ぐわぁぁーーー!………って、あれ?痛くないぞ?これ、何だ?」


 死んだと思って発射の瞬間に目を瞑ったのだが、顔を上げてみると頭上から降り注ぐように色とりどりのテープや紙吹雪が落ちてきていた。


「これは、クラッカーか?」


 気がつけば今の音と共に周囲の魔法陣の光も消えており、ここに入った当初と同じ状態に戻っていた。ということは、もしかして──


「ダイセイカーイ!オメデトウございます。これにてシレンをシュウリョウします。」


 一言告げて、役目を終えたかのようにゴーレムは沈黙した。


「なんとか正解できたみたいだな。正解ならあんなに間を溜めるなっての!しかも手からクラッカーなんて、ほんっと紛らわしいっ!!」


 間違ったと思って心底焦っていた俺は口を尖らせて文句を言いつつ、安堵の溜息を吐いた。そこに皆が声をかけてきた。


「お疲れ様。でもあんな答えがよく思い付いたわね!クイズの内容や傾向に意味はない、答えにも関連性はない。これはただクイズをしているだけ。だからこれが終わっても何も無い、なんて。」


「流石に私もその答えは予想できなかったよ。普通答えというのは何かの存在を思い浮かべるからね。」


 そう言って感心するのは、ルーとクリシュトフだ。彼らも答えを用意していたが、決め手に欠けるというか、納得がいく答えは出せていなかった。俺の答えが正解したのは偶々ではあるが、正解の可能性を見出だせた決め手は、やはりゴーレムの意地の悪さだろう。

 結局、正解しても何も得る物はない。ここに来た事自体が逆に災難を生んだだけでしかないと自発的に気付かなければならないのだから。


「だが、最後に妙な事を言っていなかったか?」


 クレイが少し神妙そうにこちらを見る。


「えぇ、たしか『試練を終了します』と言っていた気がします。」


 セフィリアも頷きながら、クレイに同意した。


 試練………あのクイズは試練だったのだろうか。だとしたら、何を試したのだろう。


 俺はすでに機能を停止してしまったゴーレムに視線を向け、問いかけるように呟いた。


「お前はなんでこんな所にいたんだ?何がしたかったんだ?」


 目の光を失ったゴーレムにこんな事を尋ねても無駄だろう。分かっていても自然と言葉が漏れていた。


(こいつの正体も何も、真実は分からず終い………か。)


 謎ばかりで後味の悪さに歯噛みしていると、それに答える声が洞窟内に響いた。


「えー、ワタシはセンテイシャとしてここにいます。クイズをトオしてハンダンしています。」


 俺が溢した言葉に答えたのは、なんと沈黙したはずの眼前のゴーレムだった。


「いやお前、まだ喋れるのかよっ!さっきから黙りっぱなしだっただろ!?機能停止したんじゃないのかよっ!!」


「いいえ、ベツにテイシはしていません。ミゴトにクリアしましたので、ワタシはミマモルモードにイコウしていただけです。」


 見守るモード?エンディングの呈で不干渉を決め込んでいたとでも言いたいのだろうか。それならそうと先に一言言って欲しいものだ。


「試練って言っていたけど、それって何なんだ?」


「ワタシのヤクメは、フウインをトきしモノをミサダめ、テンクウへのミチをシメすことです。サキホドのクイズでコタエにタドりツけるモノをサガしていました。レイセイなハンダンリョク、プレッシャーのナカでのケツダンリョク、ハッソウのジュウナンセイがヒツヨウです。クワしくはテンクウにておタズねください。」


 ゴーレムは最初の無視していた時の態度とは違い、今度はスラスラとよく喋ってくれた。何気にちょっと嬉しい。これがツンデレというやつだろうか?クリアしたからデレ始めたのか?………なんか違う気がする。

 思考の片隅でそんな感想を抱きつつ、気になった言葉についてさらに尋ねる。


「テンクウ?それって、空の天空の事か?」


「イエス。ススムもジユウ、モドルもジユウ。アナタシダイです!あっ、バツゲームのジュンビにマリョクをツカいスぎました。イクならそこのマホウジンをおツカいください。それでは、シーユーネクストタイム。」


 マシンゴーレムは魔力を動力源にしているのか、今度は本当に停止したようだ。ゴーレムが指差した床には最終問題で輝いていた魔法陣とは別に、溝のある魔法陣が存在していた。


「この魔法陣が天空って場所に繋がる転移魔法陣って事かな。」


「なんだか新展開になってきたわね。どんな場所かも分からないし、行くにしてもまずは準備を整えてからね。一旦戻りましょ。」


 ルーの言葉に一同頷き、地上へと戻ることにした。




 ***


 地上へ戻ると、ラナもノアの核の加工が終わっていたようで、銀の三日月の先端が黒珠を包むような形のペンダントになっていた。


「ラナ、最高の仕上がりだよ!絶対ノアも喜んでるよ。本当にありがとう!」


「満足してくれたみたいで私も嬉しいよ。それで、天空って所には行くの?」


 話し合った結果、俺達はこの後は天空へ行く事に決まっていた。

 あんなゴーレムを作る技術や力の持ち主がいるなら、行ってみても損はないかもしれない。それに俺の記憶を保持した炎神の剣が鍵となったのだから、全くの無関係とは言い切れないだろう。


「あぁ、行くよ。」


「そう。………頑張ってね!お姉さんも影ながら応援してるから!」


 固く握手を交わした後、ラナは足早に去っていった。



 装備の手入れやアイテム類の補充など、復興中のガイナスで出来る限りの準備が整い、ついに出発の時を迎える事となった。


 ゲートを開き、馬車ごと地下都市へと向かう。


 そして、俺達は再び封印の洞窟へと訪れた。

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