90 大岩
俺達はラナに教えてもらった長老の家を訪ねた。
長老に何か言い伝えや受け継がれてきた物などはないかと尋ねてみる。
「うーむ、ないこともないが………。」
どうも長老の歯切れが悪い。何かあるのだろうか。
「ついてくるがよい。」
一言そう告げて、長老は椅子から降りて歩き始めた。
家を出て別の建物に入り、隠し階段から地下都市へと向かった。初めて訪れた時は人も多くいてそれほど感じなかったが、無人の都市は土壁に囲まれていることもあってか、静かすぎて少し薄気味悪さを感じる。
歩いていく内に、俺達はとある洞窟の前へと案内された。そこは中央に長方形の穴が空いた大きな岩で塞がっており、どこか封じられているようにも見える。
「一番それっぽいのはこれじゃと思うが、見ての通りこの大岩で塞がれておる。これが何かについては何も伝わっておらんし、なぜこんなものがあるのかも謎なのじゃ。」
そう言われて考えてみた。言われてみれば、たしかにこの地下空間に都市を整備できる技術があるのなら、この洞窟が自然物ならば崩して埋めるなりできるはずである。そのまま残されているということは、すなわち──
「いきなりビンゴなんじゃないか?」
「その可能性は濃厚ね。とすると、問題は………。」
「この大岩じゃな?」
ルーは長老に首肯した。
「無理に壊すと万が一だけど崩落の危険もあるしね。それに洞窟の先にある物が壊れる可能性もあるわ。」
「じゃあ、どうするんだよ。正攻法っていってもヒントも何もない………ん?なんだろ、この穴?」
俺は岩の中央に空いた穴に気づき調べてみる。手が入らないくらいの大きさだ。一応覗いてみるが、特に何か発見があるわけでもなかった。
「ここに何かあったのかな?もしかしてこの穴に差し込んだら岩が消えるなんて仕組みじゃないか?」
「………ありがちなパターンだけど、一理あるわね。でも何を差し込むの?」
俺は近くにあった木材を手に取った。
「とりあえずこれを型に合わせて入れてみるか!」
俺は剣で適当に穴の形に切り、入れてみた。
「うーん、変化はなし、か。さすがに木材じゃ無理があったか。」
「こういう時はゲームなら家宝とか伝承にある物とかで一気に解決するのにね?」
「すまんの。そんな大層なものはワシらには伝わっておらんよ。さっきからお主らはこの大岩が開く前提で話しておるが、それ自体間違いではないのか?」
長老はこの謎の大岩がそんな事で開く訳はないと考えているようだ。だが、俺はゲーマーとしての直感だろうか、あの穴が鍵穴のような物だと考えていた。普通だったら長老の考えが一般的かもしれないが、何故だか俺にはそういう仕組みであると思えてならなかった。
しかし、鍵穴に合致する鍵となるものは見当たらない。
何か手掛かりが欲しい。
「とりあえず地上に戻ってヒントでも探してみるか。」
地上に戻ろうと、俺は先程差し込んだ木材を抜き取った。
「そうね。ここでこれ以上悩んでも仕方ないし。もしかしたらアーサーの記憶は別の物にあるかもしれないしね!………アーサー?」
「………ルー、一つ試したいことができた。ちょっと待っててくれ。」
そう言って手に木材を握ったまま、俺は地上へと戻っていった。
数分後、俺は仲間達を引き連れて地下へと戻ってきた。
「あら、皆連れてきたの?」
「本当はクレイだけでよかったんだけど、皆来たいって言うからさ。」
「しかし、アーサーよ。それで何か手立ては浮かんだのかの?」
長老の言葉に俺は頷き、手に握った先程の木材を前に突き出した。
「これを見てください。差し込む前と後とでは少し形が変わっています。」
「ふむ、たしかに。」
穴に差し込んだ木材は、どういうわけか角が取れて丸みを帯び、側面にはうっすらと紋様が彫られていた。
ヒントはこれしかなかったが、今までと同様に見て『今回は土関係にまつわる物だろう』というくくりを広げて考えた時、俺の中で答えとなるものが一つ浮かび上がった。
くくりを広げるというのは、各属性毎に俺の記憶が宿るものが在るという推測ではなく、四属が相互に関わりあった一連の流れの中に存在しているのでは?ということである。
そして、この変化した木材をヒントにした時、導き出される答えは──
「クレイ、あの剣を貸してくれ。」
俺はクレイが背負っている古びた鞘に納まった剣を借り受けた。錆びれた鞘に同じ紋様があるかはよく分からないが、鞘に付いた黒ずんだ宝石の部分は、木材に浮かんだ形と位置的には一致している。
「古から伝わる謎の剣で、形もそれっぽい。こんなおあつらえ向きの物は他にないんだ。頼むぞぉ~………。」
俺は恐る恐る剣を鞘ごと大岩の中心へと差し込んでみる。
カチッ。
何かが合致する音がした。
「今、何か嵌まった音がしましたね。」
「聞こえたわね。どうやら成功したみたいねっ!」
「きたきたーっ!さて、鬼が出るか蛇が出るか。」
俺達は喜びながらも、トレジャーハンターさながらに何が起こるかワクワクしながら、大岩が開くのを待った。
………それから約一分。
「さっきカチッて鳴ったよな?」
「鳴ったわね。」
「鳴りました。」
「鳴ったのぅ。」
「鳴ったぜ。」
………。
「じゃあ、なんで開かないんだよ!?」
「こんなに重いんだし、時間がかかるんじゃないの?」
「分かりませんっ!」
「短期は損気じゃよ?」
「知るか、ケケケ。」
………。
「もうちょっと待ってみるか。」
………待つこと三分。
「おかしい。なんでだ?」
「合言葉が必要とかですかね?開け、ゴマ!……なーんて。」
セフィリアが定番の呪文を唱えた。
そんなもので開くはずもない。そう思いながらも状況を見守る。
シーン。
「フッ、ちょっと言ってみただけです。お願いですから、皆さんそんな痛々しい目で見ないで下さい!」
静寂の中、一人自滅したセフィリアが赤面しただけだった。
「この剣が鍵というのなら、回してみるのはどうだ?」
行き詰まった感が漂い始めていたが、それを打ち破ったのはなんとこの剣の持ち主であるクレイだった。脳筋リーダーのはずなのに、意外とまともな意見だ。
「でもこれ、回るかな?」
半信半疑で束に手を掛ける。
そして、捻りを加えてみた。
ガチャン。
「お、おおっ!?」
大岩の中央に刺さった剣の上下に亀裂のように光の線が走り、大岩は左右に別れて開いていった。その際、剣は地面へと落ちたのだが、鞘に付いた宝石が仄かに輝きを放っていた。
「おい、リーダー。………マジかよ。」
「おかしいぜ。オメェに分かって俺に分からねぇなんて。」
「お前、本物のクレイか?」
「くっ、クレイに負けるなんて、私はもう終わりだ。」
予想外に上手くいった事にはたしかに俺も驚いたが、クリンゾンクローのメンバーはそれ以上にクレイが謎を解いた事にショックを受けていた。
「ふん、当然だ。貴様らとは違うのだ、脳筋の貴様らとはな!俺は頭脳派だからなっ!」
そして、クレイは盛大に勝ち誇っていた。
「もう彼らは置いてといて、先に進みましょ!」
「そうだな。」
「………それでええのか?」
彼らの意外な一面と俺達の対応に苦笑いの長老を他所に、開いた謎の洞窟の奥へと俺達は足を踏み入れた。
中はドーム状の広い空間になっていた。
(誰がこんなものを作ったんだろうな?それになんで俺の前世の記憶なんてものがいろんな所に散りばめられているんだろう。)
今更ながらそんな事を考えていると、正面で何かが光った。
「ライトッ!」
ルーのライトの魔法で照らされた洞窟の奥には、一つの影があった。
あまりスマートとは言えない体型の、体長三メートル程の黄色のロボットらしき物体がそこにいた。
「ロボット!?この世界にロボなんているのか?」
「たぶんロボットじゃないわ。これは………きっとゴーレムね。」
ゴーレムらしきもの顔の中央にある一つ目が左右に動いた。
そして──
「ゴーレムクーーイズッ!!」
機械的な声が洞窟内に響いた。




