9 仕事と修行
俺達が世話になっているムジナ家はアルハザルド王国の都市の一つ、マルタスという街にある。国の貿易拠点であり、人口もなかなか多く、気候も温暖であるため、常に賑わっているという印象である。
なにげにルーがもといた国もアルハザルド王国だったりする。まあ、封印された時代から二百年経ってるっていう話だし、バレることもないだろう。
そんな街のギルドで今日から仕事を探すことにした。掲示板には護衛の依頼や鉱物、薬草の採取系、増えすぎたモンスターの間引きやレアなモンスターの討伐系など、依頼内容はさまざまである。
「俺はFランクだし、やっぱり最初はド定番、薬草採取だよな!どうだ、ルー。」
俺はFランク、ルーは魔力系アーティファクト持ちという事実だけを適用し、Cランクスタートだった。
「そうね、最初が肝心よね。きちんと慣らしていかないとアーサーは直ぐに死ぬと思うし。」
あ、やっぱりそうなんだな。昨日の時点ですでにルーのデコピンで吹っ飛び、スライムアッパーで宙を舞う経験をしている。
ハードモードすぎるこの世界では、まず強くならないと街の外にすら安心して出られない。ルーがいればモンスターで死ぬ危険に関しては大丈夫だろうから、採取でもしながら武器の扱いや魔法について学んでいくか。
「というわけで、アーサーは外に出れるようにまずは街の中で鍛えていて!その間に私は護衛任務の依頼を受けてお金を稼ぐ出稼ぎ妻になるから。」
あれ、弱いだけなのに、なんか聞いてるとヒモ生活してるみたいになってないか?嫁が漁船にのって漁に出てる間、旦那は家で毎日筋トレみたいな。いや、嫁じゃないけど。
うーん、仕方ないとはいえ、なんか情けないな。
「じゃあ、そんな冗談言えなくなるくらいすぐに強くなってやる!どうやって鍛えればいいんだ?」
「プランはすでにアイリに渡してあるわ。ただこれは気合いじゃどうにもならない部分もあるから、そんな張り切らなくてもいいわよ?今のあなたは12歳だから12年分用意してるし。そのかわり残しちゃダメだからね!」
どんなプランか知らないけど、これから修行なんだよな!オラ、ワクワクすっぞ!………はぁ。にしても12年分って。
まあルーのことだから、完遂できるように全て計算づくなんだろうけど。
ルーと別れた後、ムジナ家の庭に戻ってきた。
「アイリー、ルーから預かってる特訓プランって何?」
「あ、お兄ちゃんお帰りー!えっとねー、ルーお姉ちゃんが言ってたのはねー、毎日アイリと本気で遊んでー、寝る前にベッドで栄養ドリンクっていうのを飲むんだって。あと1日1年分で12日のプランて言ってたー!」
(あれ、修行は?しかも12年分の………。はっ、読めた!この場合、怪しいのは栄養ドリンク。これさえ飲めば寝てる間にパワーアップ!目覚めるとあなたも素敵なムキムキマッチョに。みたいなことなんだろ?………なーんてな。それは一般論!ふっ、甘い、ルーよ甘いぞ!俺は生まれ変わったのだよ。
キーはベッドで飲むという指示だ。つまり、飲むと睡眠に関わる作用、もしくは睡眠中に超回復の効率をあげさせるんだろうな。また、本気で遊ぶようにって言っていたことも考慮すると、相当負荷のかかる遊びなんだろうけど。つまり、遊びの内容こそが特訓プランだ。)
こうして一通り考察を終えた俺はアイリと遊び始めるのだった。