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80 推察

 アーサー達が地下へと向かったその頃、他のグループもまたゾンビの群れと遭遇していた。


 その状況は勿論、ルーテシア達の身にも起こっていた。


「ルーテシアさん、あれはゾンビですよね?」


 セフィリアの言葉にルーテシアが頷く。

 正面には三十体程のゾンビが群れをなしており、どうやら彼女達を標的と定めたようである。


「そうね。でもこんなところで大量発生するのはちょっとおかしいわね。ゾンビっていうのはね、魂の輪廻に入らなかった魂が死体という器に収まる事で現世に留まった状態なのよ。殆どの魂は死後に自然と浄化されて次元の間でいずれ新たな命となるの。だからゾンビになる魂なんて極稀でしかないのよ。」


 ルーテシアが喋る間にも、一歩前へ出たセフィリアは飛びかかってくるゾンビの集団を流麗な動きで一瞬にして切り捨てていく。


「つまりルーテシアさんは、このゾンビ共の謎の大量発生は自然発生ではないと考えているのですか?」


「えぇ。というより、この状況が敵が攻めてきていたために起きていると考えた場合、あれは人為的に造られた存在だと推察できるわ。現に奥へと進もうとすればするほど、その数も増えているみたいだし。」


「なっ、そんな事が可能なのですか!?」


 斬っても復活する上、徐々に数も増えつつあるゾンビ達を相手取りながらも、セフィリアはルーテシアの推察に驚きを露にした。


「………たぶん、可能だわ。あの変態科学者が魔物の群れを従えていたわよね?普通なら魔物を使役したり生命を造り出すなんて事は不可能だけど、あの魔物達はたぶん造られた肉体部分に無理矢理魂を定着させられたんじゃないかと思うの。そうする事で彼らの思い通りに動くようにできた。つまり、ゾンビを生み出すのも同様の方法が用いられていて、それは敵方に魂を扱う能力を持つ者がいると考えられる。そうすると辻褄が合ってくるわ。」


「そんなスキルや魔法、存在するんですか?魂を定着させて生命を生み出すなんて………。いや、それなら死んだ人間すらも生き返らせる事ができるのでは?復活の魔法なんてこの世に存在しないはずなのに………ッ!!まさかっ!?」


 魂を操れるのならば、死んだ人間も肉体を治して魂を戻せばそれは生き返るのと同義ではないのか。しかし、そのような事は誰にもできない。そう思って自分で否定していたその言葉の中に、例外となる存在がいる可能性をセフィリアは脳裏によぎらせる事となった。

 そして、ルーテシアもセフィリアの反応に頷く。


「思い至ったようね?今回の敵はたぶんそれで正解だと思うわ。」


「そんな………だとすれば、どうすれば。私達が手を出して許させる存在なのでしょうか。」


 セフィリアに迷いが生じる。仮に自分の推測が正しいとすれば、それは安易に手出しすべき相手ではないかもしれない。それは彼女には倒して良いのかも分からない、未知の存在なのだから。

 だが、そんなセフィリアの迷いもどこ吹く風といったように、ルーテシアはただ冷静に現状を突きつけるのみだった。


「さあ?ただこんな事をするからには、彼女はどうやら世界の滅びを願っているようね。分かっているのは、いずれにせよこのままだと破滅神が顕現して世界が滅ぶって事かしら?」


「………やるしかない、ですか。」


セフィリアの中にある迷いは完全には消えていないが、彼女はどうやら意を決したようである。


「キュー!」


 フェイの気合いの入った鳴き声は、あたかもその決意を後押ししているようだった。そして、その様子にルーテシアも密かに気持ちを切り換えていた。


「それじゃ、敵の正体も粗方予想がついたことだし、とっとと先へ進みましょっ!アーサーが心配だわ。あの人、結構ビビリだから。」


 ルーテシアは手の平に無数のファイヤーボールを生み出し、走り込んでくるゾンビへと放っていった。弾幕のような炎の塊が轟音と共に次々とゾンビ達を燃やし尽くす。


「そうですね。ゾンビなんて彼は一番苦手そうですもんね。」


 くすくすと笑みを浮かべながら、彼女達は火の粉が降り注ぐ道を先へと歩き出した。




***


 一方その頃、ガディウス・キリウのペアは………



「キャーハハハハッ!死ね死ね死ねーーっ!!」


 キリウは奇声を上げながら自慢の大鎌を巧みに振り回し、まるでシュレッダーであるかのように近づく者をことごとく斬り刻んでいた。


「オラァー!!」


 そして、ガディウスも同様に玩具を手にした子どものような顔で刀を振るっていた。


「いいねぇ~。コイツら斬っても斬っても死にゃしねぇ。遊び甲斐があるってもんだぜ!」


「けどよぉ、コイツら弱すぎてオレはちっと飽きてきたぜ?やるんならやっぱ強ぇヤツのが楽しめねーか?」


「まっ、そうだな。ならさっさと終わらせて大物でも探すか!」


「ならアレやろうぜ!」


「ちっ、しゃーねぇなぁ。アレじゃ俺が楽しめねぇんだがなぁ。」


 キリウの提案をガディウスは渋々受け入れた。

 ガディウスの両手には紅く迸る竜闘気が形成され、それは鞘のように構えられた。キリウはそこへ納刀するかの如く大鎌の刃を納めた。鎌の刃は紅く帯電したかのようにガディウスの竜闘気を纏っていく。そして──


「ヒヤッハーーッ!いくぜ、ユニゾンッ!必殺の『鎌居断ち』!!」


 思いきり横凪ぎに竜闘気の鞘から引き抜かれた大鎌から紅光の細い線が飛んでいく。それは眼前の景色を横に切ったようにゾンビの集団を上下に分断し、更にはその奥の建物までも切り裂いた。

 立ち上がろうともがくゾンビ達だったが、その想いも虚しく切断面から一気に粒子と化していく。これは高密かつ活性化したマナである竜闘気が物質の結合自体を断ち切っているからだろう。

 分子、もしくは原子レベルにまで分解されたその後には二人の姿だけがそこに残っていた。


「こいつぁ何度やっても爽快だぜっ!なにこのスパッと感!うーん、痺れるねぇ~。マジで斬れねーもんなんて無ぇんじゃねーの?」


 一人余韻に浸るキリウだったが、思わぬ方向から声が掛けられた。


「まったく、危ないじゃないか。クレイの剣がなかったら今頃真っ二つだよ。」


 そこにいたのは別方向を探索していたクレイとクリシュトフだった。


「なんだ?お前らもこっちに来たのかよ。」


「あんなものが現れちゃね。ちょっと雲行きが怪しくなりそうだから一度合流した方がいいかと思ってね。」


 クリシュトフはやや神妙な面持ちで答えた。その様子にキリウもこれから先の事に少し目を向ける。


「そうだな。早く行かねぇとあのガキなんて速攻で野垂れ死んじまうかもしんねぇしなっ!ヒャハハハ。」


「ハハハッ!キリウよぉ、オメェ、相変わらずあのガキにご執心じゃねぇか。顔に似合わずどんだけ心配性なんだよ!」


 ガディウスがからかうような笑みをキリウに向けると、彼はさっと目をそらし、バツの悪そうな顔で否定する言葉を早口で並び立てていった。


「うるせぇ!別に心配なんかしてねぇだろがっ!!オレぁただ、いいサンドバッグが減っちまうなって言ってるだけだぜ?あぁ、そういうオメェも寝言で『セフィリア~』とか言ってたぜ?あんなのが趣味かよ!?ヒャハハハ!」


 笑顔のガディウスのこめかみに青筋が立つ。どうやら思わぬ反撃にガディウスの沸点は一気に越えたようである。一瞬のうちに互いの顔から笑みが消える。そして──


 ガキーンッ!!


「「あぁ!?やんのか、コラァァ!!」」


 次の瞬間には互いの得物がぶつかり合っていた。


「お前ら、いい加減にしておけ。今日のクリシュはそれ程寛容ではなさそうだぞ?」


 クレイの横には眼鏡を光らせ、どす黒いオーラを放つクリシュトフが杖に手をかけているところだった。その雰囲気に二人は気圧され、その場は矛を納めることとなった。


「そういえばナインはどうする?」


「ま、あいつは一人でも大丈夫だろ。」


 まだ一人揃わぬメンバーであるナインを気にかけるクレイだったが、ガディウスの言うように彼は隠密行動に長けているので、ひとまずこのまま奥へと進む事にした。



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