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78 新天地を目指して

 好奇心から藪をつついて蛇を出してしまったような状況の彼らだったが、俺達はさらに交渉を続ける。


「それであの剣の事なんだけど………。」


 俺の切り出しに彼らの表情が険しいものに変わった。


「おめぇ、抜けなかったくせにまだ欲しいなんて言おうってのか?」


「さすがにそれはないよね?もしそうだとしたら、それはちょっと図々しくないかな?」


 キリウとクリシュトフがすかさず釘を刺してきた。やはりそう簡単には行きそうにない。なので、俺は予め考えていた妥協案を用いることにした。


「流石にそこまでは図々しくないよ。なんか抜けそうな気がするからその時は俺に譲って欲しいんだ。」


 俺が抜けそうと言ったのが予想外だったのか、彼らから笑い声が漏れ出た。


「いやあ、アーサーは面白いことを言うね!どうだい、クレイ?」


「ふっ、抜くどころか気絶した奴が言うセリフではないな。抜けると思った根拠は何だ。」


「それは──」


 俺は最初、この質問をされた場合は適当に誤魔化すつもりだった。油断してもらった方がこちらに有利に進められそうだったからだ。

 しかし、彼らの目を見て直感した。ここで適当にはぐらかすとこの交渉は完全に決裂する、と。なので、真実に即して話をすることにした。


「俺が倒れたのはマナ不足じゃないからだよ。」


 彼らはお互いに顔を見合せ、軽く頷いた。そして──


「やっぱりそうだったんだね。」


「やっぱりって………えっ、気づいてたの?」


 意表を突くクリシュトフの反応に俺は少し困惑していた。


 セフィリアのようにマナの流れが見えるわけでもないので、俺がマナ不足で倒れたと話を合わせても問題ないと思っていたのだが、実際はすでに彼らは気づいていたというのだ。


「マナ不足ではあんな風に倒れはせん。俺がどれだけこの剣を抜こうとする者を見てきたと思っている!ここで貴様が誤魔化すようなら、例え今後この剣の所有者と認められる事があろうとも二度と触れさせないつもりだったのだがな。」


「そして、信用できない人物って事で同行の件は白紙にして、このまま自分達の旅に出る事にしてたんだけどね!」


 クレイとクリシュトフがなんかとんでもない事を言っている気がする。いや、言ってる事は至極真っ当な意見ではあるが、何て事ない質問の裏にそんな意図があったなんて………ちょっと腰が抜けそうである。言葉を間違えないで良かったと心底思う。


「そうなんだ。あっ、ところで実はその剣の本当の持ち主は俺なんだよ。だから頂戴?」


「それは流石に馬鹿すぎる発言だよ、アーサー。マイナス50ポイントだね。」


「あまり調子に乗るなよ?欲しければ結果を見せて俺を納得させろ。」


 流れで行けるかと思ったが、そうは問屋が卸してくれないようだ。だが、抜けない剣を持っていてもしょうがないので、俺としてはこの結果で十分満足である。


 こうして、俺達の交渉はどちらにもそれほど損もなく満足のいく結果に終わることができた。



 それから改めて、俺が転生してきた事、前世の記憶探しの旅をしている事、ルーに関する事、ノアが進化したスライムである事、ユニゾン技について等々、真の自己紹介を行った。

 クリシュトフを除いて、彼らはあまり理解出来ていない雰囲気だったが、最後には「なるほどな、そういう流れか」などとあたかも物知顔で納得を装っていた。ルーは一言「こいつら、話に聞いた通り本当に戦う事にしか頭が働かないのね」と呆れて顔を押さえるのだった。



 その晩は交流を深めるということで酒を酌み交わすこととなった。こちらは以前カドカニの酒場のマスターから餞別として貰った果実酒を出したのだが、あちらから出てきたのはいかにも度数の高そうな蒸留酒だった。


「さぁ、二回戦といこうかぁ!!」


 酒瓶片手に意気揚々のガディウスを筆頭に、彼らの目は本気で俺達を潰す気まんまんだった。


(さっき勝てなかった事を根に持ってんのか?はぁ~。どんだけ負けず嫌いなんだよ。)


 結局、ルーは軽く嗜む程度、セフィリアはすぐに泥酔していた。なので最終的には、どれだけ飲んでも酔わない体質の俺が逆に彼らを酔い潰してその場はお開きとなった。




 ***



「おはよう。それでこれからどこに向かうんだい?」


 昨晩の宴会でいち早く脱落していたクリシュトフが頭を抑えながら起きてきた。俺はノアを呼び寄せ、レーダーを表示してもらう。


「これはもともとルーが開発した特定の魔力を流すことでそれに関連するアーティファクトの位置を探索する装置だったんだけど、それをノアが取り込んじゃってさ。」


「そんな物があるんだ。世の中広いねっ。」


 土の魔力を流すと、レーダー内に黄色い光が現れた。クリシュトフは初めて見るレーダーに興味津々である。


「距離感は掴みにくいけど土のファクターがいるのはこの方向だよ。これからその人を保護しに行って、その後は風のファクターも探す予定だね。できればその間で剣の聖地にも行きたいなって思ってるよ。」


「風のファクターはどこにいるんだい?」


 風のファクターの行方は未だに掴めていない。次に行く大きな都市は東の大陸にある帝国になりそうなのでそこで見つかればよいのだが。


「風の反応は特定の位置に無いんだ。毎回全く違う位置に光点が現れるんだよ。だから噂にある空中都市かなって予想してるんだ。」


「空中都市………。それは大変だね!」


「そうなんだよ~。」


 話が一段落したところで、丁度酔いつぶれ集団が起きてきた。皆ケロッとしている様子からすると、どうやら戦闘狂に二日酔いという文字は存在しないらしい。皆が揃ったところで朝食にし、一路東へと進み始めた。




 旅をする中、俺は彼らに修行をつけてもらっていた。


 大鎌を持ったキリウ・カリウス。彼はロックなのかパンクなのか知らないが、細身の筋肉質で金髪を逆立てた髪型をしており、見た目通り口調も尖った部分が多い。しかし、その内面は意外と優しかった。


「ヒャッハー!死ね死ねーっ!」

「くっ、うわぁぁーっ!」

「おめぇ、まだ実戦経験が少ねぇな?俺がしっかり育ててやんよ!あと傷はしっかり手当てしとけよ?化膿するからな!ヒャハハハハッ!!」



 寡黙な男、ナイン。小柄でどこか忍者のような雰囲気があり、顔も目より下はマスクのようなもので覆われている謎の男。彼は短剣やナイフをメインに様々な武器を使っていた。


「えっ、消えた?」

「後ろ。お前、まだ相手の動きを目で追いすぎてる。もっと気配を感じろ。」

「なら俺も。これならどうだ!」

「………そこっ!気配遮断もまだまだムラがある。けど少しはマシのようだ。」

「ナイン、何者なんだよ~。」


 呆然とする俺の呟きに通りすがったクリシュトフが一言、その答えを教えてくれた。


「彼は暗殺一家の家系だよ?隠密系に長けているんだ。」


 まさかのアサシンさんと一つ屋根の下だった。



 ドラゴン狩りのガディウス。筋肉ムキムキの居合の達人だが、マナの操作も流動的で一級品だと思う。セフィリアとの最初の頃の特訓がマナ操作だったが、その完成形が彼みたいな感じなのだろう。


「どうやったら強くなれますか?」

「あぁん?んなもん本能に任せてぶっ叩きまくりゃ勝手に強くなんだよ!やるぞっ!」


 その後、ボッコボコにやられた俺がそこにはいた。


「くそっ、あのバーサーカーがっ!!」



 セフィリアやノアやクレイとも交代しながら修行を重ね、クリシュトフはルーのスパルタ式魔法教育を受けていた。

 初日、クリシュトフはボロボロになっていたが、ルー曰く、これは教育であって断じて暴力ではない、という事だった。クリシュトフが嬉しそうなので、もはや誰もが何を言うつもりもなかった。




 そんな感じで日々成長を遂げながら俺達は東の大陸へと渡り、ついにレーダーに示される位置に辿り着いていた。


 ここまでですっかり打ち解けた俺達は新たな地への期待を胸に、入り口の「ウェルカム!ドワーフの国、ガイナス!!」と書かれた大きな看板をくぐる。


 しかし、そんな俺達の目に映ったのは、何かが起きたことを予感させるひどく荒れ果てた姿の街並みだった。


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