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76 眠り姫の自己紹介

 ポーションを飲ませることで救護活動を終え、俺はしみじみこう思う。


 ポーションって偉大だな、と。


 意表を突いた突然の爆発にクリムゾンクローの面々はほとんどノーガードで爆発に巻き込まれ、爆風で吹き飛んでしまっていた。しかし、流石は戦闘集団というべきか、誰も重傷にまでは至っていなかった。


「ありがとう。助かるよ。ところで彼女が馬車の中にいると言っていた眠り姫かい?」


「こちらこそ突然ごめん!そうだよ、彼女がウチの大賢者。」


 大賢者と聞いてクリシュトフは少し興味深そうな顔をしていた。同じ魔法家としては、やはり意識してしまうのだろうか。皆を連れて戻ってきた俺はルーにも彼らの事を紹介した。


「ふーん、あなた達がクリムゾンクローなの。名前くらいは聞いた事あるわ。………さっきはいきなり悪かったわね。でも私の眠りを邪魔したあなた達が元凶なのだから、あれはその報いとして素直に受け止めるがいいわ!」


 ルーは大層な上から目線で彼らに謝った。………いや、正確には彼女なりに謝っているはずだと思いたい、か。

 対する彼らは一様に苦笑を浮かべているが、こういう性格なのだろうと瞬時に納得したようだ。理解ある人達で非常に助かる。


「貴女の方も自己紹介お願いできますか?」


 クリシュトフの言葉にルーは腕を組み、仁王立ちで構えた。やはり初対面の人には基本、上位者として振る舞いたい性格なようである。


「聞いて驚きなさいっ!私の名はルーテシア・バレンタイン。超級の天才魔道士にして、超キュンのプリティーアイドルよ!今なら高画質自画像を売ってあげてもいいわよ?」


 ルーテシアの自己紹介は相変わらずであった。そろそろ別パターンも用意してもらいたいところである。

 そんな紹介を受けて、彼らは一同に顔を見合わせていた。どうしたんだろうか。もしかすると、今のルーの物言いに気分を害したのかもしれない。


 すると、俺の心配を他所にクリシュトフから意外な質問が飛び出した。


「あの、貴女はもしかして200年前に失踪したという伝説の大賢者兼スーパーアイドル、ルーテシア・バレンタインですか?」


「え、えぇ。そうだけれど?」


 彼らから「おぉ~」という声が漏れる。予想外の食い付きにルーも少し動揺しているようだ。


(それにしても、何でこいつらはそんな昔の事を知っているんだ?アイドルオタクなのか?ちょっと気持ち悪いな。)


 俺は若干引き始めていたが、その理由はすぐに明かされることとなった。


「ま、まさか、こんな所で御先祖様に会えるなんて!これからはお祖母ちゃんと呼んでもいいですか!?」


 クリシュトフは感激の涙に瞳を潤わせながら、ルーの手を両手で覆うように包んだ。


「クリシュ、何言ってるんだ?話が見えないよ?ルーをお祖母ちゃんだなんて。………あれ?クリシュの家名って何だっけ?」


 そこまで来て、ようやく俺はクリシュの名前がクリシュトフということしか知らないと気がついた。


「言わなかったっけ?私はクリシュトフ・バレンタイン。バレンタイン家の末っ子だよ。」


「いやいや、そんなの一言も聞いてないでしょ!それって、つまり………。」


 家名が同じって事はたぶんクリシュトフはルーの子孫という事なのだろう。ん?そういえば、ルーには子どもがいたんだろうか?


「うん、直接の繋がりは無いけど子孫みたいなものだね。ルーテシア・バレンタインは今でも我がバレンタイン家の象徴になっているんだよ。会えて嬉しいよ、お祖母ちゃん!」


 よっぽど嬉しかったのか、クリシュトフはルーを強く抱擁した。それは端から見れば感動の再会のように見えるだろう。しかし、クリシュトフの肩越しに見えるルーの顔には徐々に怒りの色が込み上げていた。目からは殺気が漏れ出している。

 怒りが頂点に達したのはその時だった。クリシュトフが突き飛ばされ、困惑を露にしたまま尻餅をつかされたのだ。



「誰がお祖母ちゃんよ!このクソメガネ!!私は現在14歳なのよ?ピチピチギャルなのよ?ホント何なの、この子。本気で死にたいのかしら!死にたいのよねっ!?次言ったら原子核すら残さずぶっ飛ばすからねっ!!」


 クリシュトフを見下ろす形となったルーはまるで恐怖を体現しているようである。敬愛する先祖からの突然の拒絶にクリシュトフは放心状態だった。そこへ、そんな彼を見兼ねて肩に手を当てたクレイは呆れた顔でフォローに回った。


「すまんな。こいつはこう見えてお祖母ちゃん子なんだ。いや、お祖母ちゃんフェチと言っても過言ではないかもしれん。」


 あまりフォローになっていなかった。


 ルーは暗にまたお祖母ちゃんと言われたように感じたらしく、俺に「こいつら、ヤってもいいよね?」と目で訴えかけてきたのだが、そこは保留にしてもらった。




 詳しい話を聞いたところ、ルーが王国に引き取られた後、ルーの妹が生まれ、その家系が現在のバレンタイン家として続いているようである。バレンタイン家は特に魔法が優秀という訳ではなく、どちらかといえば政治面に秀でた一族らしい。言われてみれば、どことなく狡猾というか腹黒い雰囲気が似ている気はしないこともない。

 その中でクリシュトフは生まれつき魔法適正が高かったようだ。そして、末子ということで比較的自由に過ごしてきた彼は幼馴染みのクレイと旅に出たそうだ。


 一方の幼馴染みクレイは炎神を祀った神職かつ剣士の家系だった。しかし荒々しい性格のせいか、その修行に飽々していた彼は家宝の剣を持ち出してクリシュトフを旅に連れ出したらしい。


 その後、強い相手を求めて旅する中で今の仲間と出会い、パーティーを組んだようだ。類は友を呼ぶとはこの事だろう。



 それからなんやかんやと話を聞き、ようやく収まりもついてきた。


「そういえばクレイの家宝の剣ってどんなの?」


 炎神を祀る家宝の剣なんて、凄い力を秘めていそうである。俺の興味は話の途中からそこに釘付けになっていた。


「ん、見たいのか?と言ってもこれなんだがな。」


 クレイは背に掛けている剣のベルトを外し、鞘ごと手に取ってこちらに向けた。


 鞘はやや錆びれて年代物という印象が強い。ただそこに付いている黒ずんだ宝石のような物だけが異彩を放っていた。


「これは遥か昔から代々受け継がれているんだが、謎に包まれた剣だ。由来も作り手も不明。そして、この剣が鞘から引き抜かれた事は未だ一度もない。」


 話の流れ的にはまさに伝説の剣である。これはもしかして俺に抜けと言っているのだろうか?


「この剣、俺が抜けたら貰えないかな?」


 かなり図々しいお願いをしてみた。どうせ抜けなきゃ誰が持っていても同じである。

 すると、一斉に皆が笑い出した。


「アーサーには抜けるわけないよ。」

「ひゃーっははは。こいつ、俺らでも抜けねーってのに何言ってやがんの!?腹痛ぇわ!」

「………無謀。」

「ふっ、まぁいい。やってみるがいいさ。ただし──」


 彼らは生意気なガキを嘲笑うような目で俺を見ていた。同様に不敵な笑みのクレイは喋りながらも剣をこちらに放った。宙を渡る剣がすんなりと俺の手元に収まる。何の変鉄もなさそうである。だが、彼の続く言葉はこうだった。


「その剣は持ち手を選ぶのか、抜こうとする者のマナを奪う。下手すれば死ぬかもしれんが、構わんよな?」


 既に束に手を掛けていた俺は、その言葉で瞬発的に顔を上げる。そこにはニヤリと口角を上げるクレイの口元があった。


 そして………


「ぐわぁぁぁーーー!!」


 俺は激しい頭痛に襲われ、やがて意識を手放した。

その1

「お祖……ルーテシア様、高画質自画像が欲しいんですが!」

「嫌よ!ほんと気持ち悪いわねぇ。本当に私と同じ血筋なの!?この駄メガネがっ!!」

「お褒めの言葉、ありがとうございます!」

「ッ!? アーサ~、助けてよ~!」

「こんな事もあろうかと、彼には既に眠ってもらいました。」

「……変な所で頭が回るわね。全く誰に似たのよ!」

「バレンタイン家は皆こんな感じですよ?」

「はぁ……もはや因果だわ。」

完全に心が折れたルーテシアは自作の写真を金貨50枚(推定50万円?)で売る羽目になりましたとさ。



その2

セフィリアは目を覚ました。だが、その視界はガディウスの顔で覆われていた。

(近っ!! 何なのだ、この状況は!?……ん?なんだ、眠っているのか。)

安心して起き上がろうとするセフィリアの耳に向こうから声が聞こえてきた。

(なにやらルーテシアさんが激怒しているようです。ここはひとまず寝たフリが最善でしょう。アーサー、ファイトです!)

……その後。

(ハッ!いつの間にかシリアス展開じゃないですか!くっ、出るタイミングが………)


次回へ続く。


その3

ガディウス。

(……まっ、しばらくはこのままでいいか。)


次回へ続く!

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