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74 クリムゾンクロー

 最後の一人は見たことがあるが、誰だっただろうか。


「久しいな、ドラゴン狩り。」


「よぉ!久しぶりだな………セリシア!」


 語感は惜しいがちょっと違う。


「セフィリアだ!まったく、誰と間違えているのだ。」


「わりぃ、名前覚えるのは苦手でよっ!まぁ、細けぇ事は気にすんなや。」


 そう言って豪快に笑い飛ばすのは、以前マルタス武術祭でセフィリアと決勝の舞台を彩ったドラゴン狩りの異名を持つ男、ガディウスであった。ようやく思い出した。


「二人は知り合いかい?」


「あぁ、前に武術大会に出場したろ?そん時に俺が負けた姉ちゃんがコイツだ。」


 意気揚々と語り始めるガディウスの話で皆の注目が一斉にセフィリアへと集まる。


「あのー、こんな所で立ち話もなんですし、折角なんでお茶でも飲みながら話しませんか?」





 俺の提案に承諾した相手方を俺達の馬車の近くに引き連れていった。馬車ではルーテシアは魔力回復のために既に寝ており、クーデリカがフェイを首に巻いて降りてきた。


 手分けしてテーブルセットを用意し、紅茶を淹れる。


「ではまず自己紹介をしておこうか。私はクリムゾンクローのクリシュトフ。クリシュでいいよ。魔法担当兼この脳筋パーティーのブレインやってます。よろしくね。」


 ニコッと笑うイケメンさん。うっ、微笑みが眩しい。その甘いマスクで何人落としてきたことやら。この優等生系のイケメンさんは何とも皮肉屋なチームのまとめ役のようだ。

 

「おい、こいつらと一緒にするなよ。俺は違うからな?俺はクレイ・ストライアスだ。このチームのリーダーをやっている。」


 クレイと名乗る男は剣を背負っており、バランスの取れた強さがどこか滲み出ている。引き締まった顔立ちに惚れてしまいそうだ。


「次は俺だな。キリウ・カリウスっつーんだ。おめーら、女子供だけでよく旅なんか出来るな?カッカッカ!」


 次の男はつり目がちでキツネ顔の男だった。逆立った金髪はどこか昔のロックバンドを彷彿させる。武器に大きな鎌を持っており、何となく攻撃的で危険な性格ではなかろうかと邪推するのは仕方のないことだろう。


「ガディウスだ。巷じゃドラゴン狩りなんて呼ばれてるが、強いヤツをぶった斬るのが趣味だ。」


 一番危険そうなのがここにいた。見るからに戦闘狂である。ドラゴンを斬った実力派の居合の達人。その纏う雰囲気は肉食獣のそれに近いものを感じる。


「ほら、お前も挨拶しろっ!」


「………ナイン。」


「かぁー、ったく相変わらず喋るの苦手か!わりぃな。コイツはこんなヤツだ。」


 ガディウスに背中を叩かれ、彼は不機嫌を露にした。他のメンバーより小柄で無口なナインという男は忍者のように口元を覆っており、得体の知れない人物といった印象だ。まぁ、ただの寡黙系キャラなのだろう。


 俺達も一通り挨拶を済ませた。今回はノアとフェイも紹介したのだが、一同紅茶を垂れ流したり吹き出したりして驚いてくれた。襟巻きかと思っていたら実は魔物だったなんて、そりゃ驚くよな。予想通りのリアクションに俺は大満足である。




 それからも話に花を咲かせていたのだが、俺はとんでもない事を耳にする事となった。


「………はぁ?クレイ、今何て?」


「火は食ったんだ。それが俺の力だからな。」


 あの火事の際にクレイの方に炎が集まっていたように見えたのだが、一体何をしたのか、と尋ねたところだ。


「俺の火のアーティファクト『クサナギ』の力だ。」


 俺の耳は腐ってるんだろうか?信じられない言葉をクレイが口にしたように思う。しかしセフィリアの反応を見れば、彼女もまた俺と同じような表情だった。


「あははっ、驚いた?クレイは火のアーティファクトを宿しているんだよ。私とは幼なじみなんだけど、昔っから──」


 はい、驚きましたとも。基本的にアーティファクトは一種類につき所持者は一人のはずである。それが目の前にいるなんて。ここは事実確認をしておく場面だろう。つまり、俺達の言いたい事はというとだな………


「あのー、火のアーティファクトの持ち主は現在アルハザルド王国で匿われているはずなのですが?」


 王城での会議の後、王国兵が火のファクターを迎えに行ったはずである。既に王都で保護されているはずなので、こんな所にいるというのはおかしいのだ。


「匿う?………あぁ、そういえば王国兵の連中が来ていたな。いきなり現れて連行しようとしていたのでな、全員ぶっ叩いて逃げてきたのだ。」


 ………ナニヲイッテルンダロウ、コノヒトハ。自己紹介の際に自分の事を棚に上げていたが、この人も立派な脳筋じゃないか!!


「ダメだよね~。クレイはいつも人の話を聞かなさすぎなんだよ。ヤるんならちゃんとお金なり情報なり装備なり搾り取ってからヤらなきゃ。アーサーもそう思うでしょ?」


 クリシュトフは指先で眼鏡の位置を正しつつ、こちらを見る。眼鏡には光が反射し、それは彼の瞳に映る思考を覆い隠す鎧のようだった。


(は?いやいや、何その物騒発言。え、まさか君も脳筋!?知性ある脳筋ってやつか?………いや、違う。こいつ、完全に腹黒系じゃねぇかー!)


 クリシュトフ………彼は頭脳派眼鏡は腹黒という都市伝説の体現者なのかもしれない。



 そんな事はさておき、火のファクターを保護出来ていないのは不味いのではないだろうか。事情に納得してしばらく王国で過ごしてくれればよいのだが………。なんかいろいろ悩むのも馬鹿らしくなってきたので、もうなるようになれ!ということで、ひとまず俺は面々に事情を話した。


「なに!?世界が終わるだと?破滅神を降ろすのに俺の魂が必要になる、か。」


「それヤバいんじゃね?」


「あぁ、ヤベェな。破滅神っていやぁ、この世界の三柱神じゃねぇか!くぅー、そんなヤツとやれんのかよ!でも神を相手にするにはリーダーを生け贄にしなきゃなんねぇからな~。さすがに迷うところだが──」

「おいっ!」

「………なぁ、セフィリア。そのアーティファクトを狙ってくる奴等は当然強ぇんだろ?」


 ガディウスが不敵に笑う。いや、よく見ればクリムゾンクローの全員が獲物を見つけたように猛々しい眼光を放ち、未だ見ぬ敵をロックオンしていた。


「はぁ。まったく、貴様らは戦闘狂の集まりかっ!」


「んっ?そうだが?」


 クリムゾンクローの面々が揃って首を傾げた。


「………アーサー、どうしましょう。コイツら重症ですよ?王都へ送還するのは無理そうです。」


 呆れ果てたセフィリアの呟きに俺も同意見である。薄々そんな気はしていた。だが、ここで彼らをこのまま自由に行かせてもよいのだろうか?彼らも有名なパーティーなので腕に自信はあるだろう。しかし、相手は未知数なのだ。万が一の場合もあるかもしれない。


「ところで皆さん、これからの旅の目的地はどこなんですか?」


「私達は剣の聖地に向かっているところだよ。」


「剣の聖地?」


 初めて聞く場所だった。何とも心踊る響きである。


「剣の聖地とは昔、剣聖と呼ばれた剣の使い手が住む所に多くの者が教えを乞いに集まり、それが里となった地です。剣聖の名が代々受け継がれているそうで、場所は確か東の端の方にあったかと思います。」


 ふむ。セフィリアの説明からすると、つまり彼らはこれから修業に向かうようだ。そして、偶然にも俺達が向かっている進行方向と同じである。これは俺に更なる飛躍をしろという神の思し召しではなかろうか?

 いろいろ考えていると、クリシュが相槌を打って話をつなげた。


「そうそう。強い人が多いし剣聖もいるし、皆行きたいって聞かないんだよ。まぁ道場破りが楽しいのは分かるけどさ、その間暇な私の身にもなってほしいよ。」


 修業ではなかった。どうやら俺は彼らの事をまだ理解できていなかったらしい。これからはどこぞの戦闘民族として対応していこうと、俺は心に深く刻むのだった。

 そして、ここまでで密かに閃いていた計画を実行に移すことにした。


「クレイ、俺達と一緒に行ってもらえないか?さっきも話した通り、俺達は他のファクターを保護しつつ、この状況に終止符を打つ旅をしているんだ。保護されてくれないんなら、一緒に来て欲しいんだ。」


「まあ、行ってやらんこともないが………ダメだ。俺達は何者にも縛られず、強いヤツを狩るために生きている。次の目的地は変えん。首輪を付けたいんなら俺達に勝つことだな。」


俺は心中でニヤリと笑った。思わず顔に出るところだったが、鍛え上げたポーカーフェイスはそれを許さない。


(ですよね~。その言葉を待っていた!言質とったぞ!)


「じゃあ、やりましょう!勝負に勝ったら俺達の仲間になってくださいね?」


「プッ、こいつ本気かよ!?あんま優しくしすぎて付け上がったのか?ケッケッケ。」


 勝算は不明だが、俺の密かな作戦とは『勝負に勝って仲間にする』である。ここまでの会話で、彼らの思考パターンは大体の予想がついた。要は戦闘第一なのだ。とにかく強いヤツが好き。そんなバトルジャンキーならばそういう流れに誘導すればいいだけである。

 火のファクターも確保できるし、彼らが味方ならかなり心強くなる。その上、俺の修業の幅も広がるかもしれない。ノーリスクハイリターンで正に一石三鳥である。


「俺はいいぜぇ!」

「………仕方ない。」

「アーサー、本当にやるのかい?後悔しても知らないよ?」


 クリムゾンクローの目の色が獰猛さを帯び始めた。それに伴って場の威圧感が膨れ上がるのが分かる。

 目を閉じて何か考えていた様子のクレイは、静かに目を見開いた。


「本気のようだな。ならば相手してやろう。死ぬ気でかかってくるがいい!」


いつも読んでいただいてありがとうございます。

よろしければ感想、評価等お気軽にどーぞ。

これからも宜しくお願いします!

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