71 それは浮気なのか?(付き合ってはいない)
俺は引き続きユニゾンの特訓を再開し、今はルーが相手をしている。魔法剣ができないかと試行錯誤しているところだった。
「やっぱりまだ無理よ。それじゃ剣が燃えてるだけだわ。」
剣に炎を纏わせようとしていたが、やはりルーの魔力を掴めていないせいか、剣の炎は一振りで消えてしまう。
「それにアーサーのシャドーブレイクとは少し相性も悪そうね。だって、炎の剣なんて大抵の人は受け止めるよりも後ろに避けちゃうでしょ?」
「たしかにそうだな。剣の届く範囲外に行かれちゃ意味ないよな。でもな~。あーあ、カッコいいのになぁ。」
魔法剣といえば憧れスキルの代表みたいなものだ。俺が憧れないわけがない。
「そうねぇ………あっ、なら重力魔法とかどうかな?」
「重力魔法かぁ。うん、それイイかもしれない!受け止めた相手は突然重力に飲まれて『くっ、なんだこの力は!?』とか言っちゃうんだろ?しかも見た目も変わんないから俺のスキルにピッタリだしなっ!じゃあ早速やってみようか!」
「だーかーらー、アーサーはまず魔力の操作と感知に慣れなきゃだってば!早く使ってみたいのは分かるけど、焦っても仕方ないよ?急がば回れ、よ?」
地道に魔力の感覚になれるしかないようだ。たぶんマナ操作と同様、普通の人と違って俺はこの世界に途中から生まれたせいで、もともと知らなかった魔力操作も劣っているのだと思う。さらにユニゾンは相手のマナや魔力を扱う事になるので尚更安定しないのだろう。
「魔力系の練習はここまでね。マナを扱う物理系スキルのユニゾンならいけるんじゃない?」
ルーの言葉を皮切りに、今度はセフィリアと特訓する事にした。ウチではスキルは彼女しか使えないのだ。
「クーデリカ、じゃあ頼むな。」
俺は馬車で茶菓子に舌鼓していたクーデリカを呼び、彼女を立たせる。そして、シャドーブレイクの発動を準備をする。
今回はセフィリアの『絶対領域』のマナ干渉能力を応用しようというわけだ。この場合、相手の弱体化に加え、俺のマナを増幅してもらうことで、全ステータスが一気に上昇したような動きになるはずだ。
「おぉ、アーサー凄い。」
更に次は俺自身にも気配遮断を使ってみる。通常、気配を遮断すると表層のマナが遮断されることになり、ステータスが下がるので戦闘中に使うことは一般的ではない。しかし、絶対領域内で俺はセフィリアのマナを感じ取ることができたので、それを気配を遮断した状態で纏うことでステータスは下がるどころか上昇していた。
「なにこれ?アーサーが消えてセフィリアがいっぱい?」
どうやら成功したようだ。彼女の空間内で俺はカメレオンのように気配を消したままハイスペックになれたのだ。しかもセフィリアの気配まで誤認されるというおまけ付きで。
「これはあまりに残酷ですね。弱った相手が私を攻撃しようとしても、それはアーサーの高速移動が残す私のマナの残像。そして、それを嘲笑いながら足蹴にするんですね?分かります。流石、鬼畜王を目指すだけのことはあります!」
「鬼畜王とか本気でやめてください!いい気分が台無しですから。」
相変わらずのセフィリアに文句を言いつつ、クーデリカを呼び寄せる。
「どうだった?」
「完全に気配を消したのにブーストするのは反則級。あとセフィリアはアーティファクトを使いこなせてないみたい。でも面白い。アーサーはこの世界になかった物をもたらしている。世界の夜明けぜよ~。」
クーデリカに感想を求めたが、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。
「ちょっと待て。クーデリカ、今なんて?」
「そうです!私が絶対領域を使えていないと言いましたか?」
「いや、そこじゃないから!」
「えっ!?」
「えっ?」
セフィリアはどうやら自分のアーティファクトを使いこなせてないと言われた事に不満なようだ。だが、俺にとってそんな事は些細な事だ。
「セフィリアさんは今のままでも十分強いんだから、そんな事どうでもいいんですよ!それよりさっきのセリフ、俺の故郷の言葉なんだけど。なんで知ってるんだ?」
「今のはただの思いつき。知ってて使ったわけじゃない。」
首を傾げながら答えるクーデリカは、どうやら嘘を言っているわけではない様子だった。
「そっか。一瞬驚いたよ。あっ、そういえばスキル名『パーフェクトゲーム』とかどうですか?」
「ははは………どうでもいい………ですか。」
スキル名について聞こうと振り返ると、四つん這いになり項垂れるセフィリアの姿があった。どうやら気が動転してる内に酷いことを言ってしまったようだ。
「あのー、セフィリアさん?」
「ちょっとアーサー!なんでセフィリアの時だけそんなにあっさり成功してるのよ!あたしよりセフィリアの方がいいの?それ浮気よ!どうなの!?」
馬車でノア達とのティータイムを終えたルーが凄い剣幕でやってきた。
「ちょっと、ストップ!まずはセフィリアさんに謝らせてよ。」
「セフィリアは精神的にタフだから、そんなのどうでもいいわよ!あんなの心配するだけ時間の無駄よ!そんな事より私とユニゾンするのしないの?浮気なの?」
ルーが有無を言わさずグイグイと迫ってくる。
「あー、もう!浮気は意味分かんないけど、ユニゾンしたいに決まってるだろ!!」
「えっ?そ、そう。ユニゾン……したいのね。」
ルーが俺の言葉に急に顔を赤らめた。何か変な事を言っただろうか?
「アーサー、大胆。」
クーデリカの発言ももはや理解不能である。
「じゃあ、今から猛特訓よっ!アーサーはちょっと死にかける方が覚えると思うの!」
「はぁっ!?ちょっ、それどういう意味──うぉわーーっ!」
穏やかならぬその言葉の真意を問い詰める前に、俺はルーが開いたら謎空間に連行される。
助けを求めて顔を上げると、その場に残されたクーデリカはこれから俺に何が起きるのか察したのか敬礼していた。ならば、と思いセフィリアを見る。
「ははは………どうでもいい………時間の無駄………。そうですよね。私なんて………。」
(この人は………無理か。)
「あーれー。」
セフィリアの痛ましい姿を見て諦めた俺は、棒読みのような叫び声を上げて空間の渦に飲まれていった。




