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70 始めよう、ユニゾンプレイ!

 ノリで始めたユニゾン技の開発に俺は難航していた。


「アーサーは未だに魔法はフラッシュとエアブラストしか使えないのよね?」


「あぁ……ホント何なんだろうな。本来なら今頃はもっとこう、剣を片手に魔法をバンバン放ちながら敵陣突破しているはずなんだが。俺、やっぱ才能ないのかも。出来ることといえば気配消すことくらいだし………。」


 改めて自分を見つめ直すと、あまり強くなっていないという事実に気づき、徐々にテンションが下がってしまった。


 そう、実は俺、あまり強くなっていないのだ。魔法は閃光による目潰しと風の衝撃波。剣の腕は聖騎士隊長殿の教えにより、どうにか冒険者の平均レベルくらいにはなれただろうか。これまでどことなく強くなった呈を醸し出しているが、実際にはこれから先の旅に危機感を覚えるレベルである。この前のシザーハンズもただ斬っただけだし、一人では恐らく低位の魔物くらいしか確実には勝てないと思う。


 つまり、俺の戦闘力はこのパーティー内では下から三番目ということになる。下にはクーデリカとフェイがいるが、彼女達は非戦闘員。他の二人は言わずもがな、ノアも今や強力な魔法を使えるとんでもスライムなので、戦闘員の中では、実質俺がダントツの最下位である。


 別に嫉妬しているわけではない。ただ、自分の思い描いた姿とはかけ離れている事に少し虚しさと焦りに似たものを覚えているだけだ。それに、救世主とか勇者とか呼ばれたりもして、そういう存在ではないが弱い自分では胸を張れないと思ったのだ。


 そんな俺だが、スキルを一つ習得している。名を『シャドーブレイク』。お得意の気配遮断を応用した誤認効果のある斬撃で、普通には防ぐことができない反則的なスキルだ。今のところこれだけは誇れるのだが、俺の剣の腕前が上がらなければ宝の持ち腐れという現状だった。現に変態科学者と戦った時は、相手が油断していたにも関わらず傷を負わせるのが精一杯で、一撃必殺というわけではなかった。


 何の苦労もなく急に強くなるなんてありえない。ならば、と思いついたのが仲間の力を使う事だったのだが………。




「魔法同士を掛け合わせるのは、私とノアの場合、複合魔法があるから必要ないわね。三種類以上の複合魔法はノアにはまだ無理かもだけど。」


 別属性の魔法を組み合わせる複合魔法。それは俺の考えるユニゾン魔法を一人でやっているようなものであり、ある意味完成形だった。制御が難しく、使える者自体が極稀だというが、ウチにはすでに一人と一匹いる。なんてパーティーだとつくづく思う。



 ルーもユニゾンは初めての試みであるが、コツを掴んだらしくノアとのユニゾン魔法を成功させている。軽い気持ちで火魔法と水魔法でユニゾンしたらしいが、その威力は想像を遥かに超えていたらしく、眼前の湖の水が一瞬で吹き飛んでしまった。その状況にルーは苦い顔をつつ、見て見ぬふりで場所を移し始めた。そして、移動した開けた場所で今は俺とノアでユニゾン練習中だ。


「各々の魔法は基本反発するからそのまま合わせちゃダメよ?まずはお互いの魔力を感じて同調させていくの。はい、そこでユニゾンインッ!」


「ユニゾンインッ!」

「ピキッピピッ!」


 バシャーン。


 俺のエアブラストとノアのウォーターカッターが手元で交わった瞬間、二つは相殺して弾け、三人ともびしょ濡れになってしまった。


「アーサーはまだ魔力感知と魔力操作の技術が足りてないかもね。相手の魔力に馴染ませる感じよ?ひとまず魔法はこの辺にしときましょうか。」


「そうだな。そういえばノアは魔法を使えるようになったけど、フェイは能力とかないのかな?」


 フェイは今のところ特殊技能もないし、ただの大食い系癒し担当の位置に収まっている。


「たしかにそうね。でも小さい体であんなに食べてるから何かあるのかもしれないわね。」


「どういう事?」


「普通に考えてあの体型とは不釣り合いな程、必要以上に食べてるじゃない?食べるって行為はエネルギーを摂取する行為なの。取り込んだエネルギーが使われないままって事は貯蓄されてる可能性が高いわ。つまり、そのエネルギーは備蓄なのか、或いは………」


「能力発動のエネルギー源ってことか。」


 俺の言葉にルーが頷く。


「エネルギー溜めなきゃいけない能力って、それ結構ヤバそうだな。一発限りの核兵器みたいな。」


「まぁランドイーターは戦闘力ないみたいだし、そんな報告もないから気にしなくてもいいんじゃない?」


 ふとした疑問は、何となく恐ろしい想像を残す形で保留されるに至った。



 ***


「これは………凄いですね。こんな事が可能なんて。」


 休憩を挟みユニゾンの特訓をしていたが、セフィリアとノアが成功させていた。視線を向ければ、彼女達から離れた場所の木々が切断され、僅かに宙に浮いていた。


 二人が使ったのは、剣にノアの空間魔法を付与したユニゾンスキルだ。剣を振るとその先から斬撃が飛ぶように放たれる。どうやら空間自体を斬る空間断裂というやつらしい。切断面の間には虚数空間が拡がり、斬られたものはその座標に固定されるようだ。空間が閉じると無傷なので足止めでしかないが、完全に固定されるので何気に恐ろしいスキルだと思う。

 しかもこのスキル、最大限発揮すると、斬られた対象は斬られた状態でノアの虚数空間に吸い込まれ、そのままそこで葬られるという極悪スキルのようなのだ。


「スキル名は何て言うんですか?」


「まだ決めていませんよ。そうですね………『足止め剣』とか?」


「ダサッ!セフィリア、何なの?そのネーミングセンスは!!壊滅的じゃない!?」


 ルーだけでなく、パートナーのノアまでもひきつっているようだ。


「じ、じゃあルーテシアさんなら何て名付けますか?」


 ルーは顎に指を当てながら少し考える。


「そうねぇ。『デストロイ・インフェルノ』とか?」


「ルー、そのネーミングは痛いし、意味分かんないから!」


「ならアーサーは何か良いのがあるっていうの?」


 あー、やっぱりそう来るか。俺も考えてみる。


「そうだなぁ。うーん。『死刻明斬』なんかはどう?斬られた上に固定化なんて恐怖だし、その上、虚数空間に飲み込まれるなんて死が近づくのが見えてるようなもんだから、そんな名前にしてみた。」


「くっ、ま、まあまあじゃない。」


「それっぽいのが来ましたね。ひとまずその名前でいいです。」


(こいつら、何で二人して上から目線なんだよ!)


 どこか悔しそうな二人を尻目に、俺は自分のユニゾンスキルを構想を練るのだった。


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