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69 ルーテシアの秘密

「クーデリカ、守ってほしい事が二つある。仲間を頼ること、何事も最後まで諦めないこと。この二つがウチの家訓みたいなもんなんだ。」


「うん、了解した。これからも美味しい御飯、よろしく。」


 クーデリカはコクコク頷いている。その姿は逆に心配になるのだが。


「それよりも、一ついい?」


「どうした?お腹でもすいたか?」


 冗談めかして言ったが、クーデリカは首を横に振った。そして真顔でルーの方を見た。


「ルーテシア、何者?巫女について知りすぎ。巫女について世間ではそう知られていないはず。」


「たしかに初めは私も巫女の存在自体知りませんでしたが………。」


「巫女についてこれほど知っているとなると、ルーテシアも巫女?でも違う。あなたには波動を感じない。だから一般人のはず。だから何者か疑問。」


 ルーは目をそらしつつ答える。


「それは………言えない。」


「ルーは叡知の書を秘めた大賢者さ。だからいろいろ知ってるんだよ。」


 ルーは結構いろいろな事を知っている。次元の間に始まり、魔法関係、マナ、この世界ついても。しかし、それは賢者であるし、叡知の書のおかげなのではないかと俺は考えていた。


「叡知の書?………そう。じゃあ、あなたが裏切りの………。それなら全て納得がいった。詳しい話は知らないけど、これ以上は禁忌に触れそう。」


「そういう事よ。」


 何やら理解したらしいクーデリカにルーは少し安心したようだった。


「今はルーテシアなのね。ということはアーサーが選ばれた子?」


「そうよ。」


 クーデリカが少し憐れみの視線を俺に向けてきた。


「アーサー、ファイト。」


「えっ、お、おぅ?」


 急に俺の手を握り謎の応援をしてきたが、話の見えない俺はただただつられて返事するだけだった。


「なぁ、全然話についていけないんですけど?」


「いずれ分かるわ。それはアーサーが自分で知るべき事なのよ。」


「教えることは禁忌に触れる。そうなると、瞬時にこの世界は崩壊を迎える。」


「いやいや、それどういう理屈だよ!?」


「禁忌に触れるけど、いい?とりあえず運命神様の導きとだけ言っておく。」


 俺の記憶の解放という条件を達することで禁則部分も解除される、とルーは加えて説明した。




 ***


 現在、俺達は東の大陸を目指して馬車の旅をしている。相変わらずスコールは降るが、最近は頻度も減ってきたように思う。


「そういえば、ルーはスキル使えないの?」


「使えないよ?突然どうしたの?」


「いや、これまでも思ってたんだけど、あんなに凄い魔法が使えるから魔力系スキルだったらどんな威力だろうと思ってさ。」


「そういうことかぁ。叡知の書のおかげで魔法が強力になっているからね。マナとのバランスがとれないからスキルには昇華しないよ。魔法自体がスキルみたいなものなの。」


 俺は暫し考え込んだ。


「どうしたの?急に難しい顔しちゃって。」


「どうした、アーサー?お腹すいた?」


 不意に話に入ってきたクーデリカはどうやら俺を心配しているようだ。でも何か違うと思う。


「クーデリカ、俺食いしん坊キャラじゃないからね?そこんとこ勘違いしないように!あー、何かもっと面白いこと出来ないかなと思ってさ。新しい必殺技とか?土のファクターの所に行くってことは、この前の海底都市みたいに敵がいるかもしれないじゃん!」


 前回のような危険な事態になっても、これからは余裕を持って対応したいところだ。


「なるほどね~。アーサーはゲームでもレベル上げしてからボスに挑む派だもんね?ボスはなぶる派だもんね?雑魚モンスター相手に無駄に最強魔法使うの好きだもんねっ!」


 うーん、事実なだけに否定はできない。だがそれはあくまでゲームの話だ。


「おいおい、人の事を鬼畜みたいに。人聞きが悪い事言うなよ。他の二人が勘違いするだろ!?」


「アーサー、鬼畜?」

「前世からとは………ふっ、やはりアーサーはそういう人でしたか。」


「そこは断固否定するぞっ!セフィリアさんはどうしても俺を鬼畜キャラにしたいようですね。」


 毎度の事だが、セフィリアは何故か俺をそういう立ち位置にしようとする。いつからこうなったんだろうか。誰か教えて欲しい。


「で、何の話をしてたんですか?」


「ノアとも連携はとれるようになってきたけど、もっとこう、心踊る形勢逆転的な?ロマン溢れる必殺技的な何かがないかなって。」


「例えば、空に浮かぶ城が呪文一つで空中分解的なのとか?」


「ルー、それアニメであったヤツだな?………そうだ!融合技とかどうだ!?」


「融合技?」


「そう、二人の技を合わせて相乗効果を生むんだ。ユニゾンってやつだよ!例えば竜巻に炎を合わせたり、剣に空間魔法を付加して次元を切り裂いたりとか。どう?」


「そんなのできるかしら?」


「出来るかどうかじゃない。やるかやらないか、だ!想像してみろ。敵組織に殺されそうになった俺とルーが手を繋いだ瞬間、ユニゾン技が発動して危機を乗り越えるんだ。どうだ?感動の場面だろう?」


「そ、そうね。アハハー………。」

(アーサー、壊れちゃったのかしら?)


 スイッチでも入ったような俺の勢いに、ルーは若干引き気味だった。


「いや、私がいるのでルーテシアさんがそんな危機に陥る事態は起こりえませんよ?」


「そんなの分からないじゃないですか。じゃあ、魔法が効かない敵が相手で、ルーのピンチに駆けつけたセフィリアさん。空間魔法を付与されたセフィリアさんはその剣で空間ごと敵を斬り、見事形勢逆転!ルーをお姫さまだっこして皆の元に戻ってくるんです。どうですか~?興奮しませんか~?」


 セフィリアバージョンのユニゾン技のイメージを上げてみる。


「アーサー、何言ってるの?それこそありえないから。」


 そして、目を閉じてその光景を頭に描き終えたのか、セフィリアが沈黙を破った。


「………さあ皆さん、修業の時間ですよ!馬車を降りて練習しましょう!難しいかもしれませんが、出来るかどうかではありません。やるかやらないかです!」


 俺はセフィリアの勧誘に成功した。やはりセフィリアはチョロかった。



「ノア、皆いつもこんな感じ?」


「ピキッ。」


「そう。なんかセフィリア少しおかしくない?目怖い。」


「キュッキュー。」


「へー、あれが普段の姿?フェイも苦労してる。どんまい。」


 クーデリカと魔物二匹はお茶を啜りながら、ほのぼのとこの茶番劇を眺めていた。

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