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67 ディオール観光

 ディオールに到着した初日はクーデリカを交えて皆で目一杯に観光を楽しんだ。彼女の事をもっと尋ねるべきかもしれないが、まあすぐに別れることになるだろうし、これ以上聞いたところで進展もなさそうなので、どうせならと観光を楽しむことにしたのだ。


 都市を一望できる高い塔や、獣人メインのこの街では普通な獣人喫茶、いまいち理解不能な作品が多い美術館、歴史資料館などを巡った。都市の奥の方には城のような建物もあるようだ。


 その中でも俺は歴史資料館に興味をひかれた。メインとなるのはとある獣人に関するものだ。内容を簡潔に言うと、遥か昔、世界崩壊の危機に立ち向かった白狼の獣人がいたそうで、現在この世界が存在するのは彼やその仲間のおかげであるというものだった。他にも彼を称えた内容は多かった。彼は今でもディオールを中心に南の大陸では英雄と呼ばれる存在だそうだ。

 史実に基づいたどこか昔話のような話であったが、現在俺達が置かれている状況と似ているなぁと思ったのだ。


 そんな感じで観光初日を終え、宿で就寝した。


 翌日、今日は買い出しを兼ねたショッピングということで、商業地区を巡る事にした。

 まずは服や防具を見に行った。一番最初が服屋という辺り、ウチの女性陣はやはり女性だからかオシャレ好きなようだ。店内は少し高級感漂う落ち着いた雰囲気で、服は獣人用が多く、お尻の方に穴が開いたズボンやスカート、頭に様々な形の耳が付いた獣耳フードなどが置いてあった。


「これどうかな?」


 ルーは早速ネコミミフードを被っていた。


「おっ、ルー似合うじゃん!コスプレみたいだよ!」


 途端にルーは恥ずかしそうに顔を赤くした。どうやら失言だったようだ。


「そうだ、皆でコスプレ大会するか!」


 このままルーの楽しい気分を台無しにするのも悪いので、死なばもろとも、皆でやれば怖くないということでコスプレ大会を提案した。


「コス……プレ?聞いたことない。」


「なんですか?そのコスプレって。」


 クーデリカもセフィリアも頭上に疑問符でも浮かんでいるように、揃って首を傾げた。


「コスプレってのは、言ってみれば何かの真似をして変装することだよ。例えば今の場合なら獣人の格好をすることだね。」


「それ、楽しい?」


「うん、楽しいぞ!まずは自分でやってみることだな。そして、楽しむ心が大事だぞ?ほいっ。」


 楽しいかどうかと聞かれても楽しむ姿勢がなければ始まらない。なので不思議そうな顔のクーデリカには、頭に狐耳のヘアバンドとスカートに狐尻尾のアクセサリーを付けてやった。


「おー、まさに狐人。」


 クーデリカは鏡の前で左右に回りながら変貌した自分の姿を興味深そうに眺めていた。どうやらご満悦のようだ。

 その後もあーだこーだ言いながら、いろいろ見ていると店員さんに声をかけられた。


「いらっしゃいませ。お客様、獣人ファッションをご所望でしょうか。でしたら私がご案内しましょうか?」


 彼は少し老齢で、まるで執事のような立ち振舞いで丁寧に挨拶してきた。


「えぇ。じゃあ似合いそうなのお願いします!そういえばこういうのって流行ってるんですか?」


 店員さんにオススメコーディネートを見繕ってもらいつつも、獣人の街なのに付け尻尾がある事をふと疑問に思い聞いてみた。


「そうですね。人族の方は尻尾がないせいか、このアクセサリーは大変人気ですね。元々は尻尾を失った獣人のために職人が試行錯誤の末作ったあちらの擬似尻尾が始まりです。昔は戦争や魔物との戦闘で傷つく者も多く、獣人は尻尾でバランスをとったりしているので、急に無くなると不自由を生じるのです。しかし、当時は気恥ずかしさや忌避感から、あまり手に取る者はいませんでした。」


 店員さんは付け尻尾とは別の擬似尻尾というのを指して説明しつつ、次々と一人一人に合わせたコーディネートをしていく。


「そんな時、観光客のとある人族の方が擬似尻尾に興味を示しました。彼は自分にも尻尾を付けれるようにしてほしいと職人に頼み、それから彼を中心に観光客の間で獣人ファッションが流行り始めました。ちょっと失礼。こちらの方が似合いそうですね。いかがでしょうか、お嬢様。」


「うん、凄く良いわね!あなた、なかなかセンスあるじゃない!」


「勿体無いお言葉ありがとうございます。お気に召してなによりです。」


 ルーのコーディネートが完成し、店員さんはルーにお辞儀をし、ニコッと笑顔を返した。お辞儀姿もその笑顔さえもどこか気品を感じる人だった。


 彼の話では、観光客が付け始めた事により付け尻尾は街でも拡がりをみせていった。そして、獣人達にも日常的な光景となった頃、擬似尻尾も少しずつ偽物の尻尾という抵抗や周囲の目も薄れていき、普及し始めたのだという。

 ちなみに擬似尻尾は改良され、今では本人の魔力を流すことで装着している間意思通りに動かせるらしい。


「擬似尻尾って、義手や義足みたいなものなんだな。俺は詳しく知らないけど、義手とかってやっぱり注目を集めるだろうし、周りの目は気になるもんだよな。」


「そうね。だからこそ、そういうのを減らそうと思って、その観光客も行動を起こしたのかもしれないわね。」


 話が終わる頃、皆のコーディネートが整っていた。

 俺は男性に人気な白狼系ファッション、セフィリアは凛々しい見た目とは裏腹な虎柄尻尾に猫耳で可愛らしさのある異色コーデだった。ルーは腹黒い部分を見透かされたのか白地に所々黒が見え隠れする黒兎系ゴスロリ風、クーデリカは金髪に合わせた金狐の耳と尻尾に深紅のワンピースだった。


「こうして並ぶと、えらく奇っ怪な集団だな。」


「無難なものより、その方が皆様楽しめるようですよ。それではこちらがお会計になります。」


「はい………って、えぇっ!?」


 この店員さんはどうやら商売も上手だったようだ。服の方も職人お手製だったのでなかなか値が張る買い物となったが、質は良いのでまあ良しとしたいところだ。


「またのご来店をお待ちしております。良い旅を。」


 俺達は店を後にした。



 それから昼食をとり、食料調達をしたり小物を見たりした後、女性陣は恒例となりつつある下着ショップ巡りに行ってしまった。


「そんなに毎度毎度買う必要もないだろうに。」


 俺は現在ノアとフェイを両サイドのポケットに入れて噴水のある広場で一人ベンチに座って寛いでいた。広場は大道芸をしている人やかき氷を売っている店があり賑わっていた。


「ふぅ、ウチのお姫様はどこに行ったのかな~?マルタスで感じた波動と同じものはあるんだけどなぁ。こう人が多いと分かんないや。」


 いつの間にか隣のベンチに腰かけていた少年の言葉が耳に入ってきた。


「ん?なんだい?僕の顔に何か付いてるかな?」


 少年はニコニコした笑顔で俺に声をかけてきた。どうやら無意識に彼を見てしまっていたようだ。


「あ、ごめんごめん。君の独り言でマルタスって聞こえてきたから、ついね。俺もマルタス出身なんだ。」


「そうなんだね!観光かい?」


「まあそんなとこ。今は女性陣の買い物待ちだよ。君は?」


「人捜し、かな?準備ができたから呼びに来たんだけど………ウチのお姫様はどこに行ったのやらさ。」


 そう言って彼は立ち上がった。


「そろそろ行くよ。俺はソウマ。ソウマ・ミヤモト。君の名は?」


「アーサー・バレンタインだ。」


「アーサーか。格好いい名前だねぇ!それじゃ、アーサー。縁があったらまた会おう。」


 彼は俺を背に手をヒラヒラと振りながら人混みに消えていった。


「ソウマ・ミヤモトか。………どっかで見た気がするんだよな~。マルタスですれ違ったのかもしれないな。」


 思い出せず若干のもどかしさを感じていると、女性陣が戻ってくる姿が見えた。


「お待たせ~。」


「おかげで良い買い物ができました。」


「アーサー、見たい?」


 クーデリカが人指し指を頬に当てながら尋ねてきた。


「そんなポンポン人前で見せちゃいけませんっ!」


 もちろん却下した。この子はやはり常識にかけているようだ。


「人前でなければ、おーけー?」


「うーん、いいんじゃない?」


「ほらほら、バカなことやってないで帰るわよ!」


 ルーに急かされ、その日の観光は終わるのだった。

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