7 才能の形
ギルドカードを作るために、まずは書類に必要事項を記入していく。名前、年齢、得意なこと、使用可能な武器、称号やその他資格等の項目があった。
書ける部分だけでいいと言われたのだが、俺に書ける箇所は最初の2つしかなく、少し情けなく感じてしまう。
それから潜在的な能力がないか確認できるというので、俺はやってもらうことにした。
話によると、優れた人の中には魂に付属する何かを持つ人がおり、それを持つ人はその付属物に由来する能力が特化しているのだという。因みに、その付属物をアーティファクトと呼んでいるらしい。
記入を終えると、情報が漏れないようにという配慮で別室に通された。受付嬢のエルフお姉さんは水晶を棚から取り出し、準備を始める。机に座った姿は、さながら占い師のようだ。
俺は対面に座り、その隣にルーも座る。
いよいよ俺の真の力が明かされる時が来たのだ。
お姉さんが水晶に魔力を注ぎ込んだのか、水晶が仄かに輝き始める。鑑定魔法の一種らしい。それから水晶に触れるように促されたので、そっと触れてみる。
じっと水晶を見ていたお姉さんは、一呼吸して顔を上げ、俺を見る。
「アーサー君に見えたのは小さな蕾。まあ、よくあるパターンね。」
蕾。よくあるということは、俺には秘めたる力とかはないってことだろうか。
「蕾は多くの人が持っているの。何もしないでも突然開花する人もいるし、努力してもなかなか開花しない人もいる。たしかに生まれた時からアーティファクト──つまり開花した才能を持っている人もいて、彼らの活躍は目覚ましいわ。」
(まあ、そんなに上手くいくわけないか。そんなのは物語の主人公みたいなやつだけだよな。)
少ししょげた俺を見て、お姉さんは「でもね、」と言葉を紡ぐ。
「私は才能だけがその人の全てじゃないと思うの。努力が無駄なんて思わないし、無くてもいろんなことができるわ。アーティファクト持ちにだって苦手な事だってあるでしょうし、ちょっと得意な分野が広がっただけ。つまり私の言いたいことは………」
お姉さんは俺の瞳を真っ直ぐに見て言った。
「如何に自分を持って生きるかってことよ!」
うん、そうだな。二度目の人生始まったばかり。剣も魔法もまだ使ってないもんな!自分の可能性、諦めるにはまだまだ早すぎる。
「ありがとう、お姉さん。なんか元気出た。俺、頑張るよ!そういえばお姉さんの名前聞いてなかったね。聞いてもいいかな?」
「エレナよ。頑張って、アーサー君!」
こうして俺の才能は、今はまだ蕾の状態であることが判明した。
「あなたも調べておく?」
エレナがルーに尋ねる。ルーは少しの間目を閉じ、エレナに返答せず、こちらを見た。
「アーサーは見てみたい?」
「あぁ。見たいかな。」
(ルーはアーティファクト持ちなのか?たしかに賢者だし、生まれた頃から魔法が使えてたって言ってたもんな。)
そんなルーのエレナへの返答はこうだった。
「私はアーティファクトを所有している。ここで見た物、考察等一切の口外を禁止する。もちろん上への報告も。それができるなら調べさせてあげる。勿論魔法で誓約もかけるけどね。」
魔法による誓約とは相手の同意の元、破れば事前に取り決めた罰を下せるという、リアル指切りみたいなものである。
(随分慎重だな。だけどここの職員は皆誠実な感じだし、数少ないアーティファクト持ちを上に報告しないってのは流石に無理だろ。)
エレナを見るが、俯いてワナワナ震えている。
ヤバい、怒られる。
彼女は机をドンッと叩いて立ち上がり、ルーを見た。
「あなた………狙われているのね!?いいわ、早く誓約をかけてちょうだい!」
(んん?この人何か勘違いしてないか?)
だが、勘違いしていたのは俺の方だとすぐに理解した。彼女の鼻息は荒くなり、テンションがみるみる上昇していったのだ。この様子からすると、どうやら彼女は生粋のアーティファクトマニアであり、こうするしかないという理由付けを自分にしたかったようだ。
鼻唄混じりに水晶を整え、鑑定準備を完了したエレナは興奮気味にルーへ水晶に触れるよう促す。ルーは少し呆れ顔で、「とんだ職員もいたものね」などと言いながら水晶へと手を伸ばした。
「見えてきたわね。………こ、これはっ!」
輝きを放つ水晶が映し出したアーティファクト。
それは厚みのある一冊の黒い本だった。