6 仕事を求めて徒歩3分
俺達はムジナの家に来ていた。
「帰ったぞー」
「あなた、遅かったわね。心配したのよ」
「パパー!」
出迎えたのは奥さんと娘さんだ。
奥さんは細身で金髪のストレート、愛嬌のある顔立ち。娘さんは七歳くらいで、肩の辺りで切り揃えた薄くオレンジがかった髪が天真爛漫な笑顔と相俟っている。
「ただいま、アイリ!」
ムジナが娘のアイリを抱き寄せ顔を擦り付ける。アイリは「髭イタイー」と奥さんの元に逃げていった。
「あら、そちらの方々は?お客様かしら。」
「命の恩人だ。住むとこなくて困ってるからよ、暫くあの空き部屋貸してやることにした。」
「そうでしたの。妻のエリーです。お二人とも本当にありがとうございました。それじゃあ、急いでお部屋の準備しなくっちゃ!」
部屋の整理に向かったエリーのあとをアイリが追いかけていく。
「そういえば、私を口説こうとしたこと、奥さんに言ったらどうなるのかしら?」
ピキッ。
空気が固まる。
「冗談よ」
ルー………お前の場合、冗談に聞こえないから。
夕食まで時間ができたので、どうやって稼ぐのか作戦会議をすることになった。だが、ルーは何でもできるだろうが、俺は特に得意なこともない。なので、とりあえずギルド行ってこい、という形になった。
ギルド。それは前世でいう会社。大企業。多くの者が、派遣やバイトのような仕事からスタートし、ついにはS級という幹部クラスに上り詰めていく夢を見る、一攫千金、成り上がりの場。武闘派みたいな連中がひしめく、ギラギラした感じなのだろう。
そんなナレーションを考えながら、徒歩3分。ギルドへ到着した。
緊張しながらも、両開きされたギルドの大きな入口に立つ。
そこは予想とは違っていた。三階建てのギルドの内装は白を基調にしていて、中央は吹き抜け。窓からは暖かな日が差し、空気も新鮮。さながら癒し空間といったところだろうか。
「なに、ここ。絶対就職希望ランキングトップだろ。」
入った瞬間、そう思わせるくらい洗練されていた。
少しの間驚いていると受付嬢と目が合ったので、とりあえず受付に話を聞くことにした。
「こんにちは。ギルドで仕事をする場合、どうしたらよいのでしょうか。」
「いらっしゃいませ。ギルドのご利用は初めてでございますね?」
(おー、こんな子供相手にも丁寧な対応。やっぱこのギルド、できる!)
そんなこんなで説明を受けていく。
まあ、よくあるランク制パターンだ。ランクはSランクを頂点にFから始まり、C、Dランクが平均。Bで上級者。Aランクはエリートってところだった。また、その中でもかなりの功績を残した一握りにも満たない人だけがSランクに昇格できるらしい。
可能な依頼もランクにより分けられている。
一通り説明が終わったところで、俺はずっと気になっていた質問をした。
「ところで、お姉さんのその耳って、まさかエロフ………エルフですか! 」
………しまった。噛んだ。
見なくても分かるくらいルーがジト目をしている。視線が痛い。俺は断じてエルフをそんな目で見たことはないぞ。
「ええ、エルフよ。もぉ、この子はどこでそんな言葉覚えてきたのかしら。イケナイ子ねっ!」
お姉さんが優しくて良かった。こんな初歩的なミスで貴重なエルフとの架け橋を失うところだった。
そして俺の中では、こんな人材を雇うギルドの株価は上昇しっぱなしである。
その後も「口説くならもっと紳士的な男性になってからね!」などと言われ、ルーはお決まりの夫婦説でお姉さんをシャットアウトしていた。
それから、俺達はギルドカードを作ることになった。