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55 アリアスの産声

「仕方ないわ。私達でプランを練るわよ!ソフィーラ、アリアスで対抗できる戦力はある?」


 ルーの言葉に、すかさずソフィーラは答える。


「我々海人は、地上の人間のように攻撃は得意ではありません。兵はおりますが、海の魔物には主にバリアなどの防御手段を使って守り、水流操作で作った渦潮で足止めした所を一斉に槍で突く、といった方法を用いていますね。ですが、シリシリグランともなると、防御だけで手一杯となるでしょう。いざという時には姉と協力して大技で仕留めたりもしますが………。」


「その姉は不在中で大技は使えないんだよね?」


「申し訳ありません、アーサー様。」


 ソフィーラがしゅんとして謝ってくる。


「無いものねだりしても仕方ないさ!そういえば、俺が砲撃された時、アレ以外にも魔物は群れをなしてたぞ。シリシリグラン以外にもいることを考えとかないとな!」


「厄介ですね。あとはあのケリアン・ブラッキオとかいう変態ですか。弱ければ即刻捕らえて、魔物を抑えさせることが出来るかも知れませんが………。」


 セフィリアは策を提案したが、拳を軽く口に当て少し思案気味だ。たしかにケリアンを捕らえることが可能なら話は早いだろうが、まずはあの大怪魚をどうにかしないと無理だろう。


 そこで策がまとまったのか、ルーが顔を上げた。


「急ごしらえだけどひとまず作戦を言うわ。私達があの変態と巨大魚を相手にするから、魔物の群れがきた場合、海人たちはそちらの対応をお願いするわね!最悪、粘ってくれれば後から私達が片付けるから。」


「了解しました。」


「どうやって海の中で戦うんだ?」


 いくらルーとセフィリアが逸脱した強さだとはいえ、海の魔物相手ではやはり海中での戦闘は不利だろう。

 しかし、ルーはそんな疑問顔の俺達に向け、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「簡単よ。あんなマヌケな格好しなくても戦えるわ!要は海の中じゃなければいいのよ。闇の大賢者の力、見せて上げるわ!それじゃあ、詳しい説明と行きましょうかっ!!」


「ルーテシアさんっ!その前に、そこは『闇の~』ではなく『漆黒の~』でお願いします!」


「………セフィリア。それは今、重要視する事なのかしら?」


「何を言ってるんですか。むしろ最重要ですよ!これから、いえ、ここから王国だけでなく、世界がルーテシアさんを知ることとなるのです!呼び名は重要な問題なのです!一ファンとしてっ!!」


「はぁ………分かったわよ。じゃあ漆黒の大賢者………説明いきまーす。」


 緊迫したシリアス展開のはずなのだが、セフィリアの変なツッコミで台無しだった。ルーも目に見えてヤル気が失せている。


「アーサー様も大変ですのね。」


(ソフィーラ………あんたが言うなよ!ベクトルが違うだけで君もセフィリアと似たようなものだからね?)


 セフィリアの立ち位置を理解したのか、ソフィーラが俺の苦労を偲ぶような言葉をかけるが、自分が天然ボケキャラということは自覚出来てないらしい。困ったものだ。


 ルーに作戦聞かされた後、俺達三人はバリアの外へ出るため街の端へと移動した。

 サリューアも変人との話を続かせるのは限界だろうから、適当なところで切り上げてもらった。




 ***


 海皇サリューアは自称マッドサイエンティスト、ケリアン・ブラッキオと拡声器を通して時間稼ぎをしていた。その脇ではソフィーラとアーサー達が現状把握と討伐作戦を練り始めていた。


(ソフィーラ、お前の姉は今は海神の社だろう!)


「その魔物は貴様が作ったというのは本当か?」


 サリューアは作戦会議に耳を傾けながらも会話も続ける。


「そーです。おもしーろいでーすよ?あ、そーでした。今わたーしが海の中で自由にー動けていーるのは、海人の因子ーを取り込んだーからでーす!なかなーか興味深いー実験でしたーよっ。その節ーはお世ー話になりましたっ!」


(なんだと。まさか、海人を!?くそったれがっ!………おい、ちょっと待て。こっちはこっちで何やっているんだ!なっ、アーサー!?そんなことしたら壊れ………あーあ。耐久力不足ですねっじゃねーよ。少しくらい不恰好でも、せっかく作ったんだからかぶってくれよ!)


 外の敵にも内の味方にもサリューアは苛立ちを覚えるが、海皇として冷静に会話を続ける。


「くっ………そうか。だが貴様、それだけの才能をもちながら何故人の役に立つことをしないのだ!文化も大いに発展を遂げるであろうし、名声も得るだろう?」


「おやおや?どうやーら先程の言葉ーに怒ーりを覚えましーたか?思った以上ーに動揺してるみーたいですーね?文化ーも名声ーも私を満たすもーのではないーのです!」


 それからも会話は続く。横では作戦が決まりアーサー達が行動を開始している。準備ができ次第、話は打ち切ってよいという、アーサーからの指示にサリューアは一つ頷いた。



 そして、数分後。


「そーれではそろそーろ、水のタマスィーをいただいてーも………よろしいですか?」


「ふん、貴様との煩わしい会話もこれで終わりにしよう。それと水のファクターの代わりに彼らを紹介しておくよ。じゃあな!生命を弄ぶこの外道がっ!!」


「な、なにぃを言ーって………むっ!?」


 突然サリューアの態度が変わったことを不審に思った瞬間、またがる大怪魚シリシリグランの背後に何かが動く気配を感じた。振り返ったそこには、一人の少年と二人の少女がいた。銀髪の少女が巨大魚に触れており、その手の先に大きな魔力を感じた。


「何でーすか?あな──」

(いくわよ!強制転移っ!)


 アリアスの上部にあった巨大な影は、突如海底から姿を消した。戻ってきた平穏な明るさと一拍遅れて起きた民の歓声が海底都市を包む。


 嬉々とした空気がアリアスに広がりをみせる中、サリューアは再び拡声器を持ち、街の方を向いた。


「アリアスに住む皆の者よ。まだ終わりではない!そして、今日が予言の日となった。時は来たのだ!あの化け物は地上から来た予言の救世主が相手をしている。その間に我々はこれから訪れるであろう魔物の群れを迎撃することにした。皆の者よ、これは海人族の存亡を賭けた戦いである!各人出来ることで良い。このアリアスを守るために立ち上がるのだっ!!」


 海皇の檄を耳にした都市の至る所から活力に満ちた声が聞こえる。今まで攻められる事もなく、しかし心の片隅で感じていた予言に対する不安。そんな不安に立ち向かおうとする民達の勇敢な声。それはさながら、海底都市アリアスが上げた産声のようだった。


(頼んだぞ、予言の者らよ。)


 海皇は隊列を成す兵を指揮し、来たる魔物の群れに対する迎撃準備へと入った。




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