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51 海上の洞窟

「よし、そろそろ乗り込め~。」


 海底都市を目指して、俺達は船に乗り込むところだった。協力してくれたのは漁士だったマスターの元船員だ。皆、筋骨隆々のマッチョで気の良いオッサンだ。戦闘をする漁士というだけあって漁船も大きめだった。船の側面には船名として『不沈艦タイタニア』と書かれていた。


「どことは言わないが、逆に沈みそうな名前だな。座礁とかしないよな………。」


「大丈夫よ。ここには氷山なんてないもの。まあ魔物はいるけど………。」


 俺の呟きに対してさらに不安を煽る一言を残して、ルーは先に乗り込んでいった。


「おーい、早く乗れよ~。」


「はーい!………ほんと、大丈夫だよな?」


 不沈艦タイタニアというフラグっぽい名の漁船に不安を覚えたまま、船員に急かされた俺は船に乗り込んだ。




 目指す島はそこそこの距離にあるようだ。タイタニアは穏やかな海を進んでいく。とくに魔物も出ず、座礁して沈没するなんて事もなかった。順調そのものの航海だ。数十分もすると、目的の島が見えてきた。


 島は小さかった。満ち引きで海に沈むのだから当然といえば当然だが………これは島と呼べるのだろうか。ただまっ平らに加工された岩場の上に洞窟のようなものがある。そんな感じだった。


 上陸した俺達は、漁士に別れを告げる。待たせるわけにもいかないので、帰りは渡しておいた通信の魔道具で連絡することにした。



「話ではここから海底都市に繋がる転移魔法陣があるんだよな?」


「どこかしら………て言ってもあの洞窟しか行くところはないんだけどね。」


「では、参りましょう。」


 洞窟に入ると、中は緑っぽい仄かな光が灯っている。よく見ると壁の所々が光っていた。奥には少し広がった空間があり、地面に魔法陣らしきものが彫られていた。


「あったな、魔法陣。となると、この溝に魔酒を流し込むってことでいいんだよな?」


「そのようですね。では早速流してみましょう。」


 俺は魔法の鞄から魔酒を取り出し、栓を抜く。瓶を傾け、少しずつ銀の液体を注いでいく。一通り全体に行き渡った時、魔法陣が輝き出した。しかし、妙な事にその輝きは不自然な明滅を繰り返していた。


「なんかヤバそうな雰囲気なんだけど。これって普通なのか?普通じゃないよな!?」


「特殊な方法だから分からないけど、たぶん失敗ね。ちょっと調べてみるわ。」


 ルーが魔法陣を調べ始めたので、俺は確認作業に入ることにした。


「ノア、頼む。」

「ピキー!」


 ポケットから勢いよく飛び出たノアは洞窟の壁にレーダーを投射した。水アーティファクトに対応する光点は中心に位置している。つまりこの真下にいるということになる。

 確証を得て一安心したところで、ルーが戻ってきた。


「どうやら魔法陣の一部が欠けているのが原因みたい。修復しないとダメみたいね。とりあえず土魔法で応急処置してみるわ。ノア手伝って~。」


「ピキッ。」

 

「じゃあ、私とフェイとアーサーは欠けた箇所を探していきましょう。」


「そうですね。じゃあ、皆で一仕事頑張りますかっ!」


「キュー!」


 俺達は魔法陣修復作業に取りかかった。




「ノア、こうやっていくのよ。」


 ルーがノアに手本を見せる。魔法陣の溝が見事に成形されていく。


「やってみて。」

「ピキッ!ピピピキ~………ピキッ?」


 ノアもルーに倣ってやってみようとするが、いまいちやり方が分からないようで上手く魔法が発動しない。


「ノア………あなた、この魔法は使えないのね?そっか………複合魔法まで使えるから、てっきり私と同じように何でも使えるものと勘違いしていたわ。この魔法は吸収してないもんね。ゴメンね!」


「ピキュ~。………ピキッ!」


 進化していろいろ規格外のスライムになりつつつあったノアだが、よく考えれば、特訓中も食べた魔法石に封じた魔法しか使用していない。修得していないのだ。

 しかし、ノアはルーに謝られて少し落ち込んだ様子の後、何か閃いたかのように欠けた溝の上に覆い被さった。


「おぉ、これは!」


 ノアが溝から離れると、そこには光沢のある溝が形を成していた。


「これは、メタル化ですか?金属膜で覆うことで欠けた部分を補ったのですか!?」


「凄いわ、ノア!あなたの一番の能力はその応用力ねっ!」


 ノアは誉められて嬉しいのか、ぴょんぴょん飛び跳ねている。そういえば『アースウォール』の魔法もメタル化してたな。それと原理は同じってことか。



 俺達が手分けして欠けた箇所を探し、ノアとルーがメタル化や土魔法でそこを埋め、魔法陣の溝を綺麗に仕上げていく。溝に溜まった魔酒が新たに補修された溝に流れていく。


 作業も終わりに近づき一安心したのか、俺は尿意を感じたので、海底都市に行く前に用を足すことにした。


「ちょっとお花畑でお花摘んでくるよ~」


「は?お花畑って、この島のどこにそんなものがあるんです?………もしや、幻覚を見てるのでは。アーサー、しっかりしてください!」


 セフィリアが妙な勘違いから剣に手をかけている。


(ちょっと待てー!その剣何に使うつもりなんだよ。幻覚の覚まし方か?幻覚どころか永遠の眠りに就かせるつもりじゃないよな?)


「セフィリア、お花摘みはトイレに行く事の隠語よ。この世界では馴染みのないものだけど。ちなみに美少女アイドルの私はトイレなんて行かないけどねっ!」


「そうでしたか。トイレならトイレと言えばいいものを。あっ、元聖騎士隊長な私も、トイレなんて行ったこともありませんよ?」


 何だろう、この流れ。俺にトイレ行かせない包囲網だろうか?


「だが、俺は行く!トイレという名の大海原へ。覗くなよ?」


「はいはい、早く行ってきて~。もう完成するから。」


 俺は用を足しに洞窟を出た。



 澄み渡る空、照りつける太陽、音を奏でる波。心地よい解放感に浸ったところで、俺は再び洞窟内に戻ろうとする。しかし、ふと違和感を感じて足が止まった。


「最初来た時よりもなんか海が近くなって………あっ!」


 俺は急いで皆の所に戻る。


「皆、急ぐぞ!潮が満ちて………って、あれっ?」


 誰もいなくなっていた。広間までは短い一本道なので間違いようがないし、床には魔法陣も彫ってある。隠れて驚かそうとしてるのか?


「隠れてないで早く行くぞ!潮が満ちて来てるから時間ないんだって!」


 俺の声が洞窟内で反響するばかりで、誰の返事もなかった。


「どういう事だよ!?………まずは落ち着け、俺!この状況、タイトルつけるならまさに『トイレ行ってる間に死亡フラグが立ちました』だよな。それとも『頭脳派転生者の脱出劇──ピンチはチャンス(笑)』だろうか。いやいや、ピンチはピンチだよっ!」


 バカな事言って落ち着きを取り戻すことに専念した。パニックになったら完全アウトだ。


 逃げ場のない俺は、ひとまずこの突然の状況を分析する事にした。

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