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50 カドカニのマスター

「あの酒は海底都市でもらった酒だ。」


「えぇーっ!!マスター、海底都市に行ったことあるんですか?」


「………あるよ。」


 驚きの事実を暴露したマスターは、相変わらずの無表情でグラスを拭きながら語り始めた。



「あれは、よく晴れたとある日の事だった。漁士をしていた俺は、船長として仲間と沖に出ていた。」


 沖に出ていたマスターと数名の船員は、漁の途中で大きな海の魔物に遭遇しかけたそうだ。遠目だったのでまだ気づかれていないようで、無駄な戦闘をする必要もないと、彼らは引き返そうとした。


「そんな時、不意に目に入ったんだ。女がその魔物に捕まっているのが。よくよく考えてみれば、こんなとこに女なんているわけないんだが、考えるまでもなく俺達は助けに向かった。」


 近づくにつれ、姿が露になった魔物はタコのような魔物で、その足に女が絡めとられている。マスターは即座に剣と銛を持って魔物へと飛びかかった。同時に仲間が銛の投擲などで目潰しや海上に出ている頭を攻撃し、援護する。


「俺はその隙に彼女を捕まえている足を切り飛ばし、解放してやった。彼女が逃げるのを見て一安心したんだろうな………そこで、ヤツの残った足に一撃受けちまった。」


 魔物は荒れ狂い、船に狙いを定める。仲間達はその後、船に残った者を第一にするという掟通り、沈んでいった船長であるマスターのいる海へ銛による爆裂スキルを放ち、魔物を始末したらしい。それから、穏やかになった海中を探すも、マスターの姿は見当たらなかったという。


「目を覚ますと、俺はベッドに寝せられていた。側には看病していたのか、助けた女が眠っていた。そして、体を起こして俺は違和感を感じた。魔物にやられたんだろう………片足がなくなっていた。」


 ズボンの裾をスッと引き上げ、マスターは棒状の義足のついた足を見せてきた。


「目を覚ました彼女は泣きながらに謝ってきたよ。」


 どうやら彼女は海底都市で巫女をしているようで、海の社に奉納に行っていたらしい。その帰り、普段は目にしない魔物に襲われたという話だった。


「そして、帰り際に海底都市を納める王にその酒を渡された。これを飲める者を探してほしいと。海底都市には予言が伝わっており、その酒を飲める者が将来都市に起こる災いを退けるという内容らしい。」


 彼らの正体は、外見は基本普通の人間だが、海人──ウミビト──と呼ばれる者のようだ。海人は水中でも呼吸ができ、泳ぐ際には鱗が現れ、人魚のように速く泳ぐこともできる。そんなレアな種族らしい。


「王に頼まれ、さすがにこの足じゃ漁士を続ける事もできないんで、俺は酒場を開いてマスターをする事にしたんだ。」


 視線を上げたマスターは酒場の面々を見て、無愛想な中にもどこか微笑ましそうな顔をしていた。



「へぇ~、そんな事があったんですか。」


「で、このお酒はなんなの?」


 元より酒好きの漁士だ。酒について多少は知っていた。この魔酒も噂くらいなら聞いたことがあったそうだ。


「この酒、実は度数は高くない。王が言うには、詳しくは分かっていないが、魔酒が体内のマナと混じり合い、別の物質になるそうだ。魔酒と結合することでマナが消費されるため、二口目にはマナ不足となり倒れるらしい。なので、三口目を口にできる者はそうそういないことになる。」


「じゃあ、なんでアーサーは倒れてないんでしょう。特異体質とかでしょうか?」


 そういえば、いつの間にか三口も飲んでたが身体には何の支障もない。精神は抑えきれなかったが。


「俺は知らんが、普通は三口目を飲んだ者は、魂まで侵食されて永遠に夢の世界らしい。小僧は多少吐き出させたから問題ないだろう。」


 あのまま飲んでたらどうなっていたのだろうか。


「この魔酒を何口も飲めるってことは、マナが無くても動ける人物を探してるってことなの?」


「………知らん。飲める者というだけだ。あとは海底都市で聞きな。」



 海底都市への行き方だが、干潮時に現れる島に内外を繋ぐ転移魔法陣があるらしい。この魔酒を使って魔法陣を動かすという話だった。


「そういえば、海底都市には空気があるんですか?」


「………あるよ。外敵から守るためにバリアを張ってる。」



「とりあえず、海底都市はどうにかなりそうだな!ところでなんで俺にあんな酒飲ませたんですか?」


 マスターは他の客への酒を作る手を止め、こちらを正面から見据えた。


「………こんだけ人見てれば、人を見る目もできる。お前は酒に酔わないんだろ?変わったヤツだから試しただけだ。」


 マスターの言う通り、俺は昔から酒には全く酔わない体質なのだ。見た目で分かるなんて、マスター………あんた何者だよ。


「見ただけでそんなことまで見抜けるなんて、もう鑑定魔法さながらですね。………あれっ?では最初に私が飲んで倒れたのは無駄だったのですか!?」



 セフィリアは俺が黙っていた事実に気づいてしまったようだ。世の中気づかない方が良いこともあるというのに。



 マスターに魔酒と紹介状をもらって、俺達はガヤガヤと騒がしい酒場を後にした。

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