5 自己紹介からの
あれから助けたオッサンとともに街に辿り着いた。
街は意外と大きく、商人が行き交う姿が多く見られる。第一印象は、活気に溢れた良い街、といったところだ。そんな街並みに驚いていると、彼に「命の恩人なんだ、メシくらい奢らせてくれ」と言われ、俺達は案内されるがまま食事処に来ていた。
「俺はムジナだ。鍛冶屋をやってる。さっきは助かったぜ!改めて礼を言うよ。まさかあんなところでゴーレムに出くわすなんて思わなくってよ、ついつい気合いが入りすぎちまった。」
(鍛冶師………剣士じゃなかったんだな。)
話によると、どうやら街の周囲に広がる草原はゴーレムの生息域ではないらしく、偶然見つけた良い素材にテンションが上がったそうだ。しかし、浮かれすぎてあんな状況じゃ目も当てられないな。
俺達も続いて自己紹介をした。
「俺の名前は………アーサーだよ。」
「絶世の美女ルーテシアよ。」
自分のあだ名を自分で名乗るなんておかしな感じである。それにしても、ルーってちょいちょいこういうの挟んでくるよな。自分で言うのはなかなかイタイものがある。
「アーサーにルーテシアか。お前らあんまり似てないけど姉弟か?」
「いいえ、夫婦よ!」
ブーーッ!げほっげほっ。
ルーはごく自然を装った呈で嘘情報をムジナに刷り込んでいた。恐ろしい女だ。これって後々気づいたら俺包囲網が出来てた、なんて事はないよな?
「あなたの目は腐っているのかしら。良かったら私が取り替えて差し上げますわよ?」
「い、いや、もちろん分かってたさ!だが、もし違ったら命の恩人に失礼だと思ってよ!お前ら程似合いの夫婦はいねぇよ。」
ムジナの顔色が目に見えて青くなっている。汗がすごい。さっきの草原での脅しが余程効いたのだろう。対してルーは気を良くしたのか、「そう、あなたも御世辞がうまいのね」などと言いながら頬を紅潮させていた。
だが、そのような戯れ言をこのまま認めるほど俺は甘くない。
「あー、ちゃんと訂正しますよ?友達みたいなもんです。」
俺の言葉にルーはぷーっと頬を膨らまし、ムジナは「お似合いなんだがなー」とルーに睨まれないようにしていた。
***
運ばれてきた料理は、前世で食べていたのとそれほど大きな違いはなかった。謎の肉とか謎のスープとか、少し特定不能な素材が混ざっている程度だ。
「ところで、お前らはこれからどうするんだ?」
「んー、まだ何も決めてないんだよな。修行もしなきゃだし。………どうする、ルー?」
俺はまだこの世界の事を何も知らないし、まず何をすべきかも頭に浮かんでいなかった。するとルーが勢いよく立ち上がり、真剣な面持ちで答えた。
「最優先事項があるわ!」
何だろう。
最優先っていうからには、かなり切実な内容に違いない。
「お金よ!泊まるところも食べる物も何もないわ!」
オーマイガッ!言われてみればたしかにそうだ。しかし、俺が持ってないのは当然としても、ルーまで持ってなかったのは大誤算である。まぁ封印されていたから仕方ないか。例え持ってても使えるかどうか分からないし、古いお金だと下手したら不都合な事態に巻き込まれ兼ねない。
(はぁ~、どうしよう。無一文とか、マジか~。どうすんだよ!いきなり路頭に迷うなんて。こんなの、もう最終手段使うしか………。)
俺は意を決した。
今こそゲームで学んだ知識を生かす時が来たのだ!そう、冒険はいつもそこから始まるものなんだ!!
「なぁ、ルーさんや。たしかゲームでは民家やお城の宝物庫に侵入し、稼ぎにしてよいというルールがあったはずじゃが?」
「それはナイスね!まずはこの店の売り上げから頂戴しましょうよ!」
「てい!」
俺達はムジナにチョップされて我に返った。冷静に考えると、俺は今なんと浅ましい考えをしていたのだろう。お金の魔力、恐るべしだな。
「そんなルールねぇよ!!なぁに、いつもの事です、みたいなノリで強盗企ててんだよ。特にルーテシアは本気でやりそうで怖ぇよ!しっかりしろよ、命の恩人っ!………ったく、しゃーねぇなぁ。」
ムジナは頭を掻きながら、手のかかる子を世話するように言った。そして、そんなムジナから素晴らしい提案がなされる事となる。
「金が溜まるまでは、狭いがウチの空き部屋使わせてやるよ。その代わり家の事を手伝えよ!」
「えっ、いいの!?ムジナー、ありがとー!危うくこれからずっと野宿になるとこだったよ。」
気がつけば、俺はムジナの手を取り、感謝と共にブンブンと上下に振り回していた。この時点で衣食住の内、食と住は確保されたも同然である。
俺は思った。神はまだ見捨ててはいなかったのだと。
そして、俺もムジナも知らなかった。ムジナを助けたあの時から、彼女の思惑通りであったということを。
(いろいろ考えてたけど一手目でいけたわね。案外楽に寝床ゲットできたわ!)
そんなルーテシアにも読めなかったことがあった。
(それにしても、私より先にアーサーがあんな強奪的なことを言うなんて。私の思考を読んだのかしら?………いいえ、違うわ。これは相思相愛なのよ!私達、どんだけ相性いいのよ!!)
急にデレデレ顔でクネクネし始めたルーテシアを見たアーサーとムジナの二人は思う。
(この先………大丈夫か?)